28話 弟子入り?
「とりあえずその鎧脱いだら?ここは足場も悪い所が多いし邪魔だろ?」
「む?確かにそうだな」
アイムは合戦で使用するガチガチのフルプレートではなく、露出の多い鎧を身につけて、その上からローブを羽織っている。
俺には実用性がなく、少々コスプレに見えるが、フルプレートなど普段使いする方がどうかしてる。
あれは総重量50㌔ほどあったはずだ。
言ったあとに気付いたが、これセクハラになるのか?
いやいや、ここは山の中腹だ。整備された道なんかないし、躓いて転んだらそのまま崖下に落下する事もない訳では無い。
やましい気持ちなど一切ないが、脱いでる姿が視界に映るとちょっとドキドキしてしまう。
アイムが鎧を脱ぎインナー姿となるが、薄手のノースリーブに、下はホットパンツの様な服装だ。
ローブも外し、かなり軽装になったアイムがぐぐっと伸びをした時、ついつい視線がとある場所に吸い込まれそうになり、慌てて背を向ける。
「こ、この先に魔力風呂ってのがあるから入ってきたら?服ごと入れば洗濯も一緒に出来るぞ」
「な、なんと!」
今はキリの実の器に魔力風呂の水を救って洗濯桶を別に用意しているが、まぁ、俺なりに女性に対して配慮したつもりだ。
どうやらコロも魔力風呂に入るようでアイムの後にトテトテ歩いてついて行った。
「ふぅ………しかし顔もスタイルも良いとか、それだけで勝ち組だなアイツ…」
アイムは鎧を着ていても分かったが、脱ぐともっとスタイルの良さが分かる。
身長は160ほどで、まさに理想の体型だと思うほどだ。
顔もかなり整っていて美人。
可愛いというよりはかっこいい感じで、女性にモテそうな女性といった感じか……
声も低くはあるが、それがまたイケヴォであり、良く通る。
そんな女性が育ちの良さから丁寧で、高い志を持っていて、さらに騎士の格好までして志を貫こうとしている。
前世にいたらすぐに人気者だろう。
「異世界、恐るべし…………」
少しするとアイムが興奮した様子で帰ってくる。
「アベル!アベル!!凄いぞ」
「そうだろう、そうだろう」
「魔力風呂など知識としては知っていたが、まさか本物を体験出来るとは………」
「そうだろう、そうだろう」
まぁこういう反応はするだろうと思っていたから適当にあしらっておく。
夜は更けていくがまだ寝る気になれず、アイムも同じようで、色々と話してみることにした。
「そういえばアイムは魔法を学んでるって言ってたよな?騎士の傍ら魔法を学んでるのか?」
「いや、魔法を学ぶ傍ら騎士として教えを受けている。私の"主スキル"は学才だからな」
「主スキル?」
初めて聞く単語だ。
「意外だな………アベルは主スキルを知らないのか?……ということは持ってもいないということか?」
「知らないし、持ってない」
主スキルとは誰もが教会などで授かることが出来るスキルの事で、大きく分けて5つあるそうだ。
戦才、学才、商才、技才、神才があり、読んで字のごとくだが、それぞれの才能を示すものらしい。
神才は分かりずらいが、司祭や巫女、治癒魔法を使うにはこの主スキルが必要なんだそうだ。
そしてこの主スキルは、まさに天からの授かり物であり、自身の人生において道標になるそうだ。
「なるほどなぁ……つまり戦才を授かれば、騎士だったり、冒険者になったり、戦いに関係する才能を得られるわけか」
この場合、もとから才能があったから授かった。が正しいか?
「概ねそういう事になる。主スキルを授かることで、その分野に関係するスキルがより高い効果を発揮したり、習得しやすくなったりするぞ」
「ほうほう。それは俺でも授かれるのか?」
「大きな街にある教会に行けば大抵は授かることが出来る。アベルも街に行けば問題無いはずだ」
「近々街に行く予定ではあったからな…………」
その後は、ここでの生活や、俺が魔物と共存を目指していることなどを語り、コロバーンを作り出したことも伝える。
「そんな物が…………なら世に出せば……いや、そうなると魔物達を乱獲する者が……いやいや危険を侵すものがより増えて………しかし」
アイムが葛藤を初めてしまったが、少しすると答えが出たようだ。
「なるほど、君が何故こんな地に居るのか理解が出来た。君が想い描く理想は、人々が真に理解していないと辛いものなんだな」
「理解が早くて助かる」
魔物が人に仇なす邪悪な存在だという認識がある限り、俺の理想は真の意味で実現出来ない。
「しかしそれは神聖教会の教えに反することになるだろうからな………今すぐどうにかするのは無理かもしれない」
「神聖教会…………宗教か」
宗教そのものをどうこう言う気はない。
その宗教だって生い立ちがあり、人を導くには必要なもののはずだ。
しかし宗教が根底にあるだとすると厄介なのは間違いない。
まぁ、無理をせずアイムのように理解をしてくれる人と協力すればいい話だ。
数百年後にでも俺が描いた理想が実現出来ればそれでいい。
その話を最後にこの日は眠ることになった。
そして翌日、まだコロバーンの試行錯誤は続けている為、ついでにアイムにも見せてみることにした。
コロバーンは俺が目指す魔物との共存において1つの完成形とも言える物だ。
コロ炭とヴァンのトゲを混ぜ合わせる工程も見せ、極小数の粉に火を着ける。
「…………………」
「これは自然には絶対に出来ない物だ。ラピスディロスとリーペントが同じ環境に住むことがまずないからな」
「す、素晴らしい。…………………そうだ、アベル。これを私に買い取らせて貰えないか?」
アイムも俺の考えに共感してくれており、これから色々と学びたいと意志を示してくれていた。
そしてその完成形の1つであるコロバーンを使って所謂布教活動をしたいと言い出したのだ。
「うーーん、アイムに渡す分には問題ない。当然、量は少なくさせてもらうけど………だけどこれを世間に出すのは早すぎないか?」
「分かっている。慎重に取り扱うつもりだ。今は持ち合わせがないが、後に街に行くのだろ?その時にでも必ず満足のいく金額を約束する」
「いや、金はどうでもいいんだ。もとはタダだからな」
これは好機なのか?アイムの影響力によってはかなり事が上手く運びそうではある。
しかし下手をすれば戦争にまで発展する種でもある。
アイムのことはすでに信用しているが、もう少し時間をかけても良いはずだ。
「もう少し時間をくれ。これが原因で此処が襲われることになったり、ここの魔物達だけじゃなくて他の魔物達が暮らしにくくなるのはゴメンだ」
「分かった。私もより理解を深めたい。その為にもこれから指導のほど、よろしく頼む」
こうして俺は、アイムに俺が魔物達とどのように付き合っているのかや、魔物フードの作り方、マニュアルを通して得た知識を教え日々を過ごしていくことになる。
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