待ち受ける敵
そこは、使われなくなって十年は経っているだろう病院だった。
窓から見えるカーテンはボロボロで、落ち葉が大量に溜まり、壁の汚れを落とす者もいない。
大型病院の跡地。そこに、俺達は来ていた。
与一と俺と紗理奈は既に外に出ていて、最後に刹那が外に降りて車のキーを閉める。
「……まあ、もう堕天した精霊達は移動したと思われるけどね。暗躍して起こした新興宗教も尽く潰され、拠点もバレ、どこに行ったと言うのか……」
「アリエルさんの来訪以降、ここを訪ねた者は?」
与一が問う。
「私達が初めてよ」
刹那の回答は意外なものだった。
「意外だな」
それは与一も同じ感想のようだった。
「天使一人が失踪した。調査部隊ぐらいは出しそうなものだが」
「逆に考えてみなさい。天使一人で手に負えないシチュエーションが考えられる。室月様は待っておられたのではないかしら。まとまった戦力を」
「……俺が捜索に乗り出すことも織り込み済みだったってことか」
アリエルの行き場所の情報を出し渋ったのもとんだ芝居上手といったところだ。
「鬼瓦を倒し、エイミー・キャロラインと対峙した男。対精霊の切り札としてこれ以上のエースはないわ」
「なるほどね」
やれやれ、といった感じで紗理奈が同意する。
刹那の冷静な分析に俺は感心していた。
俺達は廃病院の入口に立つ。
鍵は、開いていた。
「此処から先は鬼が出るか蛇が出るかわからないわ。各々、戦闘に備えて。最悪、複数の精霊と戦闘になるケースも考えられる」
「あまり考えたくはないが、心得た」
与一はそう言って、日本刀を構える。
紗理奈も、札を取り出した。
刹那はこれと言って準備をした様子はない。
俺も、短剣を両手に握りしめた。
扉を開ける。
広いホールが俺達を出迎えた。
「いる」
刹那が言う。
「同化型が、六体」
緊張が走った。
強力な同化型。それも六体。今まで相手をしたことがない数だった。
続く




