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35話 デートに誘う(旦那様視点)

「旦那様?」

「っ!」


 油断してたが為に、小さく悲鳴じみた声が出た。

 幸い、声の主は気づいていないようだが、努めて平然とした振る舞いで彼女の元へ向かう。

 いいや、まだ心の準備が出来ていないのだが。


「練習はどうした」

「休憩中です。そこのガゼボでお茶を頂こうかと」

「成程」


 今日も変わらず、楽しそうにしているクラシオンを見て安心する。島での事で、あまり見たくない顔をしていたが、戻って来てからは見たところ笑顔でいる事が多いし、私と対面しても悲しむ様子はなかった。

 そんなクラシオンの隣にいるアンヘリカが、じとっとした目で私を見ている。案外鋭いから私の焦りに気付いただろうか。面倒だな。


「……ふーん」

「アンヘリカ、どうしたの?」

「ふふふふ、大丈夫。こっちの話」


 私を見て口元を緩めている。私の様子に気付いているな。いや、この場合マヌエルから何か聞いているか?


「クラシオン」

「?」


 私の目の前で耳打ちしている。クラシオンが少し驚いている素振りを見せ、次に私を見た。

 なんだろうと思うと、アンヘリカの耳打ちが終わったクラシオンが遠慮がちに私を見上げる。


「旦那様、その、一緒にお茶は、いかがですか?」

「ん?」

「あ、申し訳ありません。戻ってきたばかりでお忙しいですし、この数日は市井での軽犯罪が増えたと聞きました。やはりお時間は」

「いや行く」

「え?」


 咄嗟に出た言葉に恥ずかしくなる。

 声を遮ってまでして、がっつきすぎだろう。

 いやしかし、このままだとクラシオンは自己完結した上で、私が断った事になってしまう。これで良い、良いはずだ。


「プフッ」

「アンヘリカ……」

「ほら、まー、いいじゃない、行きましょ」


 クラシオンの背中を押しながら先へ進む後を、ゆっくりついて行くことにした。

 何をわかってか、茶は自分達でいれると言って侍女を、私がいるからと護衛を下がらせた。


「じゃ、私、マヌエルとカミラ呼んでくるわー」


 と言って、自身の護衛騎士を連れていった。

 去り際、私の耳元に感謝しなさいと笑いながら囁いていったあたり、完全に分かっている。

 感謝すべきだろうが、いかんせん心の準備はまだ。なのに、この場は私とクラシオンだけになった。


「旦那様」

「あ、ああ」


 クラシオンがいれてくれたお茶か。屋敷に来たばかりの頃は、この日の為にいれられるようになったと、喜々としていれてくれた事もあった。

 その誘いを断るようになったのは、いつだったか。あんなに慌てて誘いをなかったことにしようとするのは、私が何度となく否定し続けた結果。


「旦那様、お口に合いました?」

「ああ…………美味しい」


 意外だという顔をした。目を丸く開いて、瞬きを数回。口元に手当てている。


「感想を言ったらいけないか」

「いいえ! その、意外だったので」

「意外……」

「ええと、その、嬉しいです」


 褒めて頂けるなんてとクラシオンが笑う。

 くそ。今すぐこの場を走り逃げたい。いやもう直視出来ない、顔に力入れても保つ自信がなくて顔を俯かせてしまう。


「旦那様?」

「ぐぐ」


 可愛いらしいを通り越した。まともに見られるはずがない。でも逃げても駄目だ。誘わないと。

 先に進みたい。クラシオンと、より心を通わせる為にもだ。


「旦那様、いかがしました?」


 ふわりと甘い香りが降りてきた。

 肩に触れられているのは彼女の華奢な手。

 自分の足元しか見えないところに、クラシオンの服の裾が視界に入る。

 凄く近いところに、クラシオンがいる。


「クラシオン」

「はい」

「その、……一緒に」

「?」

「一緒に、出掛けないか」


 言った、言ったぞ!

 一人やれたことに歓喜していると、クラシオンが不思議そうに応えてきた。


「次の社交界の準備は済ませていますが」


 他に足りないものが? と。


「違っ!」

「旦那様?」

「っ!」


 勢いよく顔をあげたら、ひどく近いところにクラシオンの顔があって息を飲んだ。

 当の本人はきょとんとしていた。

 まさか自分がマヌエルに応えた台詞をまま言われることになろうとは。


「その、……用はなくて」

「用がないけれど、出掛けるのですか?」

「う、それ、は、……」

「旦那様?」

「で、」

「?」

「で、デートをしてほしい!」


 さらにきょとんとされた。何故だ。

 デートという言葉はクラシオンからアンヘリカやマヌエルに伝わっている。より分かりやすく、するりと言葉が入るはずなのだが。


「デート?」

「あ、ああ。クラシオンと」

「私と?」

「そうだ」


 少し間があった後、クラシオンは頬を染めて破顔した。


「喜んで!」


 もうここまででもよくないかと思った。

 こんなに喜んでくれるなら、ここがゴールでもいい気がする。


「では早速、カミラに練習を免除してもらいましょう」

「ああ、そうだな」

「ふふ、私、楽しみです!」

「そ、そうか」


 アンヘリカに連れられて来たカミラが、事情も説明しないまま了承を出したのは、些か納得がいかなかったが、クラシオンがあんなに喜んでいるのを見て何も言わない事にした。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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