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32話 親子愛

近付いてくる女性は、アイムに妖艶な魅力を付け加えたかのような美人だ。

まぁ姉ちゃんとかだろうな……



「お母様…なぜここに?」


(母ちゃんかーい!わっか!!)



母親ということは、この国の王妃様だ。

ヘタに喋って不敬を働いてしまうのも怖いので黙っておこう。



「なぜって………見送りに来たに決まっているでしょう?」



このタイミング、アイムに対して見送り………

まさかアイムは俺についてくる気だったのか?



「お、おい、アイム………お前、ついてくる気だったのか?」


「………すまない。言い出し損ねてしまった。だが__」


「あらあら、貴方がアベル君?アイムの母親、アリシアと申します。娘をよろしくお願いしますね」


「えっ!?は、はいっ!アベルといいます。よろしくお願いします」


「お母様………」


「うふふ、しっかり学んできなさい。応援してるわ」



抱擁を交わすアイム達を黙って見ていたが、何故か少し寂しい気持ちが込み上げてくる。

俺は前世でもアイムの母親のように、両親に優しくされた記憶がない。

まぁ、だからこそ死んで異世界に来た今、後腐れも無いのだが…



そんな時だった。



「待てぇいっ!!」



突然大声が響き渡る。

その声は低いが良く通る声で、威厳に満ちている。



声が聞こえた方向を向くと、門の反対側。俺達の背後の建物の屋根の上に、豪華な服装で、マントをたなびかせ仁王立ちしている男が立っていた。



そして男はバッと飛び上がり、王妃の隣に華麗に着地を決める。



「陛下……ステキ………」



さっきまで厳格そうな母親だったアリシアは、恍惚の表情を浮かべ舞い降りた男に擦り寄っていく。



「お父様まで………」



ですよね。



「アイム、ワシは……ワシはなぁっ!!!………むっ!?お主は………」



王はアイムに何か言いたげだったが、俺に気付き視線を向けてくる。



「アベルと申します」



跪いたりした方が良いのか?

良く分からないが、一応頭は下げながら挨拶する。



「ほう?"貴様"が………ワシの…ワシの可愛い娘を殴ったという不届き者かぁ!!!!あぶっ__」


「あら陛下、見苦しいですわ」



急に怒りが爆発したのか、王が俺に詰め寄ろうとした瞬間、王妃のグーパンが王の顔面に炸裂する。



(アイムのグーパンは母親譲りか………)



「むぅ………痛いぞアリシアよ……まぁ良い。ときに、アベルと言ったな」



随分とお茶目な人なのか?などと思っていたが、王の雰囲気が突然変わる。

先程までのお茶目な雰囲気はなりを潜め、向かい合うだけでも足が震えそうな威厳を放ち、俺に視線を向けている。



「もう、陛下ったら………」



そう言って王妃が再び笑顔でグーパンを繰り出していたが、王がそのグーパンを容易く受け止める。



「アリシアよ、今は男と男の会話だ。邪魔をするでない」


「あぁんっ……………ステキ」


「お母様……………」



愉快な家族だ。



「アベルよ、お主のことは昨夜アイムから嫌という程聞かされておる。お主のやる事に何も口出しする気は一切ない。好きにするが良い。しかしだ!アイムはそうはいかん」


「待ってください。話が違います!!」



王はアイムに視線を向けるだけで何も言わず、再び視線を俺に戻す。



「お主とアイムは立場が違う。それは理解しておるな?」


「はい……」


「アイムには将来この国に携わるべく教育を受けさせてきた。この国にとって有能な人材を、わざわざ危険な場所に送り出すことは出来ん。分かってくれるな?」



この世界では、前世のように皆が等しく一定の教育を受けれる訳じゃない。

だからこそ、その教育を受け、頭角を現し民を想う気持ちを持つアイムを危険な場所には行かせられないのだろう。



「これは王ではなく、1人の父親としての言葉だ。アイムを想えば、目指す先に何があるかも分からん分野を危険な地で学ぶより、安全な地でしっかりと自らの糧になることを学んで欲しいのだ。お主が屈強な男であれば兎も角、今回ばかりは許可できん」



「話は、分かりました……」



なるほど、王は俺からアイムについて来るなと言って欲しいのだろう。

そうすればアイムが諦めると………



俺としても、アイムがわざわざついてくる必要は無いと思っていた。

すでにアイムは俺の考え方などを理解してくれている。加えて既に技術的な差もそれほどないのだ。

それにアイムを見て、王の話を聞いた今、アイムにやりたい事をやらせてあげて、環境を整えてあげて、と王や王妃は娘想いのかなり良い親でもあるのだろう。



「しかし受け入れる事は出来ませんっ!」


「なに!?」


「貴方は言った。父親としてと……確かに娘が心配なのは良く分かる。しかしそれは本当にアイムのためになるのでしょうか?貴方は、娘を護る…それを言い訳にアイムを縛り付けているだけではありませんか?」


「な、なんだと?ワシは…」



ふぉぉ!!!漲ってきたぁ!!いくとこまでいってやるぜ!



「アイムはもう、何も知らない籠の中の鳥じゃないはずです。そんなアイムが必死に考えて出した答えを親である貴方は心配だからと否定する…………それは本当に娘のためになりますか?本当に娘を…アイムを想うのであれば、覚悟をもって物事に向き合おうとするアイムの背中を押すべきではないですか?」


「あらヤダ、ステキ…………乗り換えちゃおうかしら……」


「お母様っ!!」


「確かに危険なことには変わりはない。後々アイムが深い傷を負うことだってあるかもしれない……しかしアイムはそれすら承知のはずだ。それだけの覚悟をもった1人の人間の行動を貴方は否定するのですか?」


「むぅ………………」



がはは、勝ったな!

見た目は若造だが、こちとら前世の記憶持ちだぞ!

伊達に35年も生きちゃいないぞ!



いかん、テンション上がり過ぎて思考がぶっ飛んでる。

落ち着かないと。



「俺には、貴方の心配することからアイムを護ることは出来ません。だからついて来いと言うつもりないし、逆についてくることを拒む事もしません。決めるのはアイムだから」


「わ、私は行きます!たとえ家名を捨てることになったとしても」


「あらあら……」


「そ、それはこの男と…………くっ」



王妃は口元を隠し穏やかな表情を浮かべ、一方の王は地面に膝をついて何なら悔しがっている。



いや、何か違う方向に話が逸れてる気がする。



「アイム、なんか誤解されてるぞ」


「お父様、お母様………私はアベルの成すことを遠くから見届けるのではなく、自らがそこに加わりたいのです。どうか馬鹿な娘だと思い、行かせてください」



先程までのおちゃらけた雰囲気とはかわり、王、王妃共に真剣な表情でアイムを見ている。



「分かった………」


「っ!ありがとうございます」


「しかし条件がある。次の暖期までに成果をあげてみせよ。お主が国にとって有能な人材であることには変わりない。そんな人材をいつまでも遊ばせておくわけにもいかん」


「成果………」


「コロバーンと言ったか?あれはアベルが作り出した物だろう。それに匹敵する成果を上げることが条件だ。出来ぬようなら無理にでも連れ戻す。よいな?」


「分かりました。必ず納得のいく成果をあげてご覧にいれます」



こうしてアイムは条件付きだが、俺達と一緒に生活することが許された。



門に用意されていた馬車にアイムと共に乗り込む。



「それでは行ってまいります。お父様もお母様もお体にはお気をつけ下さい」


「えぇ、頑張ってらっしゃい」


「ふぐぅ…アイムゥ、いつでも帰ってきて良いのだぞ?行かなくて良いのだぞ?あべっ」


「見苦しいですよ陛下」



王はドMなんだろうか……また殴られてる。

そんな王と王妃に見送られ馬車が動き出した。御者は俺を色々案内してくれた執事さんだ。



「アベル、ありがとう」


「ん?あぁ、まぁ、あんだけ言ったんだ。頑張っていこうぜ」



街から離れ、1度馬車を止めてもらいレッドと合流する。



「ごめんレッド、お待たせ!」


「ワフ!」



流石の執事さんもレッドを見て目を丸くしていたが、すぐに受け入れてくれた。

そしてレッドも馬車の中に乗り込む。



「レッド、これからは私もよろしくな」


「ワフワフ!」



こうして俺達は馬車で森の手前まで送ってもらう。

流石に森に馬車で入るのは危険だからな。



「ここからなら私は飛んで行ける。上からついて行こう」


「分かった。レッド頼むな」



こうして俺達は夕方、拠点に帰り着いた。

読んで頂きありがとうございます。

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