12話 旦那様との戦い、二回目(旦那様視点)
「じゃ、ごゆっくり?」
「お前、他人事だと思って」
「その通りだな。ついでだから見てくかなー。リンちゃんの雄姿、一度生で見たかったんだよね~」
「マヌエル!」
ふざけた事を言って。
クラシオンがここに到達する前に、ナタリアに庭に誘導するよう指示を出した。
急いで走り出すナタリアを咎める事はしない。
むしろ急いでくれた方が助かる。
「ああもう……」
「よしよし、行こうぜ」
「前の戦いは見られなかったから、楽しみだわ~」
この夫婦、完全に遊んでいるな。
こちらは真剣に悩んでいるのに。
廊下を歩く中で、物盗りとの戦いの事を話す。
そういえば、あの時も魔法で奇妙な音を流していた事を思い出した。
朝方流していた音とも同じ方法だろう。
「録音と再生だっけ。すごいわよね、あの子」
転生前の記憶では、音も映像とやらも別の何かに移して、いつでも自分の意のままに、同じものを元通り流すことが出来るという。
それをクラシオンは自ら考え、魔法の組み換えを行うことよって、自力でやり遂げてしまった。
「本当なら学会発表ものなんだけど、王女殿下の方で、その技術を預かる形になったわ」
「そうか」
後々王陛下から正式な発表を元に、その後、研究や教育に組み込まれるだろう。
「リン」
「アンヘリカ、来ていたの」
程なくして、中庭に着いた。
友人が一緒だったことに驚きつつも、柔らかい笑みを向ける。
それが少し羨ましくて、僅かに眉を顰めた。
これが知られれば、また器量がどうこう言われるのは目に見えている。
「クラシオン。今私はこの通り、応対中だ」
「私の友人に接触するとは油断なりませんね、エスパダ」
「ああ、そういう方向でいくのか……」
「頑張ってね~」
「マヌエル、クラシオンに気軽に手を振るな」
とうの本人は応援されて嬉しそうにしていた。
戦士は負けませんわと意気揚々としている。
「なんだ、その態度は」
笑いかけるなんて。
自分の時と対応が違って、心内に靄がかかる。
「いや、お前のせいだろ」
「なんだと」
「お前もこうやって笑いかけてあげれば、同じもの返してくれるってこと」
つまりは私の表情と態度がよくなかったと。
年上の公爵家の主人として立っていても、クラシオンには理解されないというのか。
「エスパダ」
「……ああ、どうした」
ミドルネームとはいえ、クラシオンから名前で呼ばれ、もぞ痒さを感じた。
「剣はいかがしました」
「ああ、そうだな」
彼女は様式美にこだわっているようだ。
仕方なしに、鞘に入れたまま剣を構える。
マヌエルに会う時点で帯剣しておいてよかった。
「剣を抜かないのですか」
「真剣は危険だろう」
当たり前の事だ。
そもそも、こうして付き合っているが、本来こんなことはしたくもない。
さっさと誤解を解いて、以前と同じ夫婦に戻りたい。
いや出来れば、以前のではなく、もっとお互い気心が知れた関係に。
そんな私の思いなど分かるわけもなく、ただ先の言葉について、クラシオンは何かを考えるように、顎に手を添え言葉を発しない。
洗脳などない事に早く気づいてほしいものだ。
「では」
「……戦わないという選択は出来ないのか」
「ええ、旦那様の洗脳が解けない限りは」
その誤解をどう解けばいい。
こちらに駆けだすクラシオンの蹴りを剣で受ける。
待て、その服で蹴りは駄目だ。
普段よりも薄くひらめく為に、中が翻って見えてしまうではないか。
急いで視線を逸らした。
「ク、クラシオン」
「やはり簡単にはいきませんね、エスパダ」
殴打の連続で、注意する時間は与えてくれなかった。
クラシオンの戦い方は今まで見たことがない。
武器を使わず、魔法も彼女の言う必殺技ぐらいで、後は身体強化の魔法を自身にかけて、突っ込んで来る戦い方をする。
ある程度型のある戦い方をするなら、動きが読めてくるものの、その動きには型がない。
すなわち予測不能。
傷つけないようにしつつ応戦するには、こちらが後手にならざるを得なかった。
「へー! リンちゃんカッコイー!」
「いいわよ! ボコボコにしちゃいなさい!」
「お前達……」
中庭、奥まってあまり人目につかないところで戦うからいいものの、この有様を人前に晒すことは出来ない。
そもそも、この衣装に見を包んでいる時点で、衆目に晒すなど言語道断だった。
それに戦うとなったら、この距離だ。
近すぎる。
他の男を相手に、この近距離は駄目だ。私だって素知らぬ顔をするのが精一杯なのに。
「どちらの味方だ」
「断然リンちゃんだろ」
「癒しの戦士、負けないでー!」
「こいつら……」
クラシオンの速さと攻撃の重さのレベルが跳ね上がった。
瞳の奥の煌めきがあがる。
二人の応援でやる気を出したか。
「羨ましいな……」
「え?」
拳と剣で鍔競り合いをする中、私の言葉を聞いて彼女が驚く。
聞こえない程の囁きのつもりだったが、聞こえていたようで。
ああ、そうだった。
クラシオンは耳が人より繊細で良く聞こえることを思い出す。
「君は自由だな」
「エスパダ……」
言葉と表情に戸惑いが見られた。
本来クラシオンと争うなど言語道断だ。
けれど、その輝く瞳を見られるのは好ましく、付き合うという建前を持って、彼女の行為を強く止める事はしなかった。
それが今はどうだ。
結局、自分の前でクラシオンは好ましい顔をしないというのか。
いや、私がそうさせているのか。
たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。




