38話 四幹部最後の一人、サンドグリアル
「大宰相、貴方でしたか」
気づいた杖の主が僅かに眉をあげた。
「ほう、よく気づいたものよ」
魔法を使っていたよう。
気づかれたことに驚いているのに、どこか満足そうに笑っている。
「杖の音が聞こえました」
「?」
大宰相はいつも杖を手にしている。
足が悪いと仰っていたけど、その杖は魔法を使うことを知られないようにするためのアイテム。
私の変身と同じようなものね。
「アルコとフレチャを逃がす時に、大宰相がいつも使われる杖と同じ音がしました」
「ああ、これか……ふむ、耳がいいね」
「クラシオン!」
旦那様が追いつく。
エスパダにとって、サンドグリアルは仲間ではあるけど敵のようなものだ。
最後にエスパダに攻撃し、怪我を負わせたのはサンドグリアルだから。
「大宰相……」
「君の奥方は面白い」
「!」
私の正体を知っている。
認知のずれが起きていない。
「エスパダ」
ぐぐっと唸った後に旦那様は苦々しい声音で私に訴える。
「クラシオン、今の私は君の味方だ」
サンドグリアル相手では味方の認識がしづらいのか。
アルコとフレチャの戦いを経ても、まだ理性が勝っているなんてすごいわ。
「では旦那様。大宰相が犯人であり、敵です」
「……しかし、クラシオン」
「旦那様?」
「証拠が……アルコとフレチャとの関係が示せない」
何を、と言いかけたところに、大宰相が口を挟んだ。
「そうだ。確かに私がここにいるのは珍しい。しかしアルコとフレチャと関わりがある証拠も、今までの事件への関わりを示す証拠もない」
「いいえ、貴方は敵です」
「え?」
「……クラシオン、やめなさい」
いいえ、やめるものですか。
敵を目の前に負けるわけにはいかないもの。
「大宰相の名はアーグワ・サンドグリアル・ゴデルバ、その名にスプレ四幹部の一人サンドグリアルの名があります。すなわち、敵なのです!」
「はい?」
「クラシオン、それはさすがに無理が」
「何を仰るのです!」
理性が勝っている旦那様が判断出来ないなんて嘆かわしい。
これもオスクロの洗脳の余波なのか、サンドグリアルが一枚上手なのか。ここは私がきちんと説明しないとだめね。
「証拠は、」
「関係ありません! 名が全てを語っているというのに、素知らぬ振りは通じません!」
「名前だけか」
「ええ。四幹部最後の一人、サンドグリアル! 貴方は私が倒します!」
「論が立っていないぞ」
「その杖と名だけでは不服だと仰るのですか?」
「そうだろう、そうだと思うぞ」
「悪はすべからく倒されるもの! いい加減認めなさい!」
「無茶苦茶だぞ、クラシオン」
旦那様が額に手を添え、悩ましい顔をしている。
頑張って、旦那様。洗脳に負けてはだめ。
対して、無表情だったサンドグリアルが、少しばかり間を置いて、次に口元に弧を描き、聞いたことのない大きな声をあげた。
「ふふ、ははは! 久しぶりに威勢のいい者が現れたな!」
「サンドグリアル?」
「論が通じないとはね。そういう人間が中枢にいれば、私もこんな事はしなかったのだが」
その言葉は関係を、行っていた悪事を認める言葉だ。
「戦士とやら、君に私はどのようにうつっているかな?」
「?」
応えは一つしかないのだけれど。
「敵ですが」
「ふふふ、そうか。誰しも敬意を向け、信頼を置く中、君の目は不審を抱いていたかね」
演技不足かと笑う。
私が大宰相サンドグリアルが敵だと気づいたのは最近なのだけど、それを弁明する前に旦那様が間に入った。
「大宰相、み、認めるのですか?」
「ふん、戦士とやらに免じて自供してやろう」
「え、本当に?」
「そこのアルコとフレチャの手引をしたのは私だ。私の指示で奴らは動いている」
「そんなあっさり」
当然の告白を耳にする。
まあよしだ、と旦那様が聞こえるか聞こえないかの声を上げた。
「しかし、貴方の後ろにいるのはオスクロでしょう? オスクロの言うことをきいてるだけなのでは」
「おや、よく知っているね。私は全て聞いた上で話に乗っただけだ。納得したところしか協力していない」
「二人に授けた魔法は」
「それはさすがにオスクロに任せたよ」
「やはり……」
ひとえに、恐ろしいのはオスクロなのだわ。
「今ならまだ間に合います。投降して頂けますか」
「何故、私がこのような回りくどい事をしてると思う?」
「オスクロを筆頭に貴方方はこの国を支配しようとしています」
「そんな壮大な事をしようとは思っていないさ」
秘密裏に王城に入り込み内側から支配を進める、そしてそれが進んだ後、市井に手を伸ばす。
同じように静かな支配を望んでいた。けどサンドグリアルは最後に何を言った?
「オスクロはこの国が欲しいのかもしれないが、私はただ退屈を凌げればそれで良かったのだよ」
「大宰相?」
スプレ二十八話では、ここで終わるぐらいなら、国民に血が流れてもいい。壊して終わらせてしまおうと、そう言って手をあげるのだ。退屈に戻りたくないという思いだけで。
結果、街を守ろうとした私達の五人技によって倒れるけれど。
「いけない、このままでは」
「気づいたかい」
「クラシオン?」
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