37話 嵐の後に
日中はまだまだ暑いが、朝晩は肌寒い。
そんな季節になったとある日、俺達は数日に渡り凄まじい嵐に見舞われた。
アイム曰く、この時期は比較的嵐が多いそうだ。
この乱発する嵐の発生が収まってくると、気温が徐々に下がり始め、寒期という冬に該当する季節へと変わっていくのだそうだ。
「しっかし………レッドに出会った日も嵐の翌日だったけど、今回のはアレの比じゃないな……」
「むぅ………今回の嵐は稀に見る強さだ。私もこんなに強い嵐は初めて経験する」
イサリアがある地域は世界的にみても、この時期は嵐が多いらしく、この地域に住まう人々は慣れているらしいが、長年イサリアで暮らしていたアイムも今回の嵐は初体験だというほどの強さを誇っているらしい。
イサリアの近く、俺達が暮らす場所の魔力溜まりが、頻発する回数と規模に影響しているのは間違い無さそうだが、それでも今回のは格段に強い。
「森の太い木が空を舞ってる光景なんて初めて見たぞ……」
「うむ……早めに準備しておいて良かったな」
雨は超大粒で、体に当たると痛いと思えるほどであり立つこともままならず、風も森に生えている大木が根元から吹き飛ばされ、空を舞っている。雷鳴も頻繁に轟き、落雷もたまにある。
アイムの助言を受け、この時期に嵐が多い事を事前に聞いており、雨や風が強くなり始める前にチョコに頼んで洞窟の入口を塞げる大きさの岩を用意し塞いでおいてある。
扉を作れれば良かったのだが、時間と技術的に問題があり、岩で凌ぐ事にした。
その為、少しの隙間が空いているが、雨や飛んできたものが洞窟内に入ってくる心配はない。
流石にこんな嵐の中、魔物達も外に出ることはなく、洞窟内で大人しくしている。
洞窟内にいても雨音で互いの声が聞き取りづらい様な状況だが、折角の時間を無駄にはしたくないのでこの時間を使って木材を加工し、クシを作ってみた。
「どうだ?気持ちいい?」
まずはレッドにクシを通し、毛繕いをしてあげる。
木だと硬過ぎかと心配していたが、魔物達の毛はかなりの剛毛だ。
丁度良いらしく、かなり気に入ってくれたようだ。
チョコの分も作ってあるので、アイムが一生懸命チョコによじ登り毛繕いしてあげていた。
コロやヴァンには以前作ったお手製の歯ブラシのサイズを大きくした物で、鱗を磨いてあげる。
魔力風呂に入ったとしても、鱗の間に入った小さな石なんかが挟まっていたようで、こちらもかなり気に入ってくれたようだ。
クシとブラシの加工に1日、それでも嵐は強さそのままに続き、次の日も毛繕いやのんびりと過ごす。
そんな嵐の2日目の昼時の事だった。
横になっていたレッドが突然真っ赤に変化し、外を警戒し始める。
レッドだけでなく、魔物達総出で警戒を始めたことで俺達も只事じゃないと理解する。
「こんな嵐の中襲ってくる奴が居るのか?」
「分からん。しかし私達も備えはしておこう」
雨音で会話もままならない状況だが、極力声を落とし俺達も外を警戒する。
隙間は少し空いている為、チョコ以外は外に出ることも可能だが決して外には出ず、ひたすら臨戦態勢のまま魔物達は警戒にあたる。
それは夜になっても続き、食事すら摂らず、ただ静かに警戒をしている。
そんな時、突然爆音が轟き、大地を揺らす。
「うぉっ!!!……ったぁ…………耳が痛てぇ」
「かなり大規模な落雷があったようだ。随分と近いぞ」
落雷の衝撃で座っている俺の体が一瞬浮くくらいの衝撃があり、耳鳴りが凄まじい。
その大規模な落雷の後、魔物達は警戒を徐々に解き、各々体を休め始めた。
「みんな落雷を感じ取っていたのか?」
「野生の本能というものか……」
そんな中、レッドだけが警戒を解かず、意識を外に向けているが、落雷を機に嵐は勢いを弱めていく。
夜が明ける前には雨も風も止み、俺達も少し眠ることにした。
日が昇り、入口を塞いだ岩の隙間から光が見え、チョコに頼んで岩をどかし外に出る。
「綺麗に晴れてるな」
外は昨夜の天気が嘘のように晴れ渡り、朝日が雨水に反射しキラキラと輝いていた。
レッドもそれを見てやっと毛の色が戻り、体を丸め休み始める。
外は晴れてはいるが、地面などはぐちゃぐちゃで魔物達は外に出ようとしない。
俺はアイムと共に周囲を見回ってこようと話していると、ヴァンが同行してくれるようだ。
「ヴァン、ありがとうな。蛇は湿気とか好きそうだし、丁度良かったのか?」
「ジャ!」
「しかしホントにこの地は逞しいな。あれ程の嵐があったにも関わらず、殆ど被害が無さそうだ」
アイムの言う通り所々木がなぎ倒されていたり、川の水が溢れそうになってはいるが、洞窟から見渡して見た感じ甚大な被害は無さそうだ。
だが、草原の一角に煙が立ち昇っている場所を見つける。
「あれ、まさか雷が落ちた場所か?」
「まさか……よく見ると地面が陥没しているように見えるが………」
「行ってみよう」
ヴァンをお供に、落雷があったであろう場所にアイムと向かう。
近付くと地面は巨大なクレーターのように陥没しているのが分かった。
そのクレーターを恐る恐る覗いてみる。
「んっ!?…………何かあるって、おいっ!アイム」
「任せておけ!」
俺がクレーターの中央に何かを見つけると同時にアイムはクレーターに飛び込み、ヴァンが慌ててアイムの後を追う。
そしてクレーターの中央にあった何かを両手で抱え、戻ってきた。
「アベル、見ろ!何かの卵のようだぞ」
「………………」
ヤバいことになった。
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