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30話 旦那様、抱き寄せる

「クラシオン!」

「!」


 背後で私を呼ぶ声がした。

 振り向くと旦那様が息を切らせて、こちらに向かって来る。

 思わず手を伸ばした。

 眉間に皺を寄せた旦那様は私を引き寄せ、よかったと小さく息をつく。

 片手で軽く私を抱く。その強さにほっとしてしまうけど、気を抜いてはだめだわ。

 敵はまだ目の前にいるのだから。


「フォーレ伯爵、また君か」

「偶然ですよ。どうやら奥様とは御縁があるようで」


 旦那様の身体に緊張が走る。

 伯爵に向けられる視線は鋭く、声音も硬い。


「アドルフォの様子がおかしいから来てみたものの……」

「旦那様? アドルフォがどうかしたのですか?」

「意識混濁状態で倒れていた」

「そんな!」


 対して伯爵はおやおやと言いながら飄々としている。

 間違いないわ。オスクロか伯爵が、この中にいた人間に魔法をかけて、退出させた。

 アドルフォは魔法剣士でもあるから、中身を理解した上で抵抗したのだろう。そのせいで意識が。


「クラシオン、アドルフォは騎士団の医務担当に引き渡した。今では意識もはっきりしている。安心しなさい」

「旦那様」


 よかった。

 そのまま時間が経てば普段通りになるのだろうけど、中身が詳しくわからない以上、対処は早い方がいい。

 

「奥様を大事にされているんですね」

「フォーレ伯爵は少々軽薄ではないだろうか」

「これは失礼を」

「貴殿は隣国の代表として来ている。伯爵の国で許される事が、我が国では許し難い事もある。両国の友好関係に亀裂が入らないよう、身の振る舞いには特に注意した方がよいかと思うが」

「お気遣い痛み入ります」

 

 ゆったりした動作で伯爵が去っていく。

 このままでいいの?

 アドルフォが大変な目に遭って、伯爵が敵だと分かっているのに。

 伯爵を引き止めようと身を乗り出したら、私を抱く旦那様の腕の力が強まり、もう片手が私の口元を覆った。


「?」

「待ってくれ、頼む」


 切迫感のある声が耳に届いた。その声に言葉も身体も止まる。

 棚の角を曲がる時、伯爵が横目でこちらを見て愉快そうに目を細めた。

 ああやはり伯爵は敵だわ。

 分かっていて、わざとあの立ち振る舞いを。

 図書館の重厚な扉が開閉する音がしてから、旦那様の緊張が全身から抜けた。


「旦那様……」

「……! あ、す、すまない」

「いえ」


 すぐに離れてしまう旦那様。

 口元を覆っていた手は軽く柔い力だったし、抱く腕は力を強めたけど痛みを感じる程ではなかった。むしろ安心さえ出来る強さだったのに。


「旦那様が謝る事はありませんわ。逆です。来て下さって、ありがとうございます」

「そ、そうか」


 旦那様の頬が赤くなっている。

 ライムンダ侯爵の言う照れ隠しだわ。

 ということは、旦那様は私の心配をして下さったのね。


「旦那様が駆けつけて下さったので、とても安心出来たのですよ?」

「クラシオン……」


 そこではたと思い至る。

 アドルフォの容態だ。

 旦那様と共にアドルフォの元へ向かえば、彼はほぼ回復し、動いても何も問題ない状態になっていた。

 話が通ったのか、カミラが護衛を連れて先に来ていて、旦那様がアドルフォと話す間に、私は別室でカミラと話をした。

 伯爵のこと、オスクロのことだ。


「やはり王城に侵入していたわ」

「由々しき事態ね」

「早くどうにかしないと……」

「クラシオン」

「何?」

「んー……けりを付けなさい」


 カミラ曰く、オスクロ戦に備え、エスパダと伯爵のことを手早く済ませた方がよいと。

 特にエスパダとは早く決着をつけるべきだと。


「そうね……私達戦士は悪を討つのが最大の使命」

「貴方にとって洗脳を解くことも大事な事だと分かってはいるわ」

「いえ、いずれはくる話だったし、少しずつ解けてきている。最終戦はもうすぐだったのよ」


 分かってはいたもの。

 私が覚悟を持って、旦那様に向き合えるか、そこなのだわ。


「カミラ、その時は王城が戦場になるの」

「大丈夫。アンヘリカからも聞いていたから、きちんと戦える場所は確保できてるわよ」


 アンヘリカもカミラの意見に賛成のようで、エスパダとの最終戦を迎える為に二人して準備してくれていたらしい。

 貴方達がよく会っていた思い出の場所になるけど、と言われる。

 逆にそこでよかった。

 記憶のある場所なら旦那様も理性がより冴えるはずだわ。


「クラシオン」

「はい」


 アドルフォは念のため王城で休むことになった。

 カミラと別れ、私は旦那様と共に帰路に至るその中で、旦那様が何度か逡巡してから言葉を紡いだ。


「その、王陛下の生誕祭なんだが」

「はい」


 もごもご言葉を何度か濁した後、旦那様はぐっと力を入れて私を見た。


「休暇をもらった、から、私も共に島へ行く」

「……え?」

「クラシオン?」


 なんてことなの。

 やはり避けられないというの。


「クラシオン?」

「え、あ、いえ、嬉しいです」

「……そうか」


 スプレ二十一話は避けたい。

 旦那様が剣無しに敵の攻撃を受ける、あの二回と同じぐらい。

 けど希望はあるはず。

 今、物語にはずれが生じている。

 つまりスプレ二十一話が起こったとしても、私の望む形が来るかもしれない。

 その為に、旦那様にはスプレと若干違ったところからアプローチするのがいいはず。


「旦那様」

「どうした」

「合宿編に、お付き合い頂けますか?」

「……がっしゅく?」

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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