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あっ

「たーけーしー!」


 そう叫んで、エイミーが駆けてくる。

 そして彼女が飛びついてくると、俺達は橋の上で抱き合ってくるくると回転した。


「いい風だねえ」


 本当に数時間後にやって来やがった。

 新幹線があるとは言えとんでもない行動力だ。


「芸能人ってのは暇なのか?」


「ううん、八時から収録あるよ。だから一時間ほどしたら帰る」


 さらりと言う。


「マネもさぞ苦労してるだろうな」


「ふふふ、内緒で飛び出してきちゃった」


「エイミー・キャロライン」


 紗理奈が、冷たい声で言う。


「貴女は芸能人。そんな風にべたべたしていて盗撮でもされたら、スキャンダルになるのでは?」


「誰もこんなとこに私がいるなんて思ってないよ。帽子もサングラスもしてるし」


「けど、貴女の声は特徴的です」


「誰、この子。陰陽連の誰かのお子さん?」


 エイミーが囁いてくる。


「これでも私は貴女より歳上です」


 耳ざとく聞きつけた紗理奈が苛立たしげに言う。


「え、ほんと?」


 エイミーが無垢に聞く。

 紗理奈はお約束となっている運転免許証の披露をした。

 その生年月日を見てエイミーが目を丸くする。


「はえー、本当だ。これは失礼しました」


「気をつけることですね。芸能界で似たようなことをした日には貴女、大騒動よ」


「気をつけます」


 エイミーは再び囁く。


「私、嫌われてる?」


「むしろ好かれてて興味津々だったと思ってたが」


「はーん」


 エイミーはなにかを察したような表情になる。


「岳志、この子とㇱた?」


 思わず、咳き込む。


「お前は俺をなんだと思って!」


「じゃああれか、六華ちゃんに似てる子なんだ」


 俺の疑問を、エイミーはサラリと言語化した。


「六華に……?」


 しっくりと来た。

 エイミーと付き合いたての頃、エイミーに嫉妬していた六華に、今の紗理奈はよく似ていた。


「さっきからヒソヒソと。私を仲間外れにするのやめてもらえません?」


 紗理奈は不服げに言う。


「ごめんごめん。紗理奈さん? 私エイミー、よろしくね」


「よろしく、エイミー。神に限りなく近づいた少女。その」


 そう言うと、紗理奈はメモ帳を取り出した。


「この際なんで、サインお願い」


「ん、お安い御用」


 そう言うと、エイミーはボールペンをポケットから取り出して、さらさらとメモ帳の上に走らせた。


「お前、ボールペンなんて常備してんの?」


「マジックペンもあるよ? どこでサイン求められるかわかんないからねー」


「すっかり業界人だなあ」


 メモ帳を眺める紗理奈の表情は輝いていていて、それだけで俺はエイミーがここに来て良かったと思った。

 異境に来て出会った、妹と似た少女。

 彼女と上手く付き合っていけたらと思う。



+++



 長髪の男が枝を片手に周囲を観察している。その眼光は鋭く、その立ち振舞に無駄はない。

 ただ、少し苛立たしげに見えるのは気のせいか。


「あの男、使えるな」


 そう、誰かが言った。



続く

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