21話 最高です!!
この日、俺はチョコに乗せてもらい南側に広がる森に朝から来ている。
ここには北の川から流れてきた水の終着点である大きな湖があるのだ。
そしてそこに生息しているビーバーに良く似たカストロという魔物に用があった。
カストロは見た目だけでなく、特性もビーバーと似ていて湖に木を集め巣を作る。
その際、巣をより強固な造りにするため、川底の砂や泥を自らの唾液と混ぜ合わせた物質を塗りつけるのだが、これがモルタルに酷似している為、非常に欲しかった。
俺はカストロが創り出したこの物質を勝手にカスドロと名付け、チョコの背から単体行動している個体に魔物フードを対価として交渉してみる。
スキルのおかげか、交渉はすんなり成功し、カストロはドンドンとカスドロを生成してくれる。
ばかりか、いつの間にか他の個体も集まり、周囲はあっという間にカストロだらけになってしまった。
何回に分けてまた貰いにくると伝え、洞窟へと戻る。
なぜカスドロが欲しかったかというと、トイレに手を加えたかったからだ。
スライムが居着いてくれたおかげで穴を毎回埋めなくても良くなった。
その為、もう少し整備しようと思い立ったわけだ。
といっても大きく4角に掘った穴の周りをカスドロで塗り固めるだけの簡単な物だ。
そしてここ数日かけてそれなりに深く掘ってある。
まぁボットン便所というわけだ。
まだ魔物達にも使わないように言ってあるので、今はただの4角の大きな穴だ。
その底部分からカスドロを塗っていき、壁も塗っていく。
「最初は岩盤しかなかったからどうしようかと思ったけど、表面だけで助かったな……」
岩盤もコロが尻尾でぶっ叩き割ってくれたおかげで穴掘り作業もすんなりと終わった。
こうして1日かけてトイレをとりあえず完成させる。
それまで魔物達は洞窟の外や、狩りに出た時に済ませていたようだが、トイレの事を説明し、翌日から使ってもらう予定だ。
―翌日―
朝起きると、たまたまスライムが何かを吐き出している様子を見てしまった。
ちなみにスライムにもプルと名前を付けているが理解していかは分からない。
今まで気付かなっただけで、プルが吐き出した物は結構な数があり、良く観察してみると黒くて炭のようにも見えた。
さっそくマニュアル先生に頼り調べると、なんとこれはコロの糞だった。
が、排泄物となりうる要素はすでにプルによって分解されており、新たな物質となった為、吐き出していたのだ。
この物質は見た目だけでなく、性質も炭と似ており、火を付けると熱を持つ燃料にはなるのだが、炭とは違い火力そのものは全く変わらないという代物だ。
そのため野営時に暖を取る物資として活用されているようだ。
当然だが、ラピスディロスが存在し糞をして、それが長い時間をかけ不純物と分離すれば手に入る物だが、今回はプルによってその過程が加速したというわけだ。
「なるほど………よし!これをウンコロニウム………はやめようか。………コロ炭と名付けよう!!!」
コロ炭が爆誕した瞬間だった!
とはいえ、生産はコロが糞をし、それをプルが分解しないとコロ炭は手に入らない。
そして用途としてもすでに初夏といっていいほどの気温だ。
暖を取る必要もないため、一応素材として集めはするが、使う機会はまだまだ先だろう。
朝イチから思いがけないことがあったが、今日はついに魔力風呂への開通工事に着工する。
すでに俺達が生活している洞窟内部のどこから魔力風呂のある空間に繋がるかはマニュアルで調べ終わっている。
あとは穴を掘っていくだけなのだ。
俺やコロは小さなトンネルでも問題ないが、結構大きくなってきたレッドや、さらに巨体のチョコなんかが通れないため、大き目の穴にする必要がある。
チョコを目安として、高さと幅を決め、その幅のサイズに木の棒をつくる。
この棒が掘ったトンネルに入れば、後々奥の方で狭まったという事態は避けることが出来る。
「よーーし!みんな宜しく頼むな!」
早速作業開始だ。
まずはコロが岩壁を尻尾でぶっ叩き、壊していく。
最初はコロがかなり遠慮なくぶっ叩くため、洞窟が崩れないか心配したのだが、コロも本能的に分かるのか、その辺は理解していたようだ。
まずはコロが砕いた岩壁の破片を外へと運び出す作業が続く。
結構な速度でコロは進んでいくが、それはコロだけが通れる程の穴しか開けてないからだ。
完成予想の通路はチョコが通れることを想定しているため、最悪大型バスが通れる程の大きさにしないといけない。
コロは身体は小さいため穴の拡張は俺の役目となる。
そのため今はまず開通を目標にコロにはひたすら突き進んでもらった。
「お?音が止まったな。光も漏れ出てる…コロ終わったのかな」
魔力風呂のある空間へと続く10mくらいの距離をコロは2日とかからず開通した。
少しするとコロが転がりながら穴を通って帰ってきた。
そしてそのまま俺にダイブしてくる。
「ぐほっ!!………お、お疲れコロ!魔力風呂はあったか?」
コロは興奮した様子でしきりに頷く。
「そっか!!あとは俺がやっていくからコロは先に魔力風呂に入ってても良いんだぞ?コロがいなかったらこんなに早く開通しなかったしな」
コロはしばらく固まっていたが、俺の腕の中から降り、穴の拡張作業を始める。
「はは、気遣い出来る良い奴だ!」
コロも皆で一緒に入りたいのだろう。この時はそう思っていたのだが、作業が進み、コロがどうやっても作業出来ない高さまで穴が拡がると、コロはあっさりと魔力風呂のある空間へと姿を消した。
「はは…ドライなやつだったか!」
それからは俺がナタで突っつきながら穴を拡張していき、レッドも前足でガリガリと掘り手伝ってくれたかいもあり、さらに10日ほどで俺が通れるくらいまで拡張が終わった。
そして魔力風呂のある空間へは少し段差があったが、飛び降りてみる。
「やっっっっばい……………めちゃ綺麗だ」
その地下空間は俺達の生活している洞窟とほぼ同じ広さで、中央にはやや緑を帯びた薄い空色の水が貯まった場所がある。
あれが魔力風呂だろう。すでにコロが気持ちよさそうに入っている。
そしてそんな水の輝きが鉱石に反射しているのか、天井は星空のように光っていた。
そして光るコケと、さらに光るキノコが周囲を照らし、視界も良好だ。
絶景を紹介するテレビ番組なども好きで良く見ていたが、全く比較にならない。
しばらく時間を忘れて立ち尽くしてしまった。
「はっ!ダメだ!作業に戻らないと…」
今俺が生活出来ているのは間違いなく魔物達のおかげだ。
レッドやチョコを残したまま、風呂に入ることは出来ない。
それから俺は、朝速攻で1日分の食料を集め、高い場所はチョコの背に乗りながらひたすら穴を掘るという作業を続けた。
気が遠くなるような作業ではあったが、2週間ほどかけてついに完全に開通する事ができた。
「長かった………………もうダメだ」
俺はそのまま地面に大の字に寝転ぶ。
全身くまなく筋肉痛で、手の皮はボロボロ。
そんな状態で作業を続けていたせいか、一気に気が抜け、動けなくなってしまった。
そんな俺をチョコが優しく咥え、ピョンピョン飛び跳ねながら魔力風呂へと移動する。
レッドも俺に付き合い、風呂に入らずいてくれていてた。
そして俺はレッド、チョコと一緒に魔力風呂へと飛び込んだ。
すぐに顔を出しはしたが、疲れきってはしゃぐ元気もなかった。
しかしすぐに目に見えて色んな汚れが風呂に流れ出していき、そしてすぐに分解される様子を見ていると服を着たまま入ったことを後悔し始める。
しかしその直後、身体の変化にも気が付いた。
ボロボロだった手はゆっくりではあるが、傷が塞がり治っていく。
そして全身の痛みも消えていき、むしろ元気になってきた。
「やっばいなこれ!」
しばらく浸かっていると身体の痛みや怪我はスッカリ消え、そして魔力が活性しているのが分かった。
前世で魔力なんてものを持っていなかったからか、余計に活性しているのがよく分かる。
さらには身に付けていた衣服も新品と見間違うくらい綺麗になっていた。
コロはすでに何回も入っているようで悠々と泳いでいるようだ。
レッドは首まで湯に浸かり目を閉じてじっとしている。
チョコは流石に全身浸かることが出来ない様だったが、喜んでいるようだ。
そんなチョコを見て俺はキリの実を桶代わりにし、チョコによじ登って掛け流してあげる。
マジで魔力風呂最高!!!!
読んで頂きありがとうございます。
よろしければお気に入り登録、評価、感想よろしくお願いします。




