忙殺される日々
日々はあっという間に過ぎた。
不気味なほどに何も無い日常。
ただ、エイミーの知名度だけが上がっていく。
先輩との勉強も不器用ながらも前へと進んだ。
そして、二度目の春。
草野球の練習が再開された。
雛子のノックが軽快に響き渡る。
幸子がお茶の用意をして、皆の様子を見守る。
そして、俺は、ホームランをかっ飛ばした。
脳裏に一瞬エイミーの顔が蘇る。
それを、かき消すように、もう一度かっ飛ばす。
そして、朝のバイト先に行く。
先輩が待っていた。
先輩とももう慣れた仲だ。
「なんか元気ないよねここ数ヶ月」
「んー?」
おにぎりの品出しをしながら言う。
「エイミーがテレビで引っ張りだこになり始めてからじゃない?」
「お別れ、言われたよ」
「……そっか」
先輩は押し黙る。
幼馴染とのキスと別れ。
それは一つの物語の終わりのようなものを俺に感じさせていた。
なー。
鳴き声がする。
アリエルが猫モードでバイト先に来ていた。
そう言えば、バイト先を視察に来ると言っておいて今までVtuber活動に傾倒していたんだったこいつは。
まさに駄猫だ。
ま、エイミーのことで沈んでいた俺に言えたことではないか。
アリエルはコンビニの前に佇むと、顔を洗い始めた。
その顔が、敏感に上を向いた。
涼子が、やってくるところだった。
アリエルが総毛立てて威嚇する。
まさか、と俺は目を見開く。
涼子が歩いてくる。悠々と、いつものニヤケ顔で。
アリエルは威嚇していた。
紛れもなく、涼子を威嚇していた。
半年間なにも起きなかったというのに、ヒントはこんな身近なところに転がっていた。
続く




