平和な日常
その後、何段重ねかもわからぬ重箱を何十分もかけて平らげ、俺達は解散した。
大人達は酒も入り、一気に親しげな雰囲気だった。
涼子の歌手活動は満更嘘でもないらしく、即興で歌でも歌ってみせた。
その後、涼子と始めてシフトが一緒になる日がやってきた。
やってきたと言うか、木下に変わろうかと申し出たら飛びついてきたのだが。
涼子は俺を見てにやりと微笑んだ。
「今日、木下さんじゃなかったっけ」
「釘刺しに来たんですよ。あずきさんとアリエルのVtuber活動は秘密です」
「天使がVtuber活動する時代かぁ。近未来だね」
「しかし意外ですね。Vtuberとか見るタイプには見えなかった」
と言うか、涼子がパソコンを見ている姿というのも想像がつきにくい。
「昔の彼氏が好きでね。さんざ布教された。アリエルが大好きで大好きで。ちょっと妬いたな」
涼子は面白がるように言う。
意外な過去だ。
「今はその彼とは?」
「死んだよ」
俺は絶句した。
そして、恐る恐る言葉を絞り出す。
「もしかして、全滅した一個小隊にいたのって……」
涼子は微笑んだ。切なげな微笑みだった。今まで見せたことがない表情だ。
それでは酷すぎる。
最愛の恋人が、バラバラ死体だなんて。
「さ、今日も勤労の時間だ。生活のために頑張ろうじゃないかい兄弟」
「兄弟になった覚えはないですけどね」
その日のバイトは、平和に過ぎた。
それ以上、彼氏のことについて触れるのは憚られた。
帰ると、アリエルが顔をしかめた。
「やっぱりにゃ」
「なにがだよ?」
「悪霊つきの匂いがするにゃ」
「俺からか?」
俺は戸惑うしかない。
「つっても客が流動的なコンビニのバイトだぜ。お前、今度見に来てみるか?」
「うーん、退屈だけどやむを得ないにゃあ」
渋々と言った感じでアリエルは言う。
その時のことだった。
部屋の扉がノックされた。
「岳志くーん」
あずきだ。
慌てて、部屋の扉を開ける。
「エイミーの出演したドラマ、録画したから一緒に見ない?」
「是非!」
幼馴染、それも元婚約者の晴れ舞台だ。
見たくないわけがなかった。
続く




