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へんじがない。ただの

※主な登場人物

・湊鍵太郎…三年生。部長。チューバ担当。

・滝田聡司…OB。現在大学二年生。

・豊浦奏恵…OG。現在大学二年生。今回は名前のみ。

「――豊浦(とようら)先輩と連絡がつかないって、どういうことですか?」


 一拍の沈黙の後、湊鍵太郎(みなとけんたろう)は電話の向こうにいる先輩に尋ねていた。

 豊浦奏恵(とようらかなえ)

 鍵太郎の二つ上の先輩であり、かつてはトランペットを吹いていた部員だ。

 OBOGの中でもとりわけテンションが高く、記憶の中の彼女は大抵はしゃいでいる。

 現役の頃はとりわけ、そんなイメージが強かったが。

 卒業してからは、どうだっただろうか。鍵太郎が背中に嫌な汗を感じつつ返答を待っていると、そんな奏恵と同い年である滝田聡司(たきたさとし)が言う。


『学校祭で演奏をするって話は回したんだ。既読は付くし、内容も連絡自体は行ってるみたいなんだけど……返事がない。電話にも出ない。反応がない。だから――「連絡がつかない」』

「返事がない……」

『その言い回しはよせ。ちょっと変な想像をしちまう』


 ただのしかばねのようだ――口には出さなかったそのセリフを先輩共々ぐっと呑み込んで、再び記憶を探る。

 一年生の頃、三年生だった奏恵は確かに部活を引っ張る、ムードメーカーのような存在だった。

 だが、その後はというと――意外と、そうでもないのだ。

 次の年の県大会、楽器を吹かなくなったという彼女は、あまり顔色が良くなかった。

 今年のコンクールには姿すら見せなかった。そのことを尋ねると、聡司は奏恵は調子が悪いようだ、と答えた。

 少しずつ、彼女は自分たちから遠ざかっている。そのことを同い年としてより実感しているのだろう。聡司の口調はいつになく、深刻なものだった。


『分かんねえ。オレの取り越し苦労で、あいつは大学生活を超エンジョイしてて、忙しくて返事をしてこないだけのかもしれねえ。けど――さすがになんの反応もないっていうのはちょっと、気になってな。先に手を打っておこうって思って』

「手を?」

『あいつの分の楽器』


 未だに学校祭でのOBOGを交えた演奏について、返事を寄こさない二つ上の先輩。

 彼女についての処遇に、同い年である聡司は言う。


『用意しておいてやってくれるか。豊浦の居場所を。今はなんの反応もなくても、それでもオレは待ちたい。なんとか連絡はつけようと思うし、おまえらにも迷惑かけるから早くしろよって言うつもりではある。けど、このままの状態が続くなら当日に間に合わない気がするから』

「大丈夫です。楽器に関してはこっちで用意しておきます。先輩は豊浦先輩と連絡をつけることに注力してください」

『助かる』


 鍵太郎が即答すると、OBの先輩は短く礼を言ってきた。

 ひと打ちで応える様は、打楽器の人間らしい。そしてとりあえずは足場を確保できたということで、少しだけ安心できたのだろうか。

 聡司は電話の向こうで大きく息をつき、普段の彼らしい物言いをしてきた。


『というわけで、豊浦の件はこっちでなんとかしてみる。おまえらは引き続き、自分たちの本番に集中してくれ。すまなかったな、変な電話して』

「いえ、俺としてはできるだけたくさんの先輩たちに本番乗ってもらいたいと思ってるので。逆にこうしてちゃんと連絡をしてくれて、よかったです」

『そう言ってくれる後輩のためにも、あの馬鹿なんとかしないとなあ。まったくあいつ、どこで何してるんだか――』


 既読がつく、ということは少なくとも、メッセージ自体は確認しているはずだ。

 そのときの彼女が、どんな状態で文面を見ているかはともかく。この胸のモヤモヤが、聡司の言うように余計な心配だったらいいが。

 けれども、ここ最近の彼女の様子を思い出すに、どうにも嫌な方向に想像が傾く――無事でいてほしい。そう願って、鍵太郎は携帯を握った。


 最初にこの部活(吹奏楽部)に興味を持ったのは、あの先輩の音がきっかけだったのだ。

 そして聡司は、そんな奏恵をアシストするようにドラムを叩いていた。そう考えると――この卒業生たちは、いうなれば自分の恩人である。

 無下になどできない。そんな思いを込め、鍵太郎は言う。


「いろんな意味で、今回は最高の舞台にしたいんです。その本番の『成功』っていうのは、先輩たちが楽しく楽器を吹いてくれることも含まれてます。だから豊浦先輩には、いつでもいいから来てくださいってメッセージを送ってください」

『分かった。恩に着る』


 返事はなくても、届くのならば言葉だけは届けたい。

 できればそこに乗せた思いが、伝わりますように――そう祈りつつ、聡司との通話を終えた携帯を耳元から下ろす。


「誰に、どこまで言うかな、この話……」


 それから、部長としてこの話をどう部活の関係者たちに言ったものかと思案する。

 顧問の先生には包み隠さず伝えるべきだろう。もしものときのための備えは必要だと、先ほど話し合ったばかりだ。

 あとは現役生。妙な混乱は避けたいので、話す人間も内容も限定したい。

 しかしとにかく、真っ先に話さなくてはいけないのは――


千渡(せんど)か」


 奏恵と同じ楽器、トランペットを吹く副部長である。

 彼女もまた、あのOGにある意味救われた人間のひとりである。なので鍵太郎は下ろした手をそのまま上げて、同い年へと連絡を取った。

 嫌な予感はするけれど。

 今は通じなくとも、応えてくれなくとも――

 どうなろうとも彼女の居場所だけは、用意しなくてはならない。

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― 新着の感想 ―
[一言] ひえええ……鍵太郎めっちゃ部長頑張ってやってきたんだからせめて最後くらいはそのまま平和に終わらせてあげてよ奏恵さぁん…… ただでは終わらないあたり川連二高だなあって思いました。今後の展開楽…
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