京都タワーで会いましょう
京都タワー。
京都駅の向かいにある建物。
その店内の小綺麗な土産物屋を物色しながら俺は待っていた。
先輩にはなにが似合うだろう。そんなことを考えながら。
「や、待たせたね」
紗理奈が背後から声をかけてきたので、俺はびくりと振り返る。
「あはは、そんなビクビクしなくてもとってくやしないってー」
そう言ってケラケラと笑う。
外見はともかく、年上の余裕というものが感じられる。
「じゃ、行こうか」
「どこへ?」
「そりゃー、飲みのお供に。君には個人的に聞きたいことが山ほどある。与一だってそれは一緒じゃないかなあ」
「じゃあ与一さんも一緒でいいじゃないですか」
「わかんないかなあ」
悪戯っぽく微笑む。
「君に個人的に興味があるって言ってんの」
どうしよう。驚くほどどきりとしない。教育実習生が小学生にからかわれているかのような。
俺は鮮魚を楽しめる居酒屋に連れ込まれた。
「それでさー。鬼瓦の奴をどう倒したの? ありゃどう見ても一般的な人間が倒せる範疇の悪霊つきじゃなかったけど」
「あー……それはですねえ」
「これからは背中を預ける身。ある程度の戦力は明かしておいてもらわないとね」
俺は無言で決闘のクーポンを開いた。
白い世界が周囲を包み込む。
「天界の住人から与えられた力です。決闘のクーポンと迷宮のクーポン。この世界で俺は経験値を得て、超常的な力や魔力をこの世界でだけ駆使できる」
一足飛びで紗理奈の背後を取る。
「例えばこんな芸当も可能です」
「へえ」
紗理奈は目を丸くして振り向いて、舌を巻く。
「魔力の方は?」
「氷と炎を少々。雷もあったけどそれは女神に封じられました」
「はっ、雷と来たか」
紗理奈は滑稽そうに笑う。
「君は菅原道真公の生まれ変わりだな」
「どうも」
褒められているのかどうかわからない。
「わかったよ、十分だ。その力を制御する反射神経。脅威に値する。閉じてくれ」
元いた世界に戻る。
丁度、料理と飲み物が運ばれてくるところだった。
紗理奈は飲み物を一気飲みすると、おかわりを頼む。
どう見ても味を楽しんでいるようには見えない。
まるで、私はこれだけ飲めるのよとアピールしているかのような。
「エイミー・キャロラインとは実際どーなの?」
「エイミーと、ですか」
「生々しい話、お姉さん好きよ」
お姉さん、と言われても今ひとつピンと来ない。
なんとなくわかりかけてきた。
この人は、言動で、行動で、目一杯背伸びしているのだ。
年相応に、いや、それ以上に見えるように。
「ぶっちゃけキスまでですね」
「へー」
意外そうに言う。
「じゃあアリエルって子とも?」
「あの駄猫となんてアリエナイ。どこから出てきた発想すか」
「いやね、火災現場から三人で逃げ出してきたのは三人で盛ってたのかなって」
「下賤が過ぎる発想っすよ……」
半ば呆れて、オレンジジュースを飲みながら視線を背ける。
その口元に、キスをされた。
「キスぐらい、私だってできるぞ」
悪戯っぽく微笑んで言う。
俺はしばらく唖然としていたが、そのうち彼女の頭をよしよしと撫でていた。
彼女が、初めて蝋梅の表情を見せる。
「はあ? なにそれ! 私、キスしたんだけど?」
「いや、頑張ったなあと」
親戚の子供と事故で接吻してしまったような感情しかなかった。
誰かと似ているんだよな、こいつ。
誰だろう。
そんな事を考えながら、初対面の夜は過ぎていった。
続く




