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楽しいことはすぐに

※主な登場人物

・湊鍵太郎…三年生。部長。チューバ担当。

・越戸ゆかり、越戸みのり…三年生。打楽器担当の双子。

「将来の夢はみんなで楽しいことをする、です!」

「具体的に言うとYouTuberになりたいと思ってます!」

「そうかー。YouTuberかあー」


 同い年の双子姉妹の発言に、湊鍵太郎(みなとけんたろう)は遠い目で応じた。

 YouTuber。

 いわずもがな、動画の広告などで収入を得る職業である。

 機材の普及や閲覧規模の増加などに伴って、近年はれっきとした職として確立した。小学生に訊けばなりたい仕事ナンバーワン、とも言っていいものだが――


「あ、もし顔バレとかが心配ならvTuberとかでもいいよ!」

「顔出ししてる人もいるけど、アバターがあると夢も広がっていいよね」

「いやおまえらなら普通に顔出しでイケると思うけど。俺が心配してるのはそっちじゃなくて」


 高校三年生で胸を張って「動画主になりたいです!」と言い切ってしまえる同い年のことが、ちょっと心配なだけである。

 頭を押さえて、鍵太郎は目の前できゃいきゃいと騒ぐ二人を見た。越戸(こえど)ゆかりに越戸(こえど)みのり。顔出しでも大丈夫、と思えるくらいに可愛らしい双子の姉妹。

 しかしその実態は、出会ったときからほとんど変わっていないように感じるエンタメ大好きお気楽オタクである。

 そういった界隈(かいわい)のことはよく知らないが、これで仕事としてやっていけるようになるのだろうか。あのトロンボーンのアホの子のように、専門的な技能を身につけに学校にいくわけでもないし。


「そういうので食ってくって大変じゃねーかなーって、素人ながらに俺は思うんだけど」


 ノリと勢いだけで言っているだけな気がするゆかりとみのりに、鍵太郎は素朴な疑問を投げた。

 いつもの遊びの雰囲気ならともかく、今回は何やらガチっぽいのでうっすらと心配になる。まあ、こいつらなら何だかんだやっていけそうだという妙な確信はあるものの、だとしても同い年たちの将来に一片の曇りも感じないわけではなかった。

 大丈夫かな、と思う鍵太郎に、しかしゆかりとみのりはパタパタと手を振る。


「あー、別に専業でやろうとは思ってないよ?」

「ふつーに仕事して、その傍らでやろうかなって思ってるくらいだよ? まあ、たくさん見てもらえれば、それはそれで嬉しいけど」

「あ、そうなんだ」


 案外とちゃんと考えていた双子姉妹に、内心でほっと胸をなでおろす。ああいったものの仕組みはよく分からないが、専業でやるとしたらかなりの覚悟と熱意が必要だろう。

 かつ、そういったものを感じさせないくらいの面白さが必要になるのだろう――そう考えると結構ハードル高いな、と鍵太郎が首を傾げると。

 ゆかりとみのりは続けた。


「ああいうのやってる人は、よほど大手じゃない限り兼業だよ」

「お金儲けしようって思って始めた人は、あんまりいないんじゃないかなって思う」

「だよなあ。そういう空気感じたら普通の人は逃げるだろうし」

「ゲーム実況とかー。お料理系のやつとかー。もちろん音楽系のやつとか? みんなが楽しめる感じのをやれればいいなと思ってます!」

「一日の終わりにみんなが噴き出せるくらいのやつを、上げていければいいなと思ってます!」

「ああ、俺もそういうの見たい。人も集まりそう」


 双子姉妹の計画に、鍵太郎もうなずく。彼女たちの考えはありふれたものかもしれないが、その分だけやりたいという気持ちが透けて見えた。

 楽しいことをしたいという。

 そんな二人の願いが、素直にあふれ出て感じられた。

 部活を引退しても、卒業してもそういったことをやろうと思えるのは、彼女たちがこの部活(吹奏楽部)にいたからだろう。常に身近で、楽しいことを実践する連中に囲まれていたから――似たようなことをひと区切りがついてもやり続けていたいと思うのは、当然だ。


「将来の夢はみんなで楽しいことをする、か……」


 だとしたら、プロにはならなくてもそんな風に行動するこの二人のことを、応援したいと思う。

 先日、その職業音楽家を目指す同い年と話しただけに余計にそう感じる。完全に道が分かれたわけではなくて、同じ信念の下にお互いが楽しいことをやれるなら、それはそれでいいことだ。

 ひょっとしたら、ゆかりとみのりのチャンネルにあのアホの子が出てくる日もあるかもしれない。なら、やっぱり見てみたい。

 鍵太郎がそんな未来を予測していると、それよりも手前のことを双子姉妹は言う。


「まあそんなわけでですね、この間よく見る実況者さんに、YouTuberってどうなんですかって訊いてみたんだよ」

「その人は結構、大手の人なんだけどね。実際どうなんですかって訊いてみたんだよ」

「おっ、どうだった?」


 ゆかりとみのりが将来どうなるかは分からないが、今まさにやっている人間の話は聞いてみたい。

 参考になりそうな意見が聞けたのならいいが。二人の様子からして、どうも夢をくじくようなことは言われていないようだが――果たして。

 双子の姉妹は、してやられたといったように笑いながら、声をそろえて言った。


「『そんな質問してる暇があるなら、今日から動画作って毎日投稿しろ!』だってさ」

「参ったねえ。迷ってる時間があるならやりたいことを全力でやれってさ。道理だよね。さすがその道の第一線でやってる人は言うことが違うよ」

「なるほどなあ……」


 苦笑いするゆかりとみのりに、鍵太郎も一緒になって苦笑した。

 やりたいことがあるなら今からやれ――ほんの少しだって、迷ってる暇はない。

 受験生という立場ではあるが、その姿勢は見習うべきものかもしれなかった。この言葉を真に捉えるなら、細々とではあってもこの双子姉妹は、今日からでも動画を投稿することになるだろう。

 だったら、その夢に協力しよう。チャンネル登録第一号になってやろう――鍵太郎がそう考えていると。

 ゆかりとみのりは、しかし外野になるのは許さないとばかりに両腕をがっしり掴んでくる。


「そんなわけでー。アニソンとかの演奏動画を撮りたいので、部長にはコスプレしての撮影の許可を出してもらいたいなーと思っています」

「なんだったら、湊も一緒にどう? 魔法少女エンジェル☆マキナ。オープニングのテーマソングのベースを吹いてもらいたいんだけど。女装してどうかな?」

「き……貴様ら、それが狙いか⁉ 人に手伝う気にさせといて、やることはそれか⁉」


 一緒にゲーム実況をするくらいならやってもいいかな、とは思っていたが、まさかがっつり出演まで要請されるとは。

 しかも結構ハードルの高いものがいきなり来た。まあそりゃ、演奏動画自体は別にいいけれど、女装ってなんだ女装って――。


「はーい、じゃあ衣装を作るから採寸させてねー。ヒラッヒラのフリッフリのピンクのコスチューム、湊が着るの楽しみだなー」

「どのくらい再生数いくかなー。あー、むっちゃ楽しみだわー!」

「おまえら結局、自分たちが楽しみたいだけだろ!」


 まあ、どんな創作活動も元をたどればそこにつながるのだろうけど。

 面白そうなことはすぐにやってみる。

 みんなで楽しいことができればいい。

 そんな双子姉妹に付き合うのは別に構わないが――できれば自分をオモチャにしないでいただきたいと、切に願う鍵太郎なのだった。

先日、知り合いが女装してチューバを吹いたのですがスカートの丈がギリギリでヤバかったです(白目

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