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川連二高吹奏楽部~ここがハーレムだと、いつから錯覚していた?  作者: 譜楽士
第21幕 問題だらけのレギュラーメンバー
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理不尽に立ち向かう算段

※主な登場人物

・湊鍵太郎…三年生。部長。

・本町瑞枝…吹奏楽部顧問。

・片柳隣花…三年生。今回は名前のみ。

・上欠茂…県内強豪校の顧問。今回は名前のみ。

「状況は最悪だ」


 と。

 湊鍵太郎(みなとけんたろう)が事情を説明すると、顧問の本町瑞枝(ほんまちみずえ)はデスクで手を組んだままそう言った。


「生徒の保護者が部活に殴り込んできて、自分の子どもを無理矢理連れ帰った。しかもその子どもは、内心ではその保護者の言うことに納得してねえ、ときたか。なんだこれ。楽しい楽しいテーマパークから帰ってきて、さあコンクールだって途端、このザマか。世の中って退屈させてくれねえなあ」


 部員の母親が部活に乗り込んできて、そして暴虐の限りを尽くしていった、次の日。

 鍵太郎は改めて、本町に事の次第を説明していた。既に電話ではおおまか伝えていたのだが、やはり面と向かって話す必要はある。

 昨日は用事があって、この顧問の先生はいなかったのだ。それもあって、その最悪の状況を覆せなかったのだが――そう言うと、本町はため息をつく。


「いや、おまえはよくやったよ。一人でそんなのに、よく立ち向かった。で――よくこれだけの被害で済んだもんだ」

「いやあ、俺も久々に頭にきまして。キレちまったよ屋上行こうぜ、とやりたかったんですが、さすがに自重しました」

「……本当に、よく我慢したなあ。おまえ」


 部長として、確かにこちらはあの部員の母親の前に立ちふさがった。

 けれども自分の本質は、一年生のコンクールのときのままなのだ。

 どうしても譲れないものがあって、強豪校の顧問の先生に刃向かった、あのときと。

 そして二年前のそのときも、こちらに道理を説いて、この先生は堪えるように言ってきた。あの当時のことを知っている者としては、自分が今のセリフを冗談でなく、本気で言ったことが分かるのだろう。

 本町はこちらに、感心半分、呆れ半分といった目を向けてくる。


「もっと大事(おおごと)になってたら、片柳(かたやなぎ)の言う通り、タダじゃ済まなかったぞおまえ。知り合いにもいるんだよ。行く先々で金賞取りまくって生徒にも慕われたのに、とんでもねえ保護者から再三クレーム入れられて、退職に追い込まれた若手教師」

「……先生には、そうなってもらわないよう努力しますね?」

「怖いなおまえ。教育委員会と同じくらい怖い」


 いやあ、ついにウチにも、そういう手合いが来ちゃったかあ――と先生は手を頭の後ろで組み、天を仰いだ。

 同い年の母親なので、あまりこういう言い方はしたくなかったが、あれがいわゆるモンスターペアレントというやつだろうか。

 怪物、というかあの嵐のような罵詈雑言は、災害のようなレベルだった。

 それから、どうあの同い年を守るべきか――それを考えていると。

 本町は視線を戻し、モードを切り替えて言ってくる。


「――で。どうする? おまえのことだ、もう何か考えてることがあるんだろ」

「あの母親を『説得』して、片柳を部活に連れ戻します」

「ふむ?」


 まず第一の目的を口にすると、先生はそれが可能かどうか、吟味するように首を傾げた。

 まずこちらに意見を訊いてきたのは、一度でも直接その保護者の対応をした――という経験を買ったのと、のけ者にせず解決に巻き込むことで、こちらが勝手に事を起こさないようにするための安全策だろう。

 信用されているのかされてないのか、なかなかに絶妙なところではあるが、この先生のこういうところはありがたい。

 まだ自分ひとりでは、状況を動かすことはできないのだ。

 力のある人を巻き込んで、対応する必要がある――そう思っていると、本町が訊いてくる。


「アタシはそいつを直接見てねえからなんとも言えねえんだけど、どうにかできそうなレベルだったのか? 方法としてはいくつか浮かぶが」

「……先生も知ってる人で例えるなら」


 と、そこで鍵太郎は、共通認識としてある人物の名前を挙げることにした。

 実際に、向かい合ったときの感触。

 話してみた、手応えのなさ。

 それがどのくらいのレベルかといえば――


「――上欠茂(かみかけしげる)さんに、似たものがありました」


 あの強豪校の先生に、匹敵するもがある。

 方向性は違うが、『対話する気がそもそもない』という意味では変わりない。

 そしてその名前を聞いたことで、脅威度をはっきりと認識したのだろう。

 本町は元々鋭くしていた目を、さらにスッと細めた。


「……なるほど。そういうことなら、マトモにやっても話は通じねえな。正攻法も誠意もナシだ。あくまで自分の都合でしか動かない。受け入れるのは結果と論理のみ――ってことか。厄介じゃねえか」

「はい。けれどもその『結果と論理』の部分に、今回は取っ掛かりがあると思ってます」


 大切なのはあれが、『片柳隣花(かたやなぎりんか)の母親』だということだ。

 あの日いきなり対応することになった、どこかの学校の先生ではない。

 そしてその違いに、割って入るべき余地がある。

 あの同い年がこちらをずっと見てきたように、こっちだって彼女のことをずっと見てきたのだ。

 片柳隣花の目指すもの、考え方、そして弱点――

 思い返してみればあの同い年と過ごした時間の中に、彼女を助ける要素がある。


「親子だけあって、行動パターンに似通ったものはあります。あの日言われたことをひとつずつ思い出して――脅威をデータで無効化していきましょう」

「データ」

「これです」


 そう言って鍵太郎は、携帯である画面を本町に見せた。

 それは昨日のうちに調べた、とある情報のページだった。

 部活が受験の邪魔になる――そう言っていたあの母親に、真っ向から立ち向かう材料になる。

 教員として、本町もその存在は知っていただろう。

 その画面を見て小さくうなずいたが、同時に渋い顔にもなる。


「……やりたいことは分かった。けど、論拠としてはこれ単独じゃあ弱くないか。いくら()()()()()()()()()()調()()とはいえ、中学生のデータなんだし」

「そこで、先生に協力してもらいたいんです」


 そしてここからが、大人の力を借りなけらばならない場面になるのだ。

 一年生の頃、たったひとりで理不尽に反旗を翻したときとは、また違う。

 今はそれに立ち向かうための、仲間もいるのだ――そう思いつつ、鍵太郎は先生に耳打ちした。

 するとそれを聞いて、本町は今日一番の渋い顔になる。


「おまえ……それマジで言ってる?」

「言ってます」

「下手したらアタシの首、飛ぶんだけどそれ」

「またまたあ。先生ならそんな下手なことしないでしょう?」

「教え子の笑みが、教育委員会並みに怖い」


 正攻法で通用しないなら、相手の予想を上回るほどのからめ手でいけばいい。

 そう結論づけて出した鍵太郎の提案は、こちらに代わって保護者と話をしなければいけない先生に、一番の比重がかかってくるものだった。

 なので、ここで本町に協力してもらわなければ勝機はない。そう思ってにっこりと笑えば――先生は顔を引きつらせてこちらを見返してくる。

 しかしやがて本町は、「……ええい!」と叫んだ。


「教育委員会が怖くて教師ができるか! ああもう、分かったよ、やってみようじゃねえか!」

「ありがとうございます。これで得物が完成し次第、四者面談に突入ですね」

「得物とか言うな。ヤのつく人かおまえは」

「先生に言われたくないです」


 いささか強引ではあったが、先生はその役目を引き受けてくれた。

 口は悪いが、生徒のことは絶対見捨てない。

 そういう思い切りの良い、姐さん気質の本町だからこそ、こんな無茶な作戦を切り出すことができたのだ。

 そして、そんな人が育てた生徒()()がいるからこそ――


「まあ、あのときのリベンジってわけじゃないですけど……今度こそ、言ってみたいんです。『俺たちは真剣にやってる』って」


 自分はこれから、あの理不尽に立ち向かうことができる。

 かくして、最悪の状況をひっくり返すため。

 データを武器に変え、書類を盾に変えて。

 鍵太郎は、同い年を取り返すための算段をつけていった。

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