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45話 伯爵を取り逃がす

「おや、素晴らしい」

「な……」

「四つの属性を合わせ、相殺されないまま放つ。これは魔法使いの中でも中々出来る者が少ないのですが……学生の貴方が軽々とやってのけるとは」


 勿体無いですね、と無傷のフォーレ伯爵が笑う。

 効いていない。直撃だったのに。


「そんな……」

「クラシオン、下がっていなさい」

「こんな力の使い方をして勿体無い」


 旦那様が私を庇うように伯爵と相対する。険しい様相見せる旦那様に対して、伯爵は楽しそうに笑っていた。


「欲しいですねえ」

「欲しい? クラシオンを?」

「ええ、とても」


 旦那様は不可解だといった様子。敵が戦士の力を利用しようとするのはよくあること。それは洗脳されていた頃のエスパダが戦士達を仲違いさせ、戦士同士で戦い自滅するよう仕組もうとした過去からも分かるはず。


「クラシオンを欲しい?」


 同じことを震える声で旦那様が言う。


「ええ。利用しがいがあるでしょう?」

「利用?」

「そうですね……私なくしては生きていられないように洗脳して? 私の意のままに言う事をきくだけの人形にして? ぐずぐずのどろどろにして差し上げれば楽しいかなと」

「は?」

「オスクロが前にも似たようなことを言っていたので、引用させて頂きました。さて、奥様を頂きましょうか」


 伯爵が旦那様の様子を気にもせずに笑顔で応えた。やはりオスクロ、他者を支配し洗脳することに長けているわ。あまりきかない表現だけど、それは間違いなく洗脳を意味している。

 気付けば旦那様の身体が震えていた。その空気が怒りを帯びているのは明白だった。


「誰が……」

「旦那様?」

「おやおや」


 私の声も聞こえてない旦那様はぐっと掌に力をこめて、眼光を鋭くして伯爵に叫んだ。


「誰がやるものか!」


 旦那様が再び激高した。

 対して伯爵は楽しそうにしている。


「奥様の事がお好きなんですね」

「当たり前だ! 伯爵なんぞにやってたまるか!」

「!」

「クラシオンを利用するだと? ふざけるのも大概にしろ!」


 旦那様ったら、なんて大胆な。私のことが好きだなんて。

 戦いの場ではいけないけど、たまらなく嬉しいわ。

 向かう旦那様に対し、今日はここまでにしましょう、と伯爵が笑う。

 同時、煙が撒かれた。


「逃がすか」

「おや、私を今捕らえたら外交問題になりますよ?」

「!」


 煙の中で旦那様と伯爵が争っている。


「音の箱の件は諦めましょう。しかし今はまだ私を捕らえない方がいい」

「自ら認めておいて、何を今更」

「私を捕らえて音楽祭を中止にすれば、この国の王女殿下にも不名誉になるかと」


 確かにそうとも考えることが出来る。挙げ句、この市井の音の件も鑑みれば、カミラにも疑いと不信が降りかかりかねない。けど、だからと言って逃がしてしまうのも戦士として見過ごせない。


「それに、私は貴方方の敵としか申し上げていません。それ以外の方々からしたら、敵ではないかもしれませんよ?」

「屁理屈を」

「ふむ。まあ今日はそこそこ楽しめました。騎士団長殿が激情家という面も拝見できましたし」

「伯爵!」


 旦那様が怒りと焦りの声を上げている。見えないから分からないけれど、うまく戦えてないのだわ。


「さて」

「!」


 突如煙の中から、音もなく目の前に現れる伯爵に驚くも、なんとか拳を振り切ることができた。


「いいですねえ。貴方みたいな人、好きですよ」

「私は嫌いです」


 私には旦那様だけだもの。


「おや」

「クラシオン!」


 ぐいっと強い力で後ろに引き寄せられた。旦那様が近い。

 

「さすが騎士団長」

「やはり今捕らえるべきのようだ」

「残念です」


 煙の中に消えていく伯爵を旦那様は追うことはしなかった。

 そのかわり私を抱く腕の力を強め、煙が完全になくなるまで、そのまま。さっきの言葉と今の距離に妙に落ち着かなくて心臓の音がうるさい。ああ、敵を逃がしたというのに、私としたことが。


「旦那様、あの」

「あ、ああ、すまない」

「いえ」


 煙がはれ、遠慮がちに旦那様を見上げると、鋭い瞳を解いて旦那様の腕から解放された。

 耳が赤くなっているから、照れ隠し。視線はやや見上げて合うことがない。


「すまない、余り冷静ではなかった」

「いえ、旦那様。嬉しかったです」

「え?」

「その、助けて頂いたことも、伯爵に私を好きと問われた時のお返事も」

「うっ」

「いけませんね、戦いの中だというのに」


 あ、とか、う、とか短い言葉しか出ないから、これ以上待っていても、言葉で何かを伝えてくれることはないかしら。

 そう思って、王城へ行こうと旦那様に声をかけると、ぱしりと手首をとられた。


「クラシオン、あ、あれは、私の」

「旦那様?」

「あれは私の本音だ」

「え?」


 旦那様の顔がみるみる赤く染まっていく。珍しい、一部でもなく顔中が染まるなんて。


「あ、愛している」

「旦那様!」


 今度こそ嬉しくて旦那様に飛びついた。

 びくりと身体を振るわせて、旦那様が短い悲鳴を上げたけど、やめることができずに、そのまま抱き着く力をこめた。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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