疑惑の人物
「そりゃ六階道で決まりだろ」
俺の疑問の答えは五階堂はじめによって明かされた。
「あの仏教被れのパープリンで決まりだよ、決まり」
そう言うのはまだ中学生ぐらいの少年だ。
「この子も紗理奈さんみたいに大人だっていうオチ?」
俺の台詞にはじめは不快げに眉をひそめた。
「子供が当主で悪いかよ」
「いや、滅相もない」
下手なことを言うものではなかった。
「五階堂はこう見えて六大名家当主随一の使い手でな。特に風の術を使わせると強い。才能を認められてこの歳で当主をしている」
与一は面白がるように言う。
「そういうことよ」
はじめは上機嫌に言う。
「仏教被れ、と言うと?」
「六階道の奴は、安倍晴明が輪廻の輪から外れていることが許せないんだよ」
はじめは呆れたように言う。
「だから常々言うのさ。トドメを刺してやるべきだと。そんなの、どんな被害が出るか想像もつかないや」
神と人間の間の子。その力が開放されればどのような被害が発生するかは想像し難い。
鬼瓦の比ではないだろう。
「そもそも、安倍晴明は朝廷権力に取り入り操るために自らの力を使った。そのやり方が巧妙で天界の発覚も遅れた。卑怯な男だ。封印されてしかるべきだと思うがね。あのサイコ女は聞きやしないんだ」
そう言ってはじめは天を仰ぐ。
「それではじめ、岳志君の陰陽連への案内の件だが」
「六階道の尻尾を掴めるなら俺はなんでもいいさ。どうにでもしてくれって感じ」
とんとん拍子でここまで話が進んできた。
「後は肝心の六階道さんか」
「曲者だぞ」
与一は無表情に言った。
紗理奈も憂鬱げだ。
二人がこんな表情になるなんてただ事ではない。
俺は覚悟を決めなければならなそうだった。
そして連れてこられたのは西院のビルの上。
夜景を浴びて佇む濡烏色の髪の女性を見て、俺は息を呑んだ。
無機質にも見える感情の浮かばぬその作り物めいた顔立ちに、目を奪われたからだ。
続く




