や、やあ
「じゃあ、予定通り私は府内を見回ってくるにゃ」
そう言って、アリエルがバックを持って立ち上がる。
趣味の品がないとこの駄猫も勤勉になるものである。
俺も気乗りしないが立ち上がった。
昨日居酒屋でさんざん絡まれた身だ。正直、ちょっとというかかなり気まずい。
しかし、それを表に出さないのが大人というものだろう。
まあ、俺は子供だが。
待ち合わせの場所に行くと、紗理奈が待っていた。
「や、やあ」
気まずげに言う。
おや。
気まずげなのは先方も一緒か。
これは相当酔ってたな。
「よ。酔っ払ってやらかすのはいつものことなのか?」
「いつもじゃないよ。やらかしでもない」
意地を張るように言う。
やらかしだと思うんだけどな。
俺達はお守り屋に入った。
そこには色とりどりのお守りが飾られている。
「あのー、紗理奈さん?」
「なんだい?」
調子を取り戻した紗理奈がドヤ顔で言う。
「魔道具屋と聞いていたんですが」
「ここがその一つ。店長。裏メニュー頼むよ」
「陰陽連のお嬢ちゃん。承知承知」
そう言うと、店主は奥に引っ込んでいき、赤いお守りを一つ持ってくる。
「そこの兄ちゃんと波長が合うものを一品持ってきた。後は、お兄ちゃんに資質があるかだ」
俺は息を呑む。
全ては、俺に委ねられようとしていた。
お守りを握る。
「いい。クーポンの世界を開く要領で、お守りに魔力を込めるんだ。そうして資質があれば、魔道具は君に反応してくれる」
クーポンのスイッチを押す時の気持ちで念じてみる。
すると、赤いお守りが姿を変えた。
二本の短刀が、俺の両手にあった。
店長がにやりとした表情になる。
「それは退魔の短剣。悪霊だけを切る陰陽師専用の短剣よ。しかし二刀とは珍しいものを見た」
「本当にね。貴方、二刀と縁があるの?」
「使いやすいってイメージついちゃってるからかなあ」
自分に身についている野球の動き。それから離れるための二刀。ヒョウンの訓練で示された道だ。
「それじゃ、与一と合流しましょうか」
そう言って、紗理奈は店を出る。
「紗理奈さん、なんか余所余所しくない?」
「そんなことないわよ」
「やっぱ思ってるでしょ、やらかしたって」
「……早く行くわよ」
これだもんなあ。
思ったより面白い人のようだった。
続く




