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27話 果たし状(旦那様視点)

「だ、旦那様……」

「ああ、クラシオンが何かしたか」


 震える声でクラシオン付の侍女が紙を差し出してきた。

 変わった形で折られている。

 こうして震えて来る時点で、何用か分かってしまうあたり、だいぶ慣れてしまったなと思う。


「は、果たし状、だ、そうです」

「はたしじょう……」


 スプレにそういうものがあるのか。

 中身は中庭に来るよう書いてあるだけ。毎朝彼女が修業やらオープニングやらをしている場所だ。

 今や使用人全てがクラシオンが何をしているか知っているから、そっと一人にしてやってる場所。


「分かった」


 侍女を下がらせ、剣を片手に動きやすい服装で出ることにした。

 この紙の意味は分からないが、クラシオンが何をしたいかは分かる。


「クラシオン」

「来ましたね、エスパダ」


 準備は万端だと言わんばかりに待つクラシオン。

 呼び名と姿から朝の私が敵だとわかる。

 自分でも思うが、この状況に慣れすぎている気がした。


「はたしじょうとはなんだ」

「戦いの正式なお誘いです」

「戦わないといけないのか」

「ええ、洗脳が解けそうな今こそ、畳み掛ける時なのです!」

「どういう時だ」


 クラシオンの長い口上とやらを聞き、鞘に入れたままの剣を構える。

 そうしないと彼女が納得しないのは知っているから。

 ここ最近流されているが、洗脳が解かれる演出とやらには、クラシオンに付き合わないと駄目だとマヌエルに言われている。

 前に伝えた洗脳が解けているというのも、一部一時解けている程度にしか彼女に認識されなかったようだったし、殊更クラシオンの知る筋書通りの流れが必要らしい。


「癒しの戦士、クラシオンがお相手します!」

「ああ、分かった。来なさい」


 これは騎士団の若手の育成だと自分に言い聞かせて相対した。

 遠距離魔法で攻撃しあうぐらいがいいのに、クラシオンの戦い方は殴る蹴るがメイン。

 否応なしに彼女との距離が近い。

 これは自分にとって訓練以外のなにものでもなかった。

 戦わずして距離が近くなるのが理想ではあるが。


「後、何回戦えばいい……」

「エスパダ、それは愚問というものです」

「愚問なのか」


 洗脳が解けるまで戦い続けるという事らしい。

 肝心のマヌエルはスプレの中身を教えてくれていないし、要所の私の台詞ぐらいしか伝えてくれなかった。

 まあクラシオンが喜ぶだろうものだと言われたから飲みこんだものの、どういう展開があれば洗脳が解けるか教えてくれてもよかったと思う。

 そう言うと自分で訊けと奴は言うわけだが、今思うに、それを聞いてもクラシオンが戦う以外の選択をとるとはあまり思えない。


「……癖が抜けたな」


 戦うクラシオンの所作は非常に綺麗だ。

 力が入りすぎる所や、身体の傾き方など、本来持っていた癖を指摘した事があったが、それを全部修正して、今に至っている。

 そう呟くとクラシオンが一瞬きょとんとするも、すぐに私の言う意味が分かったらしい。


「ええ、旦那様が教えて下さったので」

「覚えているのか」

「はい」


 まだ彼女が十に満たない頃だったか。

 私が学生ながら騎士見習いとして王城に出入りを始めた頃にクラシオンと初めて出会った。

 一回り程も離れているのに、何故か歳が近いからと引き合わされ、その時は子供の面倒を見ろと安易に言われたのだと思っていた。


「旦那様だけでしたもの。私の遊びに付き合って下さったのは」

「ああ、あれか」


 木々に登ってはその間を飛び移り、跳び蹴りの練習だと高い所から飛んでいた例の行動か。


「あれは自分の身体を鍛えるついでに付き合っただけで」

「そうだとしても、出会う方は大方呆れて帰っていましたので、最後までいて下さった旦那様はお優しい方だと思いました」


 親の付き合いの都合上、王城に留まらなければいけない時間がある。

 同じ年頃の令嬢の相手をするぐらいなら、気兼ねなく身体を動かせるクラシオンとの時間の方が楽だった。

 まあそのついでに騎士としての鍛えの指導をしてしまったのは不可抗力だ。

 クラシオンがあまりに瞳を輝かせて私を見る挙句、すごいと何度も言われれば悪い気はしない。

 あの頃の私はいつしか騎士の中でも一番になりたいと夢見ていた。

 だからクラシオンの好意をいいように捉えて、王城騎士の真似事をしていたにすぎない。


「きっとあれは、この日のための修業だったのです」

「そうか」


 今している事と大差ないのかもしれない。

 対等に戦うか、教えをするかの違いだ。

 もっとも、爵位のある夫婦の在り方とは随分かけ離れているが。


「クラシオン」

「はい」


 あの頃、歳も上で見習いとはいえ、彼女には騎士にうつっていた私は、彼女の言うヒーローに近いものだったのかもしれない。

 だからこそ、瞳を輝かせて私の騎士としての指導の真似事に付き合ってくれていた。

 私にとっては、いつの間にかそれだけではない真似事以上のものが生まれてしまったが、彼女にとっては所詮子供の遊びの一環だと思っていた。

 

「何故、私の求婚を受けた」

「え?」

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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