野中恵那
「二号さんでもいいんですけどねえ」
野中恵那がそう言ったら、湊鍵太郎は苦虫を嚙み潰したような顔になった。
学校祭が終わった後、ひとつ年上の先輩に告白した。
いや、正確にはもう告白していて、ずっと返事を待っていたのだけど。
部活を引退するまで誰とも付き合うつもりはない、と言ったということは、つまり保留ということだろう。
あの時点で断られた、という認識は恵那にはない。
少し前にも口にしているが、好きなものは好きなのだ。
他に好きな人がいようが、彼女がいようが別に構わないのである。
好きな人に一番でなくても愛でてもらえるのだ。別にいいではないか。
そう言うと、ひとつ年上の先輩は額を押さえ、「野中さん、前から言ってるけど、野中さんは自分を大切にした方がいいよ」と昔と同じことを言ってきた。
まったくおかしな話だ。
自分はとっくに、自分を大切にしているというのに。
先輩のことも好きだし、『先輩を好きな自分』も大好きなのである。
どちらが優先かは恵那自身にも分からない。けれど『好き』がふたつ入っている以上、先輩への思いの方が大きいのだと思う。
目が合うだけで嬉しいし、話せるだけで楽しい。
欲を言えばそりゃあもっと突っ込んだこともしたいけど、贅沢は言わない。いい子にします。
先輩が誰かと付き合っても呪いの藁人形なんて打ったりしないし、怪しげなお薬を使ったりもしないし、閉じ込めて無理やり言うことを聞かせたりもしません。
そのくらいしたいくらいだったけれど、想像するだけで我慢します。「いや、それ好きな人にやる所業?」先輩は何か言っているけど、わたしはそのぐらい真剣です。
最近上げるようになった前髪の下の、丸めの瞳でじっと見つめると、元部長はげっそりした顔でため息をついた。
でも断固として、流される気はないようだ。そこに痺れる憧れる。
だからこそ好きになった。ダメなことはダメと、ちゃんと言ってくれる人だから好きになった。
決定的に自分は歪んでいるのだろうけど、その気持ちは本物だ。
だから何をされても行動は変わらないし、思いが消えることもない。
それはたとえ、先輩が相手であろうとも。
湊先輩は「……髪型を変えて心持ちも変わったと思ったのに……」と頭を抱えてうずくまっているけど、そんなことはない。
確かに、長く伸ばしていた髪を分けて、顔を出すようになった。
とても勇気がいることで、心境に変化はあったけれど、それでも芯の部分は変わっていない。
心をばっさり切ってしまうなら、前髪を切り落としてしまえばよかったのだ。
なのに切らずに分けるに留まったということは、今までの自分だって生きているということなのである。
むしろ必要に応じて切り替えられる、二面を持ったということで。
アプローチの方法が増えた。とても喜ばしいことである。
そんなわけで、状況がどうなろうが好きですコールは続けていくつもりだった。
この行動が変わるとするならば、それはわたしが先輩の彼女になったときだけです――と恵那は微笑んだ。ちなみに先輩はその笑みを見て若干どころでなく引いているのだが、彼女は気にしていない。
だって、好きなのだから。
「大丈夫です――いっぱい、愛してあげますから」
貴方も。自分も。
大好きなのだから、精一杯、大切にするつもりだ。




