表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
川連二高吹奏楽部~ここがハーレムだと、いつから錯覚していた?  作者: 譜楽士
第14幕 いざ行かん、覚悟を決めに
203/473

極彩色の花火

※主な登場人物

・湊鍵太郎…二年生。次期部長。

・平ヶ崎弓枝、今泉智恵、関掘まやか、貝島優、高久広美…三年生。本日の学校祭をもって引退。

 平ヶ崎弓枝(ひらがさきゆみえ)がいつもとはまるで違う音をぶちかましてきたことに、まず湊鍵太郎(みなとけんたろう)は笑い出しそうな気分になった。

 普段は自他共に『地味』と認めていたはずのあの先輩が、今は人が変わったように無茶苦茶な音を出しているのだ。

 それはまるでサブマシンガンのような勢いで、この最後の最後の曲に一体どこからそんな力を叩き出してきたかと、耳を疑いたくなるような場面だった。


 でも今は、それもなぜだかすんなり受け入れられる。

 さっき思い切り叫んだとき、頭のネジも数本一緒に飛んだのかもしれない。

 愉快すぎて心の中の笑いが止まらない。

 疲れきっているはずなのに腹の底から音が出る。

 それは周りのみなも同じようで、このアンコールという最も体力的にはつらい場面にも関わらず、出てくるのはただひたすらに伸びやかで楽しげな音たちばかりだ。


 流星のように長い尾を引いて、ユーフォニアムの今泉智恵(いまいずみともえ)の音が通り過ぎていく。

 特大のほうき星がうっかり地上に着弾したら、それを通り越してフルートが踊るように跳ねるように、旋律を吹き加えていった。

 そこら中に火の粉を撒くのは、さっきのクラシックな音とは打って変わった調子の関掘(せきぼり)まやか。

 彼女はクスクスと笑っているかのように、周囲にキラキラとした熱を生み出していく。

 あの先輩がずっとずっとやりたいと願っていたのは、実はこういった感じだったのだろうか。

 その『はじまりの火』は伝播していき、積み重なって大きくなって――

 そして、炎となって湧き上がる。


 全員が自分がさっき叫んだくらいに大声で歌い出した。

 自分もそうだが、本当にどこにそんな力が残っていたのか。

 分からないけど、今はそれでいい。

 だって食らいつくように埋め尽くすように、熱風が会場中に広がっていくから。

 誰かが呼んだら誰かが応えて、それがたまらなく嬉しくておかしくて、馬鹿みたいに笑いが止まらない。


 主役が入れ替わり立ち代り、次々と現れてそれを渡してはまた受け取っていく。

 合いの手を入れて相手を変えて、そしてまた元の位置に戻ってめまぐるしく移り変わっていく。

 同じメロディーなのに違う楽器があって、それぞれが同じなのに違う色を出していた。

 雨が止んだら虹が出るのさ――と言っていたそこで指揮を振っている先生の言う通り、本当に雨が止んだら虹が出たようだった。

 全員が気がつけばひとつのものを本気でやっていたとき、その光に照らされて浮かび上がったのは極彩色の幻影だ。


 お祭り騒ぎには相応しい。

 びっくりするほど派手派手しいのに、でもそのくせ目が離せない。

 そして気がつけば消えてしまっている――手を伸ばしても掴めない幻。

 でもそれでも構わない。

 これをやる限り虹は出続ける。

 音が一瞬で消えるなら、その一瞬を出し続けるまでだ。


 もう一度同じメロディーを繰り返して、まだまだ続くと観客に伝えた。

 だがただのリピートでは物足りない。立ち上がるのは再度関掘まやか。今度は情熱的な巻き舌(フラッター)のおまけつき。

 ヒラヒラしてるくせにやけに強くて、そんな彼女そのものな音に、どうしても噴き出しそうになる。

 だけどやっぱりちょっと睨まれたので、邪魔にならないように音量を落とした。ハイハイ、もう好きなようにやっちゃってください、今はいくらでも踏んでもらって構いませんから。

 その代わり――こっちもとことん好きなようにやらせてもらいますからね!


 まやかのソロが終わると同時に、全員が待ってましたと吹き上げ始める。

 それを打楽器全部が引き締めて、部長としての貝島優(かいじまゆう)はいつもこんな感じだったなと鍵太郎は笑った。

 みんなが好き勝手やりそうになると、あなたたちいい加減にしなさーい!! とあのちっちゃい身体で、全員を食う勢いで怒鳴っていたのを思い出す。


 それすらも、今はなんだか懐かしいような楽しかったような、不思議な気持ちだった。

 あれほど大変でキツくてどうしようもなかったはずなのに、結局自分たちはまだそれを続けている。

 今だってそうだ。脇腹がギシギシいって痛みすら出ているくらいなのに、楽器を吹く手は止まらない。

 求められたから行動してきた、というのはある。

 けどそれだって、突き詰めれば自分がそうしたいからやってきたことだ。


 どこで息継ぎするんだよという出ずっぱりの低音の譜面に、いつも付き合ってくれたのは、ここからでは背中しか見えない高久広美(たかくひろみ)だった。

 その特質ゆえにほとんど主な場面には関わってはこられなかった彼女だったが、自分だけは知っている。

 この先輩がいなければ自分は今ここにいないし、この先もまるで約束されていなかったはずだ。

 ここまで今年はずっと、こんな風にこの人の背中を見つめながらやってきた。

 音楽のことも、それ以外のことも。

 この師匠からはたくさんのものを教えてもらった。

 おかげで余計なことも、散々知ってしまったが――

 道化のくせに寂しがりやで、だからこそ干渉できないくせにずっとその場にいてくれた、この人と一緒に。


 最後のひと踏ん張りだ。祭りの声は止まらない。

 騒々しく、華やかに、けたたましく――

 そしてどこか、狂ったように。

 どこまでも続くように思えた。

 けど終わりがあるからこそ惹かれることも、もう分かっていた。

 誰かが誰かに呼びかけて、その連鎖が始まったらいつか大きなうねりになる。

 そのうねりに合わせて、テンションが上がっていく。


 長い長い道のりの先にあった、最果ての虹。

 決して掴めないことは分かっていて、それでも手を伸ばす。

 そうして登っていった先で、背伸びをしてそれに触れられたように思ったとき――

 そこにあった虹は弾けて大きく広がり、円を描くようにして波打ち霧散した。


 それはまるで、花火のようで。

 その煌いて散った一瞬に全員で歓声をあげる。

 綺麗でした。びっくりした。おもしろかった。

 そして――


「ああ、楽しかった」


 そんな歓声の中で。

 鍵太郎は空を見つめながら、ただそれだけを口にしていた。

《参考音源》

エル・クンバンチェロ(声なし版)

https://www.youtube.com/watch?v=CqtVzFycmXE

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ