18話 劇場に爆弾魔現る
「ちなみに劇場は問題ないのか」
「劇場はアルコ回ですわ。エスパダは欠片も出ません」
「そうか……」
今日はアンヘリカの誘いで観劇に来ている。
社交界と同じで、貴族の挨拶回りをこなして、用意されたボックス席でオペラ鑑賞というところ。
劇場回はスプレで社交界の回のすぐ後に放映した、フスティーシア主役回が該当する。
「スプレ第十三話 乗っ取られた劇場! フスティーシアの女優活動! ですね。アルコ退場回なのですが、うまくいくかどうか……」
「退場回?」
スプレでアルコはここで退場する。
けれど、それが可能か自信がない。
アルコはフスティーシアによって倒される。クラシオンではないから。
フレチャに至ってはアモールが戦士として目覚める時に退場するし、サンドグリアルは戦士が四人揃わないと倒せない。
今、味方が一人もいない中で、どう戦い、どう倒していくか。
よく考えないといけない局面にきているわね。
それよりも、この厳重な警備の中でアルコが侵入するというのも難しい話だから、そこに悩むよりもエスパダの洗脳を解くことを優先すべきかもしれない。
「団長、いえ、クラメント公爵」
名を呼んだのは、専属騎士のアドルフォ。
旦那様が側にいる時は、護衛の必要がないから、今日は劇場の警備に当たっている。
「ああ、そうだったな」
旦那様が剣をアドルフォに手渡す。
観劇中は武器に関する物を外すのが、劇場内のルールだ。
本来なら肌身離さず手に持ちたい所なのだろうけど、この劇場の直轄管理はゴデルバ大宰相。
大宰相は芸術の場に武器は不要と仰る方で、その気難しさはライムンダ侯爵から良く聞いている。
こうして警備隊が最低限でも出入りし、配置がある事にだっていい顔をしない方だ。
「旦那様」
「ああ」
滞りなく観劇は始まった。
オペラは流行りの恋愛もの。
人気の主役が愛を語る様が羨ましく思ってしまうのはいつものことだわ。
舞台のように、私も旦那様に抱きしめてもらえる日が来るかしら。
洗脳を解けば、出会った頃のように笑ってくれるかしら。
そんなことを考えていたら、乱暴な暗転が訪れた。
「?」
「なんだ」
明らかに不自然な暗転。
間も長い。舞台上の演出ではないのは明らか。
周囲も察してか、客席がざわついている。
次にスポットライトが舞台上にあたった。
そこには役者ではない者が立っている。
「じゃ、大人しくしてもらおうか? 貴族のみなさーん」
「フレチャだわ!」
社交界で逃げ果せた時に見た横顔と同じ。
けど、おかしい。
劇場回はアルコなのに、どうしてフレチャがここに。
「はい注目。これなーんだ?」
「あれは!」
フレチャが手に持つものに見覚えがあった。
それはスプレ十三話でアルコが仕掛けた魔法、所謂爆弾というものだ。
アルコの意思で大きく炎上する魔法。
室内である劇場は一瞬で火の海になるような、恐ろしい力を持つ。
「ま、いっか。見せた方が早いし」
天に指さす先には舞台の照明、両手の内、左手に持つ爆弾を照明に投げつける。
それがドンと音を立てて炎上し、黒煙を上げながらフレチャの後ろに落ちてきた。
規模がだいぶ小さいけど、見せつけるには充分。
それを目の当たりにした客席から一気に悲鳴が上がる。
一斉に逃げ出そうと席を立ち、走り出した貴族たちが、すぐに足を止めた。
「やはり、アルコ!」
出入り口の前にはアルコが立っていた。
すべての扉に件の魔法が施され、周囲は迂闊に近づけないでいる。
騎士は全て扉の向こう。
ドンドン扉を叩いて叫ぶ騎士の声が聞こえる。
「あ、迂闊に触れると弾け飛ぶんで」
魔法に長けた一部の貴族が動こうとするのを制す。
はったりではない。
あれはある程度の条件を織り交ぜた魔法だもの。
そう、二人には出来るはずのない。この高度な魔法は、悪の統治者オスクロから授かった力。
本来はアルコだけしか使わなかったけど、一人でも充分苦戦を強いられたスプレ十三話が思い出される。
今回はそれを二人が使うなんて。
「じゃあ、一人ずつ身に着けてるたっかい宝石とかー持ってる金とかー全部ここに、って」
アルコが持っていた大きな袋のようなものに、金品を要求してるけど、周囲はあまりの事態に悲鳴をあげ続けて、アルコの要求が聞こえていない。
何度か試みて、難しいと悟ったのか、アルコは剣呑な色合いを瞳に宿して声を張り上げた。
会場の貴族に届くように。
「あんまうっせえと増やす!」
客席の一部にまで、その魔法を発現させ、会場内はさらにパニックになった。
「あーもー! 一人ぐらいやっていい?」
「いいんじゃね?」
「いけない!」
私はボックス席から身を乗り出した。
見過ごせるわけないもの。
たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。




