27話 相互理解
「少し、良いだろうか……」
「なんだ」
暗くなってきて女の表情はハッキリと分からないが、声からどこか気落ちしたような感じがする。
そんな様子で寝転がっている俺の隣に膝を抱えるように女は座り込んだ。
「……………最初はなぜ殴られたのか、分からなかった」
「……………」
「獲物を上手く捌けなかったから………そんな事も考えたが、君に殴られた後、私の置かれた状況や、君と暮らす魔物達を見て思ったのだ。ここは何でも揃う街では無いし、獲物は豊富だが、強くいつも狩れる訳では無い。そんな生活の中の貴重な食料を私は捨てたのだ………と」
「……………」
「そしてその食料も、もとは命。私は自分が暮らす街の人々を脅威から護りたいと騎士の真似事をしているが、そんな護るべき街の住人が嬲られ、ゴミのように打ち捨てられれば…………そう考えると殴られたのも納得だ」
「分かってくれたら結構だ」
女は俺の返事を聞くと俺と同じように大の字で寝転がる。
そして腕で目を覆い隠し、大きな溜め息をついた。
「はぁ………………君は、随分と広い視野と考えを持っているのだな」
「ちょっとアンタらと考え方が違うだけだ」
「魔物と暮らす……………そんな事、考えたこともなかった。魔物は我々を襲う脅威であり、邪悪な存在だと…」
「それを肯定も否定もしない。人だって、優しい奴もいればイカれた奴もいる。魔物も同じだ」
それを聞き、女は座り直し、姿勢を正して俺に向かい合う。
「そうだな……………改めてだが、私をここに、いや、君の傍で学ばせてくれないか?」
「はぁ?」
まさかの発言に俺も体を起こす。
「勿論、獲物の捌き方云々ではない。君の物事に対する考え方を学びたいのだ」
「そんな大層なこと………」
「いや、十分尊敬に値する。どうか……………どうしても私を受け入れられないのなら今すぐにでもここを去り、二度と姿を見せないことを誓う。この場所も口外しない」
「………………」
初めて会った時そう言ってくれていたら、俺は手放しで喜んだはずだ。
俺も魔物達と共存するにあたり、俺のやっている事は人々の意識を変えないと受け入れて貰えないのは理解していたし、いずれはやらなければいけないことだった。
しかし第一印象が悪すぎる。
「……いや、俺も同じか………」
「え?」
俺だってレッドに会うまでは自分の考えを覆すことに躓いた。
この女は今まさに自分の常識を打ち破り、考えを改め、成長したのだ。
「……………分かった。だが俺自身、アンタのいう大層な考えは持っちゃいない。あんまり期待されても困る」
「いや、いや!!………十分だ、感謝する」
「俺はアベルだ」
「私はアイム。ここより南の地にある街イサリアで魔法について学んでいた。よろしく頼む」
俺はアイムが差し出してきた手を、戸惑いながらも固く握る。
直後、魔物達が一斉に押し寄せてきた。
俺はコロにタックル紛いの突撃をくらい、ヴァンに雁字搦めにされ、アイムはチョコに抱かれレッドに舐め回されている。
「アタ……………コロ、ヴァン痛いよ」
「あははは___」
こうして魔物以外の新たな住人、アイムが輪に加わることになった。
「で、なんでアイムは追われてたんだ?」
すっかり暗くなり、洞窟へと戻って火を囲みながらアイムに聞いてみる。
「私は………その、とある家の出なのだが____」
聞くとアイムはやはり名家のお嬢様らしく、魔法を学び、その傍ら人々を護りたい一心から、自分も役にたちたいと騎士達からも教えを受けていたそうだが、アイムが17歳になった時から婚約の話が持ち上がり、お見合いが何度も計画されたようだ。
「そんな見合い相手のうち、とある家の者がかなり強引に物事を進めようとしてきてな………」
「追ってきたやつはそいつが差し向けた……と」
「恐らく………」
ふーーむ、俺には別世界のことのように……………その別世界に来てたんだった。
しかし本当にそんな奴がいるとは………
「どうするんだ?逃げ回ってもどうにもならないだろ」
「いや、恐らくイサリアではすでに対策が成されているはずだ。事が収まるまで私は大人しくしていた方が良い」
「なるほどな……その時間を利用してここで学びたいと……」
「迷惑………だろうか?」
「いや、だからって今更追い出したりしない。面倒事なのは最初から分かってたし、それに首を突っ込んでも良いと思ったから、アイムがここに居ることを認めたし、話も聞いたんだ」
「そ、そうか。……………ありがとう」
随分としおらしくなっているが、追われていた時点で面倒事なのは分かっていたのだ。今更だ。
「ちなみになんだが、力ずくで来られると俺は何も力になってやれないからな。アイムにも間違いなく指1本触れられずに負ける自信がある」
「あ、いや、確かにそれは、その…………分かっている。すまない」
「謝らないでくれ。情けなくなるわ」
「す、すまない」
「…………まぁ、魔物達がアイムを助けたのは気まぐれだったにしても、仲良くなった今、少しは力になってくれると思うぞ」
「あ、あぁ………私も早く君のように魔物達と通じ合いたいものだ」
訳ありお嬢様と共同生活が始まる。
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