20話 想定外の試作品
色々と素材を採取し終わり、加工の工程に入る。
加工手順もマニュアル頼りではあるが、最近、物凄く楽しく思えてきた。
元々物作りは好きだったこともあり、新しい何かを作り、それを使って自分の生活が潤っていくことに充実感を感じていた。
「前世じゃアイドルが島を開拓するテレビ番組とかよく見てなぁ……」
不意に思い出し、口から零れてしまう。
おっと…作業を始めないと!
まずは傷薬からだ。
石貝を開き、食用の中身を綺麗に取り除いた後、乾燥させて、粉々に砕いていく。
乾燥も風の魔法を使えば、かなり速く終わる。
あとは採取した薬草を数種類と、水と樹液を混ぜ合わせ、煮溶かして……………やっちまった!!!
「鍋がねぇ!!……肝心な所でやらかしてるじゃん俺…」
あれもこれもと手を伸ばした結果、鍋のことをすっかり忘れていた。
とりあえずキリの実を半分にナタで割り、中身を取り出してそれを鍋に見立ててみる。
「熱を逃がさないようにして、直火を避ければ……」
かまどの方に移動し、周辺の岩を積み重ね、キリの実鍋を火にかけた。
「だ、大丈夫かな……」
目を離すのも怖いので、近くで別の作業を始める。
魔物フードは干し肉がまだ出来上がらない為、今日は出来ない。
その為キリの実を割り、器へと加工していく。
といっても割った実の内側を適当な石で擦り、表面を綺麗にするだけだ。
全て半分に割ることはせず、上部を割ってツボに見立てた物も作ってみた。
「安定性に難あり………だな!」
このあたりで小腹が空いてきたので、この地のンチャジョの実の味見を兼ねて調理してみる。
「………………平らな石…全然ないな」
またもやらかしてしまった。
ここは前の洞窟とは違い、目の前に河原なんかない。
落ちている石もゴツゴツした物ばかりだ。
それに気付いた瞬間、物凄く焦りを感じてきた。
洞窟周辺をくまなく探してみたが見付けられなかった為、休憩し終え、暇そうにしていたチョコに頼んで川に運んでもらい、大きく平らな石を探す。
この時、泣く泣くかまどの火も消しておいた。
小さな石なんかは川の周囲にあるのだが、大きな石は殆どが川の中にある。
チョコに乗って水面近くを飛んでもらっているが、水深が深く、流れも速い。
そしてたまに見かける、高速で泳ぐ大きめの影がめちゃくちゃに怖い。
「これ無理じゃね………」
色々と場所を変え、なんとか水深の浅い場所を見付け、全力で目的の石を探し出した。
「マジで詰むところだったわ……」
石を手に洞窟へ戻り、かまどに向かう。
そして傍に置いてあったキリの実鍋を見て絶句した。
底に穴が空いていて、中身が殆ど流れ出ていたのだ。
しばらく両手で石を持ったまま立ち尽くす。
「………………上手くいかないなぁ」
持っていた石をかまどに設置し、その場に座り込む。
ガックリ項垂れたあと、ふと手の甲に何か膜のような物が付いているのを見つける。
それをペリペリっと剥がし、マジマジと観察してみた。
「なんか薄いゴムみたいだな…」
伸縮性があるようだが、付着した原因に思い当たる事がなかった為、マニュアルで調べてみた。
結果はモチョ草の汁が、採取した樹液と混ざり合い出来た物のようだ。
用途としては1部地域の、さらにその中でも裕福層の者が避妊具として用いているらしい。
しかしモチョ草の性質上、加工が物凄く大変で、用途が用途だけに加工品としては世間に殆ど広まっていないらしい。
「この世界だと派手な女遊びは軽蔑の対象になるだろうからなぁ……避妊具使ってまで行為に及んでるんだから、訳ありって人が多そうだ」
色々と思うことはあるが、童貞の俺には関係のない物だ……
そう思ったのだが、少し閃いてしまった。
完全な思い付きだが、行動に移し、モチョ草の汁と樹液を混ぜ合わせる。
その混合液を手全体に行き渡るように付着させ、乾燥させる。
風魔法で乾燥させながら見ていると、みるみる手を覆うように膜が出来てくる。
「おぉ!!……ゴム手袋出来た……」
見た目は完全にゴム手袋だ。
手首の方から引っくり返すように手袋を外すが、中の方は俺の汗が原因なのか、完全に乾いておらずまだ指に引っ付いている。
そんな状態のままさらに乾燥させ、半透明のゴム手袋試作品が出来上がった。
完成したら色々と便利だな。そう思っていたが、現状だと改良点が多すぎる。
まず型となる物を作らなければ、その間俺が何も出来ない。
そして型どりとして使った俺の手は水分が搾り取られたのか、シワシワになり、さらにバチバチにヒビ割れ始めていた。
後は乾燥方法を見つめ直せばかなり便利な道具が出来るはず。
「しかし手がくっそ痛ぇ。魔力風呂に浸せば治るかな…そっちも早く手をつけたいけど……」
この日想定していた物は何も作れなかったが、想定外のゴム手袋が出来てしまった。
それから数日、魔物フードを作ったり、トイレ用の穴を掘ったりする傍ら、ゴム手袋用の手型を木で削り出したり、もう少し薄く出来ないかと思い、水を加えたり、配合比を変えてみたりと試行錯誤を続けた結果、それなりに満足出来る物へと仕上がった。
さらにその副産物として、ラップフィルムのような物まで出来てしまった。
スキルのおかげなのかは定かではないが、物作りを通じて、物事自体が結構上手く回り始めたように感じる出来事だった。
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