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18話 新たな始まり

日が傾きかけているが、なんとか目的地である草原へと辿り着くことが出来た。



「おぉー!!やっぱ地図で見るのと、実際見るのとでは全然違うな…」



それは見え方の違いだ。実際の地形は地図で見た物とほとんど違いは無いはずだ。



「チョコ、あの見えてる山の中腹に行ってくれ」



感動してばかりもいられない。モタモタしてたら何も出来ないまま夜になってしまう。



ゆっくり周囲も見て回りたいが、今日のところは身の安全の確保が優先だ。



中腹にはチョコも余裕で出入り出来る洞窟があり、出入口周辺はそれなりのスペースもあるが、地面には降りず、飛んだままの状態で洞窟の中を観察する。



この洞窟内部はかなり広く、天井も高い。

そしてこの洞窟は魔力風呂に繋がっている為、必然的に魔力濃度が濃い場所となる。

そうした場所は魔力を持たない生物が寄り付かない。



魔力を持たない生物が長時間濃い魔力の影響を受け続けると、体が魔力に適応しようと変異し、その変異に耐え切れず死んでしまうようなのだ。

つまりこの洞窟にはただの猛獣や虫なんか一切いない。



しかし魔物は別だ。

すでに魔物が住み着いているなら、そのまま踏み込む訳にもいかない。



「なんか明るいな……」



俺がそう呟くと同時にレッドが前足でチョンチョンと触れてくる。



レッドの方を向くが、すぐにレッドは地面に降り立ち、洞窟内部へと歩いて行く。



「匂いとかで魔物が中に居るかどうか分かるのかな……」



俺は念の為、コロを抱いたままチョコと洞窟へと入る。



魔物は居らず、いた形跡もない。そして洞窟内部は外から見て分かったようにかなり明るい。

流石に真っ平らな訳はないが、かなり住みやすそうだ。



内部の周囲をよく見ると、天井や足元のコケが薄緑色に光っていた。



「このコケが光ってるのか……」



マニュアルでそのコケを調べてみたが、魔力を取り込み発光する以外はこれといった特徴はなさそうだった。



「てっきり魔物避けの効果でもあるのかと思ったけど…あ、いや…違うな」



要するに発光していること自体が魔物避けになっているのだ。



レッド、コロ、チョコなどは俺と生活を一緒にしたことで火や光に慣れているが、野生の魔物達からすれば閉ざされた空間の内部が怪しく光っているのだ。警戒するのは当然だ……多分。



「うーーん……それでも長い期間、確かめもしないで放置するかな…」



しかし現に痕跡もなく、レッドに魔物がいるか聞いてみても首をプルプルと振っている。

大丈夫だと思うようにしよう。

これからは思い切りも大事になるはずだ。



それにすでに入ればこっちのものだ。

レッドやチョコがいれば襲われても逃げることも、返り討ちにすることも出来るはず。



何はともあれ、今日からこの洞窟が新たな住居だ。



簡単に寝床となる場所を決めた後、ゴツゴツした石なんかを取り除く。



その作業をしている間にレッドは外へと出掛けていった。

恐らく夜ご飯を狩りに行ったのだろう。

チョコはずっと飛び続け疲れているのか、相変わらず変な座り方で休んでいる。

コロは俺の隣でダンディーな顔をしながら岩を食べていた。



洞窟の入口付近に落ちている枝や落ち葉を集め、火をおこしたところでレッドが獲物を咥えて帰ってきた。



チョコの背中に乗っていただけなのだが、妙に疲れていた為、獲物を捌き、肉を干したあたりで限界になった。



「ダメだ……活用出来ない物は明日処理しよう…」



火も燃やす物が少なく丁度消えかけていた為、この日はもう寝ることにした。

そして匂い袋の効果もあと10時間をきっている。



安心して寝られるのも今日が最後だ。

それを知ってか知らずか、レッドは俺の枕になるような体勢になり、寄り添うように寝てくれている。



「明日からは色々と頑張らないと……」



目を閉じるとすぐに眠りについた。



―翌朝―



レッドに顔を盛大に舐め回され目が覚めた。



「ん、んん……分かった。待って……」



冴えない頭のまま体を起こし、外を見るがまだ薄暗い。

それを不思議に思い、レッドの方を見ると洞窟内部のコケの光が丁度届かない暗い場所に視線を向けていた。



(あ、…………皮とか骨置いてる場所だ…)



皮や骨を洞窟の外に置いて魔物が寄ってきたら嫌だと思い、コケの光が当たらない場所に置いていたのだ。



するとコトっと物音が聞こえてくる。



(うぇっ!?………何かいる?)



まだ匂い袋の効果は残っているはず…

しかしその物音は確実に聞こえる。



「レッド、チョコ達起こして」



できる限り声を落としレッドに言い、俺は光魔法で狭い範囲を照らす球体を作る魔法の準備をする。

まだまだひよっこな俺は光魔法発動に時間が必要なのだ。



皆が起きた事を確認すると、物音がする方に光球を投げつけるように発動させる。



「…………見付けた!」



割とすぐに見付けたのは、確実に魔物だ。

その魔物はマニュアルで確認せずとも1目で分かった。



「スライムだ……」



しかも可愛くない方のタイプだ。

だが…薄い緑の半透明で、プルンプルンではあった。



そのスライムは俺が処理を後回しにしていた皮や骨を体内に取り込んでいる最中のようで、正直どこに視線を向けているのか判断も出来ない。



「レッド、教えてくれてありがとな。コロもチョコもわざわざ起こしてゴメンな」



よくよく考えてみれば警戒心の強いレッドが侵入を許している時点で危険度は少なかった。



危険な魔物であれば侵入を拒むだろうし、俺をわざわざ起こす前に何かしているはずだ。



「しかしマジでスライムっているんだな……」



とりあえずは問題なさそうだ。

読んで頂きありがとうございます。

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