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エイミーのその後

 この騒動で意外なことにというかなんというか一番役に立ったのは、アリエルだった。

 もしも俺一人だったら、何故エイミーの部屋に俺一人がという話になっていただろう。

 そこにアリエルがいたことで、友人二人が現場に駆けつけたという構図が成り立った。

 まったく、駄猫も馬鹿にできないものである。


 軟式王子フィーバーは再燃し、幼馴染、それも今をときめく芸能人を救出したヒーローとして大々的にお茶の間を賑やかせている。

 外出の際にサングラスとマスクを付けるようになった俺を見て、先輩は甚だ呆れた表情になったものである。


 そんなある日、エイミーと会話する機会があった。

 場所は、いつものアヒルボートだ。


「で、結局引っ越し先は見つかったのか?」


「業界のツテを頼ってなんとか……なんたって通帳も財布も粗方焼けちゃったしね」


 肩をすくめて言う。


「痛いのがパソコンの消失。パスワードなんて一々覚えてないっての」


 それは一大事のような気がしたが、さらりと言うエイミーだった。


「で、私に大量のファンがついたのがマズかったんだ?」


「ま、有り体に言えばそうなるけど、もうマネもいなくなったから好きにやればいいんじゃないかな」


「次のマネ選びにはアリエルちゃんにも同席願うわ……」


「まだ芸能界でやっていく気か?」


 俺は、芸能界なんて辞めちまえよって言ったはずなんだけどなあ、と思う。

 こいつには、こういうところがある。

 俺が嫌がっても同級生の男子の話題を出すので嫌気が差して距離をおいたという過去がある。


「だってさー、契約が残ってるんだもん。なまじ有能なマネだったから長期でさ。違約金は私も嫌なのよ」


 でたでた。


「ま、朝ドラも急に配役変更とはいかんよな」


「そうなのよー。それに昼の番組も一年契約してるし」


「一年?」


 俺は素っ頓狂な声を上げる。

 周りの視線が俺達に集まり、俺は慌てて口を閉じた。


「ちょーっと物語を閉じるまで長期戦になりそうなのよね」


「その間一緒に遊べないわけか」


「今、遊べてるじゃん」


 エイミーはにやり、と微笑む。


「芸能人とお忍びで遊ぶのは嫌いですか?」


 俺は背もたれに体重を預けて、天を仰ぐ。

 そして、数秒考えた。


「スキャンダルになれば先輩を巻き込むから、嫌だね」


「いけずだなあ」


 エイミーは苦笑した。

 少しばかり残念そうな表情だった。

 幼馴染は助けた。

 俺は、一仕事終えたのだ。


 この先、エイミーはどんどん遠くへ行くだろう。

 手の届かないところまで行くだろう。

 けど、必ず帰ってくる。

 俺は、何故か無条件にそう信じていた。



続く



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