エイミー・キャロライン
「あー、エイミーだ。可愛いー」
そんな女子高生の声が聞こえてきて、思わず俺は振り返った。
なんのことはない、街頭テレビだ。
朝ドラも架橋。エイミーは初出演にしては良い役を貰ったらしく、未だに出続けている。
「こんなに可愛い子を振った軟式王子ってどんな人なんだろうね」
「俺ならキープしようとか思っちゃうけどなー」
「サイッテー。そういうとこだわ」
そう言って高校生の集団はケタケタ笑う。
「そういや今日の七時の番組だっけ? エイミー出演するの」
「見ちゃうよねえ、視聴率大幅アップだ」
高校生の集団は歩き去っていく。
「視聴率大幅アップ、か」
俺は、呟く。
すっかり、売れっ子芸能人だ。
別れのキスが脳裏に蘇って、頬が熱くなる。
本当にこの決断は間違いでないのだろうかと再確認したくなる。
けど、エイミーと俺を隔てるマネージャーは人間ではなかった。
排除しなければならない。
そして、新しいマネージャーを雇ってもらうしかない。
それが、例え新たな別れになろうとも。
エイミーとの出会いを思い出す。
帽子を脱ぐ彼女。
舞い踊る光加減で茶にも金色にも変わる毛。
憂いを帯びた瞳。
一目で心を持っていかれた。
この子を笑わせてやりたい。そう思った。
あの日の思いよ、もう一度。
時刻は夜になった。
折笠との待ち合わせの場所に移動する。
エイミーの番組の放送まで三十分。
折笠は、そこにいた。
「折笠さん、お手数おかけします」
「井上さん、手を焼きましたよ」
そう言って、俺は苦笑する。
「いえ、その話は、もういいのです」
折笠の目が広げられ、細められる。
「……と言うと?」
俺は無言で、決戦のフィールドのクーポンを開いた。
世界が白に侵食されていく。
その場に立っているのは、折笠、俺、アリエル、涼子の四人だけになった。
「あんたの運命はここまでだ。天使崩れ」
折笠はしばし黙っていたが、首をコキリと鳴らすと、鞄と書類を地面に丁寧に置いた。そしてスーツを脱いでその上に置く。
「退魔師岳志。相手にとって不足なし」
決戦が始まろうとしていた。
相手から放たれ始めた圧力に、俺は息を呑んだ。
続く




