33話 話し合い
「なぁアイム、あの執事さん帰り大丈夫なのか?」
拠点に帰り着き、魔物達から熱烈歓迎をされた後、アイムに質問してみる。
「あぁ、問題ない。あれは私の剣の師であり、凄まじく腕がたつ。守る対象がなく、1人なら尚更危険はない」
「なるほどなぁ。あの優しい態度も強者の余裕からくるものなのか……」
レッドに対しても恐怖とか感じて無さそうだったし、制圧出来る自信があったのかも知れないな。
「それより随分と荷物少ないんだな」
「最低限の衣服を持ってきただけだ。必要な物は君と一緒に買って回っただろ?」
「だからあんなに親身になって選んでくれてたのか。納得だ」
「ところで主スキルはどれを授かったのだ?」
「ん?技才だ」
「おぉ!良かったじゃないか!これからの生活にはうってつけだな。…………私も技才を授かっていれば………」
「何でだよ!学才には学才の良いところがあるだろ?」
「うむ………そうだな。すまない、焦りが出たようだ」
アイムは次の暖期、春に該当する季節がくるまでに成果を出す条件でここにいる。
まぁ気が逸るのも分からないでもない。
とはいえ新たな物質を開発するためにここにいる訳じゃない。
何も無い状態から生活し、魔物達と協力して、生き抜いていくその過程で生まれる物質だからこそ意味があり、価値がある。
「アイム、いざとなったらこのゴム手袋でも持っていけば解決するんだ。焦って変な物作っても意味ないぞ?」
「うむ…………」
うーん、寝たらもう少し考えも柔らかくなるだろう。
今日はもう寝よう。
―翌日―
早速アイムが空回りしている。
俺が起きた時すでにアイムも起きていたのだが、何故か全裸だった。
「バカか………なんで裸なんだよ」
「むっ?衣服もない状態から生活を始めた気分を味わってみようかと考えついてな……」
「だからって実際に脱ぐことはないだろ!俺が居ることを忘れないでくれよ………これでも年頃の男なんだぞ?」
俺のその言葉を聞いた瞬間、アイムは動きを止め、自分の体を見下ろした瞬間、慌てて手で隠す。
「あわ、待て、違うんだ!み、見ないでくれ」
「分かったから。早く服着ろ……」
寝起きじゃなかったら漲ってたかもしれない……………
「あのな、アイム。ちょっと話をしよう」
「は、はい………」
急に畏まったアイムがおずおずと俺の近くに座る。
「アイムがここに来た理由は魔物達と一緒に生活をする為だろ?新しい物を生み出す為じゃないはずだ」
色々あって目的が見えなくなっていそうだから、ここでおさらいだ。
まず俺の究極ともいえる目標は生きることだ。そして魔物達と暮らすのは、1人では生きていけないから。
俺と仲良くなった魔物達は俺に力を貸してくれる。
だからこそ俺はそんな魔物達に形を変えてお礼をしたい。
そこから魔物フードが生まれたわけだ。
それから生きる為、少しでも生活が豊かになるように、色々と足掻いた結果、偶然コロバーンに行き着いた。
人の多くが魔物を受け入れられないから、俺は魔物達とこんな辺境の地で生活しているが、結局のところ、便利な物を生み出すだけならここに居座る必要はない。魔物を狩りでもして安全なところで実験すればいい話だし、もっと言えば魔法があるこの世界で、無理に魔物素材から何かを生み出す必要はないように思える。
「アイム、俺達は生み出す事を目的にしちゃいけないんだ。必要な物は生活の中で必然と生まれるはずだからな」
「ふむ………」
「例えばだけど、イサリアは魔法で栄えた街だろ?その根底には栄えさせるだけの何かがあったはずだ。だからこそ、その根底を見つけた人はそれを利用しようと考え、同じく利用しようとした人が噂を聞きつけて集まった。そして街と呼ばれるくらいに大きくなったはずだ。まぁ、正確には違うと思うけどな」
「うむ」
「じゃあ、一流の魔法使い達が集まったにも関わらず、あらゆるモノ全て魔法で解決しないのはなんでだ?」
「それは当然、使えない者も街にはいるからだ」
「そうだよな。そんな人達もいる中で、街に根付いた発明が受け入れられているのは、生活に寄り添った発明だからだよ」
「ふむ」
「魔法が全てを支配するようになれば、使えない人は淘汰される。じゃあ魔法が使える人だけが残れば良いのか?そんなはずはないよな」
「うむ」
「一流の魔法使い達が集まった場所に他のヤツらを入れなければ、生み出すことを目的としても良い。だけど、イサリアという街をつくり、そこで生活をするなら生み出すことは二の次。まずは生きることが優先だ」
「ふむ」
「長々と喋ったけど、結局はどんな凄い発明も、人の生活に寄り添うものは生きる過程で生まれた物ってことだ。そしてそれを目指すべきだ」
「ふむ…………私達は生きるその過程で、イサリアのように魔法ではなく、魔物達からの恩恵を生活に取り入れようという事だな」
「そういうこと!」
本当に長々と喋ったけど、途中で自分が何を言いたいのか訳分からなくなってしまった。
でもちゃんとアイムには伝わっているようだ。
「それは理解したが、私に出来るだろうか………」
「んー、じゃもうちょっと話をしよう。もう既に俺とアイムは同じ場所に立っている」
「うん?」
「言い方が難しいけど、今のところ俺に出来て、アイムに出来ないことはないって意味だ。まぁ俺はアイムより少し今の生活の経験が長い分、その差はあるけどな」
「ふむ」
「だからこそアイムにも色々と意見を言って欲しいし、思いついた事はやって欲しい。そこに俺は自分の意見を混ぜるし、その逆も然りだ。俺とアイムは違う。だからこそ根本的な考え方も違ったし、それによって物事の見え方も違う。違うからこそ生み出せる物も違ってくる」
「…………」
「俺は魔法的なことは何も分からない。けど技術的なことはアイムより少しは詳しいはずだ」
「わ、私はアベルより魔法に詳しい!」
「そういうことだ!お互い意見を出し合って、上手く自分の利点を活かしていこうぜ」
俺がそう言うとアイムの表情が一気に明るくなった。
こういうのを顔にパッと花が咲くと表現するんだろうな。
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