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48話 伯爵、敗れる

「クラシオン!」


 当然出てくるのは伯爵だ。


「私が貴方に触れようとしていた理由が分かりますか?」

「っ、」


 触れられた。額から目元を軸に、顔を覆うように片手を大きく広げられ、指先が顔の輪郭に触れる。


「クラシオン!」


 旦那様が伯爵の手をはじき、私を抱えて距離をとった。

 途端訪れる眩暈。触れられた箇所に僅かな痺れを感じる。


「とびきり強い兵が欲しかったんですよねえ」


 伯爵が話し続ける。


「何をした」

「直接魔法を」

「なんだと」

「通常の洗脳がきかないので、直接力を流し入れるしかないかと思いまして」


 実験も兼ねてますがと伯爵が笑い、旦那様が声を荒げた。


「ふざけるな!」

「一瞬ですよ、そこで自分の妻が変わる瞬間を見ていればいい」

「クラシオン!」

「旦那、様」


 急にぶつりと暗転した。

 音もなく、景色もない。

 どうしよう、伯爵を倒さないといけないのに。


「ここは……」


 周囲を探ると、音もなく一人の女性が現れた。まさか、と驚きを隠せない。


「ここでスプレ三十話 敵は自分?! 闇の鏡! が起きるなんて」


 何も話さない目の前の人物は私。戦士の衣装を纏う私だ。普段の衣装よりも黒色をベースに作られ、私が普段しないような表情。


「なるほど。これを超えてから、伯爵を倒せということなのだわ」


 目の前の私が笑っている。つまり自分を超えて、新しい自分になるスプレ三十一話になることは確定ということ。

 伯爵はスプリミの敵だけど、このスプレとしての流れは妥当ね。


「そういえば、伯爵はスプリミの敵だったわ」


 伯爵を倒すべく何かを掴んだ瞬間、音のない世界で轟音が響いた。もう一人の私が必殺技を繰り出したからだ。

 今は考える時ではなく、私自身を超える時だったわ。そこを違えてはいけないわね。


「では、私自身。お願いします!」



* * *



「クラシオン!」

「……」


 視界が開けた。旦那様が心配そうに私を見ている。

 戻ってきたのだわ。


「私が分かるか?」

「旦那様……ええ、私は大丈夫です」

「そう、か」


 暗闇の中でひたすら自分と戦うというのは存外に厳しいことだった。なにせ、戦いの癖や力の強さ、技のタイミングまで知られている。それを超えるのは本当に容易ではなかったけど、戦士として負けるわけにはいかないという使命感、そして私をこうして支えてくれる旦那様や皆のことがあったからこそ、今私は戻ってくることができた。


「まさかスプレ三十話がここでくるとは思いもしませんでしたが、旦那様、私は乗り越えました!」

「三十話?」

「はい!」

「……分かった。ひとまず、無事でなによりだ」


 おやおやという声に我に返り、旦那様と共にそちらを見やれば、相変わらず伯爵は笑っていた。笑っているのに、不機嫌を呈して。


「貴方はいつも予想外ですね」

「伯爵……貴方を倒します!」


 旦那様と小さく呼ぶと、旦那様が緊張を解かないまま、どうしたと囁いた。


「私、伯爵を倒せる術が分かりました」

「え?」

「五人の必殺技をするのです!」

「え? 以前やった?」

「違います、スプリミの方です!」


 説明をしないとと思ったところに、伯爵が攻撃を仕掛けてきた。

 私と旦那様の間にくるものだから、旦那様との距離が離れてしまう。その中で、旦那様は分かったと避けだ。


「この際だ、やってみなさい!」

「ありがとうございます!」


 旦那様が伯爵と相対した。

 大丈夫、四人の時と同じ。皆、遠くても力を貸してくれるのだわ。


 ダアン!


「五人の愛を今ここに!」


「おやおや」

「クラシオンに近づかないでもらおう」


 パアア!


「夜明けが包み込む光!」


 カッ!


「照らす心が高める力!」


「足止めなどしなくても、私はそのまま受けますが?」

「貴殿は信用ならない。またクラシオンに触れられたら、おかしくなりそうだしな」


 パアン!


「目覚める平和の喜び!」


 ピシャーン!


「伝播する正義への道!」


「おやおや。騎士団長は嫉妬深いのですか」

「そうだな」

「独占欲が強いのも難儀ですねえ」


 ドーン!


「闇夜を貫く愛の輝き!」


 バーン!


「リミテ・エスペシアル!」


 ドドドド!!


「素晴らしいですねえ。五つの属性をなんなく使いこなすとは。まあしかしこの程度では、ね」

「ここまでだ」

「え?」

「クラシオンがこれで勝てると思っているので、ここで倒れてもらわないと困る」

「まさか」

「私も魔法剣士なものでな。魔法の扱いには自負がある」

「な」


 ドゴーン!


「成敗!」


 ババーン!


 立ち込める煙が消え、膝をついた伯爵が現れた。その喉元に切っ先を突きつけ、旦那様が肩で息をしている。

 咳込みながら力尽きた伯爵は、そのまま膝を折って地に伏した。


「や、やったわ!」

「ああ、クラシオン」


 剣をしまい、騎士達に指示を出して伯爵を拘束する。それを確認してから、旦那様が私の元へ戻ってきた。


「怪我は?」

「ありません。旦那様の御蔭です」

「良かった」


 そう。やりきったのに、何故か周囲の現状は全く変わらない。

 伯爵を倒したということは、周囲の洗脳が解かれるはず。なのに、先程から起きている一部の人間を除いて眠り続ける人々。


「まさか」

「そのまさかだな」

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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