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鉄牛と鉄獅子の遺伝子  作者: 有坂総一郎


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滑腔砲とタ弾とMBTモドキと

タ弾つまり成型炸薬弾(HEAT弾)を用いる場合、ライフリングが余計となりその性能を発揮出来ない。


また、高初速だと命中時の存速によって正しく機能せず砲弾が砕けたり威力が低減する。


よって、使用の前提が歩兵砲や山砲となる。実際、これらは200~550m/秒程度の初速となっている。例外は試製機動五十七粍砲の850m/秒くらいか。


九一式十糎榴弾砲において三式穿甲榴弾(タ弾)の場合では射距離1000mで120mm、射距離500mで80mmの装甲を貫通し、一式徹甲弾を使用し射距離1500mで63mm、射距離1000mで70mm、射距離500mで76mm、射距離100mで83mmであるという。


これを見る限り前述の命中時存速で威力が落ちるというのは事実であると考えてよいだろう。


よって、九〇式野砲を戦車砲転用してタ弾を用いる場合、九一式十糎榴弾砲の450m/秒という初速よりも遥かに速い680m/秒であるため一式徹甲弾を使用した場合は射距離1,000m/約70mm、500m/約80mm、タングステン・クロム鋼弾の「特甲」を使用した場合は1,000m/約85mm、500m/約100mmを用いるよりも結果として貫徹能力が低下すると推測出来る。実際に九〇式野砲では三式穿甲榴弾(タ弾)を用いていないことから裏付けられると思われる。


仮にタ弾を積極的に使うという前提ならば、史実通り四一式山砲を活用して射程距離に関わらず75~100mmの装甲を貫徹させることを目指した方が良いだろう。


さて、そこで戦後の話になるが、戦後西側は105mm級ライフル砲へと進んだ。しかし、第三世代MBTは120mm級滑腔砲へと転換している。これは以下の理由からそうなった。


技術レベルの向上に伴い装甲の防御力増強が顕著になり、これを撃破するために高威力の砲が求められたものの、実用上の重量制限から砲の大口径化には制限が付いていた。そこで、HEAT弾とAPDS弾が開発され、以後の対戦車戦闘における主力となったが、この二つの弾種には以下のようにライフリングによって加わる弾体の回転が不利に作用する特徴があった。


HEAT弾

収束させたメタルジェットで相手の装甲を貫徹するため、ライフル砲で発砲すると、着弾時にメタルジェットが遠心力の影響を受けて収束せず、威力が減衰してしまう。

APDS弾

細長い弾体を高速回転させた場合、逆に安定性が低下してしまい、威力・命中率がともに低下してしまう。


上記理由により、戦車砲の分野においては再び、滑腔砲が主流となっている。


よって、タ弾を汎用対戦車砲弾として用いるなら自然と滑腔砲へと進んでしまう。


そしてタ弾の特徴と貫徹能力と砲口径の関係は非常に相性がよく、それを最大限に引き出すことが出来る存在こそ滑腔砲であるのだ。しかも滑腔砲はライフル砲と違い軽量化出来るというオマケ付きである。


ラインメタル55口径120mm滑腔砲とロイヤル・オードナンス55口径120mmライフル砲が1350kg程度と1800kg程度であると考えるならば大分重量を削減可能だ。概ね25%程度の重量減と換算可能だろう。


九二式十糎加農砲をライフル砲から滑腔砲へ仕様変更すると五式七糎半戦車砲程度の重量に押さえることは可能っぽい。初速はそれほどの違いはでないっぽい。前述のラインメタルとロイヤル・オードナンスの初速を調べる限り、多少ラインメタルの方が速い。1750m/秒と1650m/秒である。


となると九二式十糎加農砲の初速は765m/秒から変化なしかむしろ増速する可能性が高い。増速した場合、一説によると1.5倍になるという説もあり、眉唾だが1000m/秒程度にすらなる。多少増えたとして800-900m/秒程度と考えても十分だ。その数字なら五式七糎半戦車砲と同等の数字である。


さてそうなると、問題になるのが初速だ。


先述した通り、高初速はタ弾と相性が悪い。だが、それは一定程度滑腔砲にすることで押さえられる。また、試製機動五十七粍砲の850m/秒でも試験が行われたことから、滑腔砲仕様の九二式十糎加農砲で用いる分は問題ないのではないかと推定可能であろう。


しかし、デメリットもある。命中精度・有効射程がライフル砲にくらべると劣位になる。


だが、それは運用方法である程度誤魔化せると考えられる。待ち伏せや戦列射撃などいくらでも工夫が可能だろう。


よって、タ弾の到来時期次第では105mm級滑腔砲を搭載した戦後MBT級を投入可能ではないだろうか。

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