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17話 理想郷

村は世界地図の最南東に位置する場所だ。

そんな村を出発し、俺達が目指す新天地は村から北西の方角だ。



移動の際に嬉しい誤算があった。

それはチョコの移動速度とスタミナについてだ。



俺が想定していた速度の倍近く速い。時速にすると体感だが100㌔くらいは出てそうだ。めちゃくちゃに速い。



さらにそんな速度で移動し、さらに背には俺、レッド、コロが乗っている……チョコにとって些細なことかもしれないが、丸1日飛び続けるスタミナもチョコは備えていた。



「このペースで行ければ明日中には着くか?」



ひたすら空を飛び、海を超えた先辺りで夜が近くなり、浜辺で夜を明かすことにした。



そんな浜辺で火を囲み、マニュアルの地図を見ながら呟いた。



改めてこれから向かう新天地とその道中をマニュアルで表示し、確認してみる。



俺のそんな様子が気になったのか、コロは丸まり俺の胡座を組んだ足の中に収まりながら顔をだし、レッドは身体を寄せて顎を俺の膝の上に、チョコは後ろから覗き込む形で、それぞれがマニュアルを見てくる。



「今此処だろ?ここからこの先の森を抜けて、山を超えて、もう1つ山を超えると砂漠がある。そこをさらに抜けると目的地だ」



目的地は本当に面白い環境になっている。



目的地そのものは草原と小山がある。

その小山を正面に見て、北側には切り立った岩山が連なり、下には大きな川が流れている。



その川の水が草原の周囲を巡り、草原の東側と南側にある森とを隔てている。



そして西側には荒地が少し続き、そのさらに奥に砂漠が広がっている。



さらに草原の南側の森を抜け、しばらく進むとかなり大きな街もある。

この街は魔法が盛んな場所でもあるようなのだ。



俺は人と暮らす気はないが、人と関わりを断つつもりもない。文明の力である道具は買ったりしたいのだ。



俺はこの世界に転生して、魔物との共存を目標としている。

それが何百年後になったとしても理解して貰えるように、ある程度、人がいる場所は近いほうが理想なのだ。



偉業を成し遂げたとしても、人と隔離させた場所で偉業を成し遂げた場合、その偉業も伝わらず、すぐ失伝してしまうからだ。

まぁ、偉業というのは例えなのだが……



話は戻り、草原周辺のことについてだ。



この地域は普通では有り得ないような、様々な環境が混在している。

それを可能にしているのが自然に漂う魔力だ。



この場所は自然に漂う魔力の濃度が濃いようで、環境の混在が成立している。



さらにこのように魔力が濃い場所の中でも、魔力が集まる場所があり、それを魔力溜りと呼ぶそうだ。


さらにさらに、魔力溜りがある場所には、魔力風呂と呼ばれる温泉の上位互換のような物も存在するらしい。



そして何を隠そう、その魔力風呂がこれから向かう目的地には存在するのだ!



この魔力風呂は疲労回復や掠り傷程度なら癒す効果があり、さらに表面の老廃物も浸かるだけで落とし、分解してくれる。

世界において、凄まじく貴重で珍しいものなのだ。



ちなみに、マニュアル内の異世界ニュースで知り得た知識だが、異世界の魔力風呂の中には特に魔力が濃い物があり、結構な重症でも癒すことが出来る風呂があり、さらにはそこに家を建て暮らしている人間がいるそうだ。

なんてヤツだ!



まだまだ理由はある。

それは環境が混在している為に魔物や動物も数多くの種類や個体が存在する、言わば生命の楽園なのだ。魔物との共存には魔物の存在は欠かせない。俺にとっても天国だ。



しかし魔力が濃い場所に多くの生物が集まったことで、強者が複数存在することにも繋がる。



簡単に言えば強い魔物がいっぱいいるけど、多くの魔物が存在し、環境が混在している影響で資源も豊富な場所ということだ。



しかし何故このような素晴らしい土地に人の手が入っていないのか…

それは強力な魔物がいるからに他ならない。

レッドやチョコを見れば分かるが、人間なんてどれだけ居ようと相手にならないはずだ。



魔力風呂に関しても草原にある小山から繋がる地下空間にある。

今は岩壁で塞がっているため、世には出ていないのだ。



俺が求めた木の実もあるし、岩塩だけでなく、香辛料もあり、鉄は無かったが代わりに魔鋼というものがあった。



これは少量の魔力を帯びた鋼で、鉄の上位互換のような代物だ。

魔鋼の完全上位互換である、ミスリルというファンタジーお馴染みの金属もあるが、ミスリルは超貴重品で手に入れる方が難しい。

魔鋼も貴重ではあるが、それなりに普及しているため、いずれ普段使いの品の最高級品が作れるわけだ。


と目的地についてはこんな感じだ。あとは実際に見てみてからだ。



期待が膨らみ続け、夜が明ける。

そしてチョコに乗って再び目的地を目指した。



空から見る景色はまさに絶景だった。

暖かい季節であるはずだが、遠くに白く雪の積もった高い山があったり、森や湖も輝いているように見えた。



楽しみながら山を2つ超えた辺りで砂漠が見えてきた。



「うぉっ!?なんだあのデカいの……」



砂漠の上空を飛んでいると遠くで突然砂が爆発したかと思うほど盛り上がり、その中からクジラのような生き物が飛び出てきた。



「……さすがに草原にまでは来ないよな…」



ちょっと不安になりつつも、遂に砂漠を抜け、目的地の草原が見えてきた。

読んで頂きありがとうございます。

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