25話 飛んできた種
スキマ時間で行った軽い実験のはずが、世界初の物質を作り出してしまい、街にいく予定がさらに狂うことになった。
まずはこの新たな物質に名前を付けないと何かと不便だな。
「うーん、やっぱウンコロニウム………いやいや、ちょっと引っ張られすぎてるな………………ヴァンのトゲとコロ炭だから……………よし、コロバーンにしよう」
これ、我ながら良いネーミングなんじゃないか。
コロバーンのバーンは、ヴァンと燃えるとかいう意味のバーンをかけているのだ!
なんか必殺技っぽくてかっこいいし。決まりだ!
―コロバーン―
ラピスディロスの糞から粉末状にした物と、リーペントが稀に落とす尻尾先端にある棘を粉末状にし混ぜ合わせた物。
マニュアルで確認してみる。
ふおぉ!マニュアルにもコロバーンとして認識されたようだ。
それから俺は数日かけてコロバーンをより詳しく調べてみる。
結果として、ヴァンのトゲの量で火力が調節でき、コロ炭で持続時間が調節出来ることが分かった。
「これ、結構凄い物………だよな。リサイクル資源ってやつになるのかな……」
大量生産には向かないが、世界的にみてもかなり便利な物のはずだ。
しかし、やはり問題はその生産方法になる。
コロ炭は兎も角、リーペント自体が結構獰猛な魔物で、さらに本来ならトゲは稀にしか落とさない。
「まぁ今は俺が使えたら問題ないな。コロバーン使えば鉄の加工も出来そうだし、色々と可能性が広がるな」
しかし、だからといって今すぐ使いこなす事も出来ない。
コロバーンはかなりの火力になる。
ちゃんとした設備がないとたちまち大火事だ。
「もうちょっと試行錯誤してみるか」
水を加えてみたり、野草を加えてみたり、木の実を加えてみたりしたのだが、成果は上がらずといったところだ。
そんな中、事件がおこる。
俺は相変わらずコロバーンの実験を頂上で行っていたのだが、南の森の方から人が出てくるのが見えた。
しかも宙に浮き、飛んでいるように見える。
そして、遅れて数人が馬に乗りながら、飛んでる人を追いかけているようだった。
この土地はいわば危険地帯だ。
行商にしても旅にしても、よほどの事がない限りこの地は避けて通る。にも関わらず人が見えたのだ。
「気の毒だが、俺は見て見ぬふりさせてもらう……」
最低だと思われるかもしれないが、俺には暴漢に襲われている人なのか、罪人が逃げているのか、その判断が出来ない。
言い争いをしているなら止めに入るくらいはするかもしれないが、ここは異世界だ。
止めに入って逆に殺される事も日常的にあるはず。
ましてや他に人目がないこんな場所じゃ、まさに死人に口なしという奴だろう。
そう思ってその人達から視線を逸らした瞬間、視界の端にレッドとチョコが飛び出していく様子が見えた。
「食いはしないよな………」
そんな事を呟きながら、俺はレッドとチョコの行動が気になり、実験をやめて様子を見てみることにした。
追われてる人は魔法使いだろうか。
細長い何かに乗って飛んでいるように見える。
まさか、ホウキか?ホウキなのか?
乗り方も跨って乗るのではなく、半身で乗るいわゆる自転車の女の子乗りだ。
ここからじゃ性別の判断は出来ないが、仕草や体付きからオッサンではないはず。
そんな魔女っ娘が突然バランスを崩し、乗り物ごと落下する。
その時、ローブがめくれ上がり、全身に甲冑を纏っているのが分かったが、地面に叩きつけられ動けなくなっている所に追い付いた人が迫る。
「ピエェーーーーーーーーー」
草原にチョコの大きな鳴き声が響き、上空から一気に人が集まっている場所に滑空する。
チョコは地面手前で急停止し、倒れている人の胴体を大きな足で掴み、上昇。
それに代わるように背中からレッドが飛び降りて、全身を真っ赤にしながら咆哮を上げる。
突然現れた規格外の魔物達に、追っていた人は蜘蛛の子を散らす様に逃げていく。
それをレッドが森まで追い立てていた。
「レッド、容赦ないな………」
そんなレッドの行動に気を取られていると、チョコが空から向かってくるのが分かった。
とりあえず俺も頂上から中腹に降り、洞窟前でコロやヴァンと出迎える。
チョコはそんな俺達の前に、そっと優しく掴んでいた人を降ろし、自身も地面に降り立った後、翼を広げピエっと一声鳴いた。
俺の前に転がってる人は長い髪が顔にかかり良く見えず、纏ったローブで体付きもよく分からない。
とりあえず肩を叩いて呼びかけてみる。
「大丈夫ですか?……………大丈夫ですか?」
返事がない為、顔付近に耳を近付けると息をしているのは確認出来た。
「はぁ……………どうするべきかな」
洞窟に連れ込むのも怖いし、そのまま何度か呼びかけていると、レッドが1本の剣を咥えて帰ってきた。
「ん、おかえり」
レッドにそう言うと、レッドは咥えた剣を倒れている人の傍に降ろした後、すぐ傍でお座り体勢となって、俺と倒れている人を交互に見ていた。
するとレッドはおもむろに立ち上がり、倒れている人の顔を盛大に舐めまわし始めた。
「あぁ、あぁ…………結局それが1番早いか……」
俺はキリの実の器に水を汲んでおき、人が起きるのを待つ。
「ん、んん、んんん!!」
なんだか最初は艶っぽい声だった。
しかし、空を飛んでいた方法が女の子ぽかったから魔女っ娘なんて思っていたが、ホントに女性だったとは………
「大丈夫ですか?」
「ん、ここは………………」
俺の呼び掛けに意識がハッキリとしてきたのか、顔の髪を手で払いながら、その顔を見せる。
めちゃくちゃ美人だ。
声もかっこいい感じでクールビューティというやつだろうか。
しかし、そんな美人が目を開いた瞬間、お世辞にも美人とは言えないような顔で固まる。
「君が助けてくれっ………………」
「俺は何もしてませんよ。助けたのはコイツら」
まぁ起きた瞬間、魔物に取り囲まれてたら恐怖通り越して絶望しかないだろうな。
「ワウ!」
「ピエ!」
すると女性は視線は動かさず、手で何かを探すようにしたあと、目当ての剣を見付け、片膝を立てながら片手で鞘を、反対の手で柄を握り、警戒体勢をとった。
「おのれ、魔物達め!!私をただで食えると思うなよ」
やっぱり厄介事の種でした。
しかも女の視線は何故か俺に向いている。
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