31話 合宿編、ピクニック?
「ラングでは定番、旅行の際は修業をすると決まっているのです」
バカンス編とも呼ばれる。
普段の場所とは別の地で二、三話使って展開される修業回。
休暇を楽しむ日常シーンから、コミカルなやりとり、ハードな修業風景と多岐に渡る。
夏なら肝試し回、冬なら焚火回もあったりする。
「え、島に行ってまで? 休まないのか?」
「はい」
笑顔で応えると、旦那様はそっちかと小さく息をついた。
旦那様が色んな表情をうつすようになったと、ふと思う。戦士として目覚める前はずっと眉間に皺を寄せていたけど、今では皺を寄せる以外の表情も出てきた。
つまり、この洗脳が解けるまで後少しというところなのだわ。
スプレ二十一話の悲劇を回避しつつ、旦那様の洗脳を解いてみせる時が来た。
* * *
「島全部使うのか?」
「はい!」
修業用の服装に着替えて別荘を出る。
天気は雲一つない晴天、素晴らしいわ。用意したかいがあったというもの。
「その服は」
「体操服です。運動の講義の際に主人公達が使っています。合宿編なので気合いをいれました!」
「そうか……」
旦那様の視線が私と私の反対側を何度かうろうろしている。
そういえば露出がどうこう気にされていた時があったかしら。正直戦士の衣装よりは露出ないのだけど。
「旦那様、この服が気になりますか?」
「え、あ、いや違う。そ、それよりも、そうだ、修業を早くやろう!」
旦那様がやる気なのはいいこと。
早速自身に、身体強化の魔法を施す。
では本編に則り、合宿編スタートだわ。
「ついて来て下さい!」
「あ、ああ」
島は私達の別荘がある場所以外は森と海岸しかなく、ほぼ一つ小さな山があると思っていい。
その山の中を走る。
勿論ただ走るだけではない。
「ん?」
「さあ、このあたりから始まります!」
「え?!」
突如太い丸太が突っ込んで来たり、矢が飛んで来たり、落とし穴があったり、数多くの仕掛けが現れた。
アルコとフレチャがやった爆弾魔法も危害が加わらないレベルにさげて仕込んでもいる。
旦那様が踏んだ場所が爆ぜて、案の定驚いていた。
「クラシオン、これは?!」
「修業ですもの、このぐらい躱せないといけません!」
「ええ……」
敵を鍛えてどうなのかというところだけど、この関わりを持つことにより、理性の強化を計ればもしかしてと考えている。
大丈夫、きっとやれるわ。
「いつこんなものを」
「この日の為に準備しました!」
勿論、島へ行く時間はなかったから、いない間別荘の管理を任せている侍従達にお願いした。
それはもう驚いていたけど、旦那様付のラモンが間に入って調整してくれたらしい。
しまいには、子供達の遊び場の研究なんですねと言われたけど、否定はしなかった。
ラングという存在が浸透していないもの。うまく伝わらないのは仕方のないことだわ。
「さあ、スピードを速めて登りきりましょう!」
「え、待て、クラシオン!」
瞬間的な判断や力の配分を学び、総合的な身体能力の底上げを行う。
明日はもう二つぐらいレベルをあげてもいいかもしれない。
「ク、ラシ、オ、ン……」
「ほぼ強化なしで、ここまでとは素晴らしいですわ!」
「え、あ、ああ……」
旦那様は少し遅れるも、私を見失わずに山の頂きまで登りきった。
服や髪は乱れてしまったけど、まだ余力もある。
さすがだわ。
「お昼休憩の後は反対側へ向かいます」
「まだあるのか……」
昼の食事はあらかじめ持って来ていた。
毎年一緒に来てもらっているナタリアとソフィアが、何故か旦那様とピクニックを楽しんできてくださいと言って嬉しそうにしていたけど。
確かに修行云々を抜けばピクニックになるかしら。
本編でも和むシーンとして投入されていたわね。
「やめますか?」
「君は一人でも続けるんだろう?」
「はい」
「なら私もまだやる」
やや疲労感を滲みだしている旦那様。
だいぶ高いところまで来たから、眺めのいいここからだと麓の別荘がよく見える。
旦那様はぼんやり景色を眺めながら、なんてことなしに呟いた。
「修行とか関係なしに、こうしてるだけでいいんだがな」
「旦那様?」
はっとして、いやそれはと急に言葉が拙くなった。
頬が赤いから照れ隠し。
「旦那様、ピクニックがしたかったのですか?」
「え?!」
普段の旦那様の口から言うのは憚れるのかしら。なら私から誘えば問題ない?
「では、次は修行なしで、ピクニックに行ってくれますか?」
「え、あ、ああ」
戸惑いながらも、しっかり頷いたところを見ると、本当にピクニックがしたいよう。
普段お仕事も根詰めているから、こうして誰もいない所で時間を過ごしたいのかもしれない。
「ああ、そうしたら」
「?」
「私もいない方が良いのでしょうか」
「え、ちが」
「旦那様?」
旦那様がこちらを見て驚いている。驚く様な事を言ったつもりはないのだけど。
「一人の方が、誰に気を遣うこともなく、くつろげるかと」
「違う!」
「旦那様?」
「違う、その、私は」
「はい」
「……君と、一緒が、いい」
「私と?」
「そうだ」
そうでないと意味がない、と旦那様が消え入るような声で訴えた。
ふと求婚された時を思い出した。
打診があった後に、挨拶にと対面した時に旦那様は同じことを言ったことを。
すっかり忘れていたけれど、あの時も頬を赤くされていたわ。
あの時の嬉しさと、今の嬉しさが重なって、思わず笑みがこぼれた。
そんな私を見て、旦那様は何故かぽかんとしていたけど。
「嬉しいです」
「ああ……」
「では、残りの修行もきっちりこなしましょう」
「そこは変えないのか」
「戦士に必要なものですから」
たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。




