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六華、アイドルになる?

 俺はスマートフォンで折笠に電話をかけていた。

 数コールの後、相手は電話に出た。


「もしもし、なんの御用でしょう?」


「いやー、今日はちょっと折笠さんに折り行って用事があるんだけどさ」


「と言うと?」


「電話口じゃ話し辛いことだから、指定の店に来てほしいんだよね」


「……わかりました。場所と、時刻は」


 ある駅の傍にあるマクドナルドを指定し、電話を切る。

 幸い、相手も時間が空いていたようだ。

 アリエルに親指を立ててグッドサインを送る。


「とりあえず第一関門突破」


「流石にゃ。後はあんたの嘘スキルにかかってるにゃね」


「なめんなおー」


 俺は平坦な口調で言う。


「お前が家に転がり込んできても鬼瓦戦までだまり続けてたからな、俺」


  アリエルはきょとんとした表情になった後、苦笑する。


「そうったにゃ、君は素直なようで人を信用していなくてここぞという時は嘘つきにゃ」


 そして、場面は約束の時刻と場所に移る。


「店の前で良いです。手短に」


「とんでもない。ご足労頂いたんです。飲み物だけでも是非ご馳走させてください」


 とにかく下手に出る。店内に引き込めねば意味がない。

 店内に入れればそこは百八十度開放された自由席に荷物が置いてある。


「お願いします。幼馴染がお世話になっているのに手ぶらで返しては義理が立たない。それに、あんたにはさんざエイミーを有名にしてもらった借りもある」


 男って馬鹿だよな。義理とか、借りとか、そういう言葉に弱い。

 この男も案の定で、溜息を吐くと従った。


「わかりました。コーヒーだけですよ」


「ありがとうございます」


 第二関門突破。

 俺と相手は店内に入る。

 そして百八十度開けた席に座ろう、とした。

 折笠が懸念を示した。


「この席は見通しが良すぎる。すっぱ抜かれでもしたら迷惑だ。二階の窓際の席に移動しましょう」


「でも……」


「でなければ帰ります」


「わかりました」


 荷物を持ち、二階の窓際の席に移る。

 第三関門突破失敗。

 しかし、俺は晴れ晴れとした気持ちでいた。


 三階の席に移り、レジで注文を頼む。

 ゼロコーラとコーヒーのMサイズ。

 それだけ持って席に戻った。


 俺は鞄から書類を取り出し、テーブルに広げる。


「これ、俺の妹なんですけど」


 そう言って微笑んで見せる。


「使えると思いませんか?」


「……と言うと?」


「軟式王子の妹で、エイミーの幼馴染。セット売りにするには丁度いい。まさか世間に軟式王子との関係を断たせているなんて言えないでしょう?」


 折笠はギクリ、とした表情になる。

 ずい、と踏み込む。


「この子は、カモフラージュになる」


 話題は、なんでも良い。

 真実味があれば何でも良い。


 結局折笠は折れて、なんらかのポストを用意できないか掛け合ってみると受け合って店を後にした。

 レジで雛子がスマートフォンをぶらぶらさせながらニヤついた表情で待っていた。


「監視カメラの映像、しっかり撮った」


 小声で話しかけてくる。

 第二の罠。店サイドもグル。

 この店に入った時点で折笠の負けは決定していたのだ。


「すまんな、手間をかける。後から俺のスマートフォンに送ってくれ」


「はーい」


「ところで、このバイト本数で学校行ってるのか? ぶっ倒れるぞ」


「学校じゃぶっ倒れてるよ」


 雛子は純粋無垢な表情で微笑む。


「寝てる」


「高校は出とけよなー……」


 力なくそう言うと、俺は軽い足取りで店を後にした。

 収穫は、あった。



続く

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