36話 寝具を作る
「絶対に無理はするなよ?」
「分かっているっ!任せておけ」
俺が作ったカカシを背負うアイムに念を押す。
俺達は今、拠点の東に位置する森の中に来ている。
この森に住むチーチュラという大型蜘蛛の魔物に用事があるのだ。
この蜘蛛の吐き出す糸は鋼の強度を持ち、とてもしなやか。色々な物が作り出せる。
この地に来た当初から目をつけていた素材の1つなのだが、今採取するのには理由がある。
それは人手が足りなかったわけではなく、単純に時期の問題だ。
チーチュラの吐き出す糸は時期によって性質が変わる。
暖かい時期は粘着性の強いゴムのような糸を、寒い時期にはとても硬い鋼のような糸をそれぞれ吐き出す。
寒い時期の糸は強度は凄まじいのだが、しなやかさがなく、加工が困難で、その丁度中間に位置する性質の糸を吐き出すのが暑い今の時期なのだ。
そしてチーチュラはあまり知能が高くない。
とても獰猛ではあるが、動くものにはとりあえず糸を吐き付けとけ!くらいの勢いで、何にでも糸を吐き出す。
その為、アイムが背負っているのが生き物じゃなく、俺が作ったいい加減なカカシであっても糸を吐き出してくれる。
その糸を回収し利用しようと考えているのだ。
アイムは自身のみ草に身を隠し、カカシだけを覗かせてチーチュラの周囲を走り回る。
「レッド、アイムに危険があったらすぐに助けに入ってくれよ!」
「ウォン!」
本来であればカカシを背負うのは俺の役目であるはずなのだが、俺の身体能力はアイムに遥かに劣る。
かけっこでさえ、鎧を着込んだアイムに大差をつけて負けるほどだ。
加えて、アイムはいざとなれば飛行し逃げることも出来るからと今回カカシを背負う役を買って出てくれた。
その後、何事もなく用意したカカシ5つが糸でぐるぐる巻きになった為、魔物フードをチーチュラの腹が膨れる程度近くに置き、森を後にした。
「ふぅ………」
「お疲れっ!……ありがとな」
「よしてくれ……大したことじゃないさ」
アイムは本当に気にしていないようだが、俺も男だ。
危険なことを女性にやらせるのは気が引ける。
今から鍛えてどうにかなるだろうか………
魔物達……レッドやヴァンに頼むことも思いつかなかった訳では無い。
だが、すぐにそれは無い。と頭から考えを追い出した。
この素材を使うのは俺達なのだ。
頼るのと利用することは違う。今回は自分達でもなんとか出来ることだし、やらないといけない。出来ないなら諦める。
アイムもそれを理解してくれており、魔物達に頼る素振りもみせなかった。
ともあれ素材は確保出来た。
これを使ってこれから必ず必要になる物を作っていく。
以前イサリアに行った際、俺の衣服と共に大きめの布生地を買っておいた。
これを長方形に切り、チーチュラの糸で袋状に縫っていく。
出来上がった大きな袋の中には以前から集めていたチョコの抜けた羽根を入れていく。
チョコの羽根は暑さ、寒さを和らげる性質がある。
この性質があるからこそチョコは様々な環境に適応出来るのだ。
こうしてチョコの羽根を使った羽毛布団が完成する予定だ。
布団作りはアイムに任せ、俺は別の作業を行う。
アイムがチクチク布団を縫ってくれている間に俺はチョコに乗せてもらい、拠点西側に広がる荒野の先、砂漠にやって来た。
この砂漠にいるウルサーラという、某空調機のような名前の魔物が生み出す素材を採取にきた。
ウルサーラは砂を魚のように泳ぐ魔物で、体長は4、5mほどのサメと同じくらい。
だがウルサーラはかなり温厚で他の生物を襲うことはなく、体長の割に食べるのは砂の中にいる微生物と、かなり変わった魔物だ。
そのウルサーラがエラ呼吸をして取り込んだ砂は魔力が宿り、変わった特性が付与される。
俺はその砂を集めにきたのだ。
ウルサーラの砂は砂漠の何処にでもある訳ではなく、オアシスがあることがまず条件の1つで、さらにそのオアシスに茂る木が特定の種類でないといけない。とかなり条件は厳しいのだが、幸いここのウルサーラは砂を出す条件を満たしている。
オアシスを見付け、降り立つと周囲にキラキラと光る他とは違った砂をすぐに発見する。
「よっし!これだな…………チョコ、お願いな」
「ピエっ!」
キラキラ光るウルサーラの砂を根こそぎ集めて、リュックや買った袋、あらゆる袋に詰めていく。
ウルサーラにとってこの砂は何の価値もないただの砂、人間で例えると吐いた息に等しいものだ。あるだけ貰っていく。
拠点の洞窟の一角に砂の山が出来るほどかき集め、俺も作業に入る。
今まで扱うことが出来なかった皮などを魔鋼の針とチーチュラの糸で縫っていく。
皮はスライムのプルによって防腐処理がされており、毛などもその過程で抜けている。
時間がある時にコロと一緒に叩いてなめし、革に加工しておいた。
それを大きめの長方形に縫い、中にウルサーラの砂を詰めていく。
これでベットが完成の予定だ。
ウルサーラの砂は水を加えると水の温度に砂が変化し、その温度を一定に保つ性質がある。
つまりキンキンに冷えた水をこのベットの中の砂に加えると、キンキンに冷えたベットになり、熱湯を注げばアッツアツのベットになるという訳だ。
これにチョコの羽毛布団が合わされば、真夏、真冬もバッチ来いっ!だ。
というわけで完成を目指し俺とアイムは日課が終わればひたすらチクチク縫い続け、約一月かけてベットと掛布団を完成させた。
「出来たぁーーー!!!」
「中々時間がかかってしまったな」
布団の方はすでに完成していたのだが、ベットの方の革が硬く、一月かかってしまった。
俺もアイムも布団はまだ未体験だが、すでにコロやレッドは布団が気に入ったようで、最近では布団の上で良く寝ている。
そんなレッド達から恨めしそうな目で見られながらも布団を取り上げ、ベットに川の水を染み込ませ布団を被る。
「くっ…………これはまさに夢見心地。アベル風に言うとサイコーだ」
「ははっ、そうかそうか」
アイムもかなり気に入ったようだ。
ウルサーラの砂は柔らか過ぎず、硬すぎず、寝具には最適なんだそうだ。マニュアル万歳!!
「アベルも、ほら……」
「はっ!?」
アイムはベットに横になって自分の隣をポンポン叩き、俺をベットに誘う。
「お、お前なぁ………一緒に寝るつもりか?」
「へっ!?あ、いや、も、勿論変な意味はないぞ?……………いや、その、すまない」
「お前は本当にそういうところ抜けてるなぁ…」
前世なら一緒に寝るくらい…まぁ俺は童貞だから気にするが、頑なにとは言わない。だがこの世界ではかなり厳しいらしく、恋人同士でも人前で手を繋いで歩くなんてことは殆どないくらい、公にはしないそうだ。
そんなこともありつつ、また一月かけて、さらに大きなベットと掛け布団用の袋を作った。
今はチョコの羽根が足りない為、集まり次第布団を完成させ、俺の布団にする予定だ。
だんだんと暑さも和らぎ、秋に該当する季節になってきた。
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