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川連二高吹奏楽部~ここがハーレムだと、いつから錯覚していた?  作者: 譜楽士
第14幕 いざ行かん、覚悟を決めに
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おいしいラーメンの作り方

※主な登場人物

・湊鍵太郎…二年生。次期部長。チューバ担当。

・今泉智恵…三年生。ユーフォニアム担当。

「そういえばさ、アンサンブルステージとかもやればよかったねー」


 そう学校祭の校舎の中、湊鍵太郎(みなとけんたろう)に言ってきたのは。

 鍵太郎のひとつ上の先輩でユーフォニアム担当である、今泉智恵(いまいずみともえ)だった。

 彼女は学校祭で、自分のクラスで出しているものだろう。ラーメンをすすりながら言う。


「チラシまいたりするだけじゃなくてさ。一曲か二曲くらいを、少人数のステージでやるの。そしたらインパクトあって宣伝になったと思うんだよねー。ま、今となっちゃ後の祭りだけど」

「まあ……そうですね」


 実際に曲を演奏する、というのはそういえば、一番の宣伝のはずだった。

 けれども智恵の言うとおり、それは当日に思いついてすぐ実行できるアイデアではない。

 なにしろ何の曲も用意していないし、この学校祭の混乱の最中に少人数とはいえ、演奏するスペースを確保するのはかなり難しい状況だ。

 だからもしアンサンブルステージをやるとしたら、来年の学校祭になるだろう。

 宣伝ステージはこれまでやってこなかったことだが――部員全員ではなく少人数なら、交渉次第でなんとかなるはずだ。

 そう言う鍵太郎に、先輩は上機嫌でうなずく。


「そうそう。だから、来年はやってほしーなーって思って。わたしもやりたかったけど、しょーがないよね。もしやるんだったらユーフォチューバ四重奏がいいと思うな。あ、でもチューバもう一人いないとダメか」

「ぐ……っ。来年は絶対もう一人、チューバに部員を入れてやるんだ……!」


 相変わらずうっかりと余計な一言を追加してくる先輩に、鍵太郎は涙を流したい気持ちでみぞおちを押さえた。

 鍵太郎の担当するチューバという楽器は、身体の負担が大きいわりには、曲中で目立つ場面もない。

 なので知名度が低い、故にやりたがる新入生がほとんどいないという、非常に勧誘泣かせの楽器だった。

 その例に漏れず今年は新入生が入らなかったせいで、鍵太郎は酸欠で死にそうな思いをしながらも一人であの楽器を吹いてきている。

 だが、来年は自分も三年生だ。

 ならば後継者という意味でも、新学期になったらもう一人チューバに部員を入れないといけない。

 鍵太郎がそう思っていると――先輩はラーメン片手に、こちらに告げてくる。


「そうそう。そうやって悔いのないようにいろんなことを思いっきりやり切って、三年生まで走り抜けた方がいいんだよ。三年間なんてあっという間だしね。それこそ、ラーメンできるの待ってる間に過ぎちゃうくらい、あっという間」

「……先輩」


 その言葉の重みに、どんな表情を作ればいいのか分からず戸惑う鍵太郎に。

 智恵は「今年はさー、初めてクラスの出し物に参加したんだよね」と、軽い口調で切り出してきた。


「今までの学校祭は部活にかかりっきりで、クラスの方にはほとんど関われなかったからさー。三年は絶対飲食店で忙しくなるのは分かりきってたし、その手伝いって意味でも最後くらいは参加したかったんだー。

『吹奏楽部は忙しいから、そんなにがんばらなくてもいいよ』ってクラスのみんなには言われたんだけど、最後くらいはとことんまで全部『学校祭』したくて。超忙しいけど、その分超楽しいよ。すっごく。そりゃもう」

「先輩、それは……」

「だからさあ、湊くんには終わってからそういう変な後悔? みたいなの、してほしくないなーって思って」


 口を開きかけた鍵太郎をさえぎって、うっかりでぽっちゃりな先輩は続ける。


「やっぱり、やるならとことんまで思いっきりやり切っちゃった方がいいんだよ、湊くん。やりたいことやって、走り抜けてさ。そうやって食べるラーメンは、きっとすっごい美味しいから」


 そう言って笑う彼女は――

 今年鍵太郎が何度か見てきた、どこか吹っ切れた三年生の顔をしていた。


 元から食べることが大好きな人だということを差し引いても、その顔は本当に楽しそうで、嬉しそうで。

 なら、この人の唯一の心残り。

 やりたかったことは、全部自分がやってやろうと思う。

 全てが終わってからの、後の祭りにしないよう――

 アンサンブルも、後輩への気遣いも、全部。

 そう決意して鍵太郎は「……はい」とうなずくと、智恵は「うん。わかればよろしいのだー」と言って胸を張った。

 そして。


「で、湊くんさ。今からうちのクラスのラーメン食べに来ない?」

「これまでのは全部、自分のクラスの宣伝かよチクショウっ!?」


 急転直下、自分の下心を丸出しにしてきた先輩に、鍵太郎は全力で突っ込んだ。

 しかしとことんまで自分のやりたいことをやると決めた先輩は、そんな後輩の全力にも悪びれずに笑う。


「いやあ。思いっきり楽器吹いた後のご飯って、すっごい美味しいよね」

「俺そこでさっきワッフルをたらふく食べてきたので、今はいいです……」

「なんでこの子、甘いものだけでお腹いっぱいにできるんだろうね……? ま、いいや。じゃあこれ、ウチのクラスの食券だから。本番終わったらでもいいから食べに来て」

「はいはい。まったくもう」


 うっかりなくせに、ちゃっかりもしている。

 そんな先輩から食券を受け取って、鍵太郎はまた宣伝のため歩き出した。

 しかし――

 ふと気になったことがあって、その足を止める。


「ああ、そういえば先輩。先輩はアンサンブルで何か、やりたい曲あるんですか?」


 先ほど、智恵は『ユーフォチューバ四重奏とかいいよね』と言っていた。

 それはつまり、彼女にやりたい曲があるということではないか。

 そう思って、鍵太郎は訊いたわけだが――どうもそれは当たりだったようで。

 智恵は目を輝かせ、その曲名を告げてくる。


「そう! ユーフォチューバ四重奏、『ラ~メン・ヌードルズ』!!」

「どこまで食べ物が好きなんですか、先輩はっ!?」


 最後の最後までブレない先輩に、鍵太郎はもう一度、全力全開で突っ込んだ。



###



「……第一楽章・やっぱり塩、煮卵トッピング! 二楽章・ネギたっぷりの味噌……ああ駄目だ、見てたらなんか、ラーメン食いたくなってきた」


 智恵と別れてから一応携帯で曲名を検索したら、ちゃんと詳細が出てきてしまった。

 それを見ていたらどんどんあの先輩の術中にはまっていく気がしたので、鍵太郎は宣伝に集中するため、いったん画面を閉じる。

 何なのだろうか、この夜食テロみたいな曲は。

 作曲者が腹でも空かせているときに書いたのだろうか。まあそれ以外にも『低音七重奏・任天堂スペシャルサービスメドレー』なるものも出てきて、ちょっとどころでなく心が動かされたのだが――それも置いておいて。


「お、やってるな」


 視界に元気よくチラシを配る後輩の姿と、恥ずかしげに看板を掲げる後輩の姿が入ってきて、鍵太郎は顔をほころばせた。

 あの二人もまた、自覚はないがやりたいことを思い切りやっている類の人間なのだろう。

 ならばあの後輩たちを後で、先輩のクラスに連れて行ってもいいかもしれない。

 自分も後輩も、とことんまでやりたいことをやって、この場を楽しむ。

 そうすれば――


「じゃ、俺もがんばりますかね、っと!」


 あの先輩の言うとおり。

 そこで食べるラーメンは、びっくりするほど美味しいものになるのだろうから。

~夜食テロお品書き~

《参考音源》

ラ~メン・ヌードルズ

https://www.youtube.com/watch?v=oZENdkwegBI

第一楽章:やっぱり塩、煮卵トッピング!

第二楽章:ネギたっぷりの味噌

第三楽章:こってり豚骨チャーシュー

第四楽章:たまには醤油、ライス付き


任天堂の方はゼルダやカービィのグルメレースが入ってます^^

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