44話 三幹部戦、四人の必殺技敗れる
「おやおや」
「!」
「!」
驚愕に震えている所に声がかかる。この場に似合わない、軽い調子のゆっくりした声。
「フォーレ伯爵」
「ご夫婦仲良く面白い事をされていますね」
「貴殿が何故ここに」
旦那様から緊張が伝わってくる。剣に手を添え、いつでも抜けるようにして。
「夫婦のデートといったら、甘い空気に抱きしめキスするぐらいあってもよいのですが」
「うっ」
その一言で一瞬、旦那様から緊張が抜けた。気まずそうな顔をしている。まさか全部見てと、独り言を呟いているけど、どうしたというのかしら。敵は目の前なのに。
「騎士団長も奥様によく付き合ってらっしゃる」
「……ふ、夫婦の事だ。余計な詮索は止めてもらおう」
「ふむ、そうですね」
「フォーレ伯爵」
旦那様の横に立ち、真っ直ぐ見据えると伯爵は楽しそうに笑う。
「護衛を連れず、何故こちらにいらっしゃるのですか?」
「貴方を始末する為、と言えば、満足ですか?」
「フォーレ伯爵!」
旦那様が激高した。
私の肩を抱いて引き寄せ、もう片方の手で剣の柄を握る。
「応えて下さい。この箱は貴方が差し替えたものですか?」
「いいえ」
にっこり笑って小首を傾ける。
「まあ私が大宰相にお願いした事ではありますが」
「伯爵、どういう事だ」
「私は何もしていません。ただ、よく聞こえる箱に替えたらいかがですかと大宰相に進言しただけですよ?」
やはり彼は敵だわ。
大宰相を動かしていたのはオスクロだと思っていたけど、伯爵が間に入っていたなんて。
「旦那様」
「クラシオン?」
「やはり伯爵は敵なのです」
笑いながら肯定も否定もしない伯爵。
「戦います」
「クラシオン」
変身、と声を出して戦士になっても、伯爵は驚きもせず、笑顔も崩さず、私と旦那様を見据えていた。
認知のずれも起きてなさそうだ。変身した瞬間に魔法がかかるようにしているのに、それにかからないということは、伯爵自身の力の強さを示している。
大宰相といい、魔術師長でもないのに、どうしてそこまで強さを持っているの。やはりオスクロが与えた何某かの力なの。
「伯爵、箱を替えて何をする気だった」
「私はよく聞こえるものに替えたらと申し上げただけですよ」
「この箱の魔法を調べたら、いずれ知る事になる。今話しておいた方が良いかと思うが」
「いいえ、旦那様」
「クラシオン?」
伯爵が話す前に旦那様に大事なことを伝えておこうと思った。
「旦那様、以前も申し上げた通り、伯爵は敵なのです」
「え、いや、ええと」
「名にスプリミ三幹部の名がある。大宰相の時同様、それだけで充分なのです」
「いやそれは」
「構いませんよ」
伯爵が再び笑う。
「貴方とは戦ってみたかったので」
「敵であると認めますか。オスクロは」
「彼は慎重すぎまして。私は特段隠しません。貴方方の敵で間違いありませんよ」
「フォーレ伯爵」
旦那様が剣を抜いた。
「何が目的で、この国に」
「それはまた今度にしましょう。さあ今は戦う時ですよ」
旦那様が剣を向けるだけで嬉しそうにしている。伯爵の言動と行動は自身の国を陥れる事にもなるのに、どうしてここまで? 確かにスプリミでも三幹部は好戦的だった。戦うのが好きというレベルでもあったけれど。
「クラシオン」
「はい、旦那様」
旦那様が言葉を選ぶように黙りこんだ。守るにはこれしかないのか、と囁いて私をしっかり見とめた。
「油断するな」
「はい」
戦うなとは言わない。洗脳が解けた今、一緒に戦うことを許してくれている。
私はそれだけで嬉しくて、こんな場なのに旦那様に抱き着いてしまいそうになった。
「行きます!」
「……ああ」
伯爵は戦うことに慣れていた。旦那様と私の攻撃が当たらない。加え、魔法の扱いに手慣れすぎている。強化もしてるだろう、けどそれがアルコとフレチャの比ではなかった。
「あれはどうです? 四人の必殺技でしたか」
「え?」
「この目で見てみたかったんですよ。やってみて下さい」
「……」
「クラシオン」
「やります、旦那様」
伯爵は逃げる素振りも見せなかった。裏に何かあるのかもとは思うけど、旦那様も無言で頷いてくれる。この膠着状況もあり、やるしかなかった。
「四人の光を一つに!」
「駆け抜ける正義の心!」
「癒し切り裂く愛の力!」
「共に明ける慈愛の希望!」
「未来の輝き、今ここに!」
「アオーラ・フィナル!!」
嫌な予感はしていた。だから、こういう結果を招いたことは、悔しいけれど予想通りということなのかもしれない。
「おや、素晴らしい」
「な……」
「四つの属性を合わせ、相殺されないまま放つ。これは魔法使いの中でも中々出来る者が少ないのですが……学生の貴方が軽々とやってのけるとは」
勿体ないですね、と無傷のフォーレ伯爵が笑う。
効いていない。直撃だったのに。
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