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はじまりの火は波に戯れ

※主な登場人物

・???

 ~県のコンクール終了後、とあるネットの吹奏楽掲示板より抜粋~


「いやあ、今年も県大会が終わりましたなあ」

「ですなあ」

「ちょっと、あの川連第二高校って何!? なんであんなとこが金賞県代表なの!? 調べたら定期演奏会もやってない、弱小校じゃない!?」

「嫉妬乙」

「あんた、同じB部門のどっかの学生さん? そんなに負けたの悔しい?」

「いや別に悔しくなんてありませんし」

「まあ、今年はちょっとB部門、見ない学校が上位に入ってたよなー。A部門は安定の宮園(みやぞの)富士見ヶ丘(ふじみがおか)久下田(くげた)高校の3トップだったけど」

「東関東大会でどうなるかって感じでしょ。去年は確かに富士見ヶ丘が宮園を逆転したけど、今年は宮園も黙ってないんじゃない?」

「久下田高校の安定の付け狙ってる感がすごいよな」

「いつどこで順位が入れ替わってもおかしくない、熱戦だったよねえ。あそこからどこまで仕上げてくるか、東関東も見ものだな」

「え、この県の吹奏楽のレベルなんて、正直大したことないでしょ。それよりも他県の演奏聞きたいな」

「まあ待て。意外と地元の良さってのもあるんだぜ? 県によって音色もそれぞれ違うし、それを聞き比べるも支部大会の醍醐味(だいごみ)だろ」

「おっつー。え、何なに? どうせB部門なんて聞いてもしょーがねーって思ってたからスルーしてたけど、今年はなんか面白いことになってんの?」

「なんか上位陣が根こそぎ入れ替わったって話だぜ。見ない名前の学校が増えたとか」

「そうなんだー。で、その新顔ってどこ?」

「川連第二高校」

「川連第二高校っていうとこ」

「なんだそこ知らね」

「おまえら知らないの? そこ去年も代表じゃなかったけど、金賞だったじゃん」

「いやだって、ぶっちゃけ代表以外興味なくない?」

「だよな。普通そうだよ。あんた小編成の部のことなんて、よく知ってるな」

「いやさ。何年か前にそこの部員が、宮園の顧問とケンカしたって話を聞いて。噂だけど」

「おいマジか。宮園の顧問ってあれだろ? 上欠(かみかけ)だろ?」

「だいぶヤベーやつにケンカ売ってんじゃん。まあ、さすがに本当のことじゃないだろうけど」

「まあなー。人づてに聞いた話だから、噂に尾ひれがつきまくって誇張されてるとは思うが」

「じゃなきゃ県代表になんてなれないよね。今の吹奏楽連盟(スイレン)の幹部、みんな宮園のOBOGでしょ?」

「絶対おかしい。そんな学校代表になれるはずがない」

「えー、でも、もうそんな時代じゃなくない? いまどきコネとか学校関連のこととかで代表とか点数とか、関係ないっしょ」

「そうだと思いたいな。みんな実力で評価されてると思いたい。……知らんけど」

「一般の部ならともかく、学生さんのうちはそうであってほしいよね」

「というかそもそも吹奏楽なんて音楽じゃない学生が仲良く青春ごっこしてるだけでひとつも響きが美しくないやはりオーケストラこそ至高それ以外は認めない」

「スレチ」

「オケ厨はお引き取りくださーい」

「ここは吹奏楽掲示板」

「それ言ったら吹奏楽でジャズやるのも偽物だよね。編成が違うからビッグバンドには敵わない。あんなのジャズじゃないってよく言われてるじゃん」

「拍子の取り方からしてまず違うもんな。阿波踊りみてえになってるとこ、よくある」

「こらこら、ケンカしなーい。みんな同じ音楽でしょー?」

「あんなものは音楽じゃないうるさいだけで音楽的じゃないやはりオーケストラこそ至高それ以外は認めない」

「おい誰かこいつ摘み出せ」

「無視でいいでしょ無視で」

「まあ、アレンジ物も最近はやるとこ少ないけど、オケの響きとは確かに違うもんな」

「それを言うと悲しくなるからやめろ。やってきた世代としては身にしみる」

「オケ出身としては、たまに吹奏楽呼ばれてカルチャーショックを受けることはあるけど。まあ、それはそれで自分のやってることを振り返る、いい機会になるよ」

「お気遣いありがとう。あんた優しいな。楽器何? コントラバス? オーボエ? ファゴット?」

「ひみつー」

「案外ホルンか? まあ、同じ県内だったらひょっとして会うこともあるかもな」

「世間って狭いもんねえ。長くやってると、コンクールは同窓会みたいになるし。演奏会行くと知った顔ばっかりになるし」

「部活の顧問とかも、結局は顔見知りになるもんな」

「先生が変わると、急に上手くなったり下手になったりするよね」

「あのさ……今、指導者っていうのと県内県外っていうので、ちょっと思い出してプログラム見たんだけど。さっきの川連第二高校の指揮者の、城山匠(しろやまたくみ)ってさ。西関東の山梨鳴沢女子の、最初の金賞のときの指揮者じゃないか……? 確か、そんな名前だったような気がするんだが」

「そんなはずないだろ。山梨鳴沢女子って、あれだろ。西関東の金賞常連校だろ。そんなとこにいたやつが、なんでこんな片田舎でB部門の学校振ってるんだよ」

「そうだよな。別人……だよな。名前が似てるだけか……」

「西関東大会って今年どこだっけ」

「新潟」

「毎度思うけど、西関東の範囲広すぎるよね……?」

「移動だけで大変だよな。関東甲信越とはよく言ったもんだ」

「東関東大会は?」

「神奈川」

「遠いなあ」

「まあ、観光がてら行ってきたら? よかったら感想聞かせてよ」

「気が向いたら」

「高校Aとは日にちが違うけど、今日聞いた感じだと高校Bも気になるな。誰か暇な人行ってきてくんない?」

「そのウワサの川連第二高校ってとこ?」

「まあ、そこもだけど」

「あり得ない。マジムカつく。あんな演奏で金とかないでしょ」

「あー。実は俺、暇だったからB部門も行ってきたけど、なかなかいい演奏してたよ?」

「うん、まあまあだったんじゃない」

「ダメ金だったとはいえ、南高岡高校と薗部(そのべ)高校もよかったよね」

「なんだみんな、意外とB部門も聞きに行ってるんじゃん」

「しかし本当に、聞かない名前の学校が出てきたなあ。まあ、どこもがんばってるってことなのかね」

「がんばるだけで金賞取れたら苦労しない」

「そう言って努力しないやつから、先にいなくなっていくんだよ。音楽の道は厳しいねえ」

「耳が痛いな……」

「何もしないより、何かやった方がいいってことか。まあ、そりゃそうだよね」

「ていうか、去年の宮園と富士見ヶ丘の逆転劇もそうだったけど、時代の流れが変わってきてる感じがするわ。これから県内の勢力図が、どんどん変わっていきそう」

「何がきっかけでそうなったのかは知らないが、これからひょっとしたら、面白いことになるかもな」

「この掲示板にこんなに書き込みがあったのも、久しぶりだしね」

「他の学校とか団体の演奏聞くと、自分もやりたいなーって気持ちになるしね」

「だな。この調子で盛り上がってくれたら嬉しい」

「じゃ、行ってきた人は東関東のレポよろしく」

「あー。A部門はどっか全国行ってくれないかねえ、うちの県から」

「東日本くらいは行けるんじゃねえの、ひょっとしたら」

「あー。たまーにね。行ってるよね。B部門でも」

「奇跡でも起きない限り、どうかと思うけどな」

「ま、期待しないで待っとくか」

「あ、そうそう。そういえば今度、都賀(つが)楽器店でリードフェアやるって話だけどさ――」


 ~以下、コンクールとは関係ない話が続くため割愛~



###



 そして、そんな掲示板を見つめながら――


「――やったね。(みなと)くん」


 富士見ヶ丘高校OB、清住純壱(きよすみじゅんいち)は笑いながら、そうつぶやいていた。

 選抜バンドで、たった二日だけ一緒だった他校の生徒。

 そして最後に、勝手に自分が夢を託して、突き放してしまった人間――そんな、同じ楽器のひとつ下の彼を思い出して、大きく息をつく。

 きみの行く道には、僕らにはできないことができる。そんな気がするんだ。そうあのとき、自分は言ったけれども。

 本当に彼は、それを実現してしまった。

 何もかもに疲れ果てて、自分の学校の演奏を聞く気にもなれなくて。

 でもどこか、耳を震わすものを求めて、ふらふらと行ったB部門の本番で――たまたま彼の学校の演奏を聞いた。

『勝つための音楽』じゃなくて、他に取れる道があったのなら、きみが実現して見せてほしいな。

 そう自分が言ったことが、目の前で繰り広げられていた。

 可能性はまだ、残されていたのだ。


「あー……ちゃんと、動くかな」


 言いながら清住は、右手の指を動かす。

 ドレミファソラシド――もうずいぶんと、楽器を吹いていなかった。

 でも、身体はちゃんと反応してくれる。刻み込んだ技術そのままに、軽々と動いてくれる。

 まだ、やれる。

 彼の学校の演奏は、それを思い出せてくれた――だから。


「ありがとう。もう少し……いけそうだ」


 そんなこと言うんだったら、自分ですればいいじゃないですか――そうあのとき、彼に言われた通り。

 ゆっくりと、清住は次の舞台に向かって歩き出す。

 まずは県内の一般団体の、チューバの募集状況でも調べてみよう。もしくは大学、それか――自分の学校の、OBOGバンドでも。

 そのままパソコンを見続け、指を動かし続ける。いつしか頭の中には、あんなに聞き飽きたと思っていた、三年生のときのコンクールの曲が鳴っていて。

 画面を見ながら清住は、その音楽を口ずさんでいた。


 掲示板に載っていたのは、全国的には名も知られていない、小さな田舎の学校の話だけれども。

 それでも彼らの演奏は、少しずつ世界を変え――

 燃え尽きていた誰かの心に、火をともす。

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