14話 俺に迫る危機
追っている最中にあの鳥をマニュアルで確認したが、ルフという種族の魔物らしい。
巨大でとても力が強く、自身と同等の重さを掴んで飛ぶことができ、さらにその体毛が暑さや寒さに強く、厳しい環境でも適応することが出来る。とかなり凄い魔物らしい。
そして過酷な環境に適応出来る為に、人がいるような場所には滅多に姿を見せないそうで、人もルフからすれば小さすぎて餌にはなり得ず、ルフから襲うことはないそうだ。
そのルフが今まさに村を襲撃しようとしている。
その原因であろう要因もマニュアルを通してルフを見た際に突き止めることが出来た。
ルフは毒に侵されていたのだ。
死に至る程ではないはずだが、毒によって体が思うように動かず、餌を捕れなかった為に不満が溜まり、人里まで姿を見せているのだ。
「つってもどうしたらいい…とにかく村から遠ざけて毒を治すしか…何かで関心を引いて誘導するしか…」
必死に頭を働かせていたが、遂にルフが村を襲い始めてしまう。
「おいおい…家、丸ごと掴んでるじゃねぇか!あんなヤツの関心引ける物なんて……」
そう口にしてハッと気が付いた。
「レッド、アイツに出来るだけ近付いてくれ!村人にレッドまで見つかると面倒だから見付からないようにな!」
前を向いたままレッドは1声鳴くと、一気に速度を上げてルフに接近する。
村はルフに襲われて大パニックだ。
村人に見つからなければ、レッドも村までかなり近付くことが出来る。
村の入口まで運んでもらい、転げ落ちるようにレッドから降りる。
俺は村にそのまま突っ込み、ルフの元まで走る。
そこには大きな建物に村人の大半が集まっており、数名の男性が槍を持ってルフを牽制していたが、全く相手にされていない様子だった。
「皆さん、騒がないで!!あの鳥は気が立っているだけです。捕食されたりはしません」
「あ、あんたは…いや、そんなことより何か手はないのか。このままじゃ…」
「俺が注意を引きます。皆さんは静かにここで待機してください」
そう言うと俺はルフへと駆け出し、袋から魔物フードを取り出しルフ目掛けて投げつけた。
伊達に少年時代野球をやっていた訳では無い。
丁度くちばしへ命中したが、ルフからは睨まれてしまう。
「くっそ怖い………くそ、おい!こっち来い」
そう言いながら何度か魔物フードを投げつけ、村の外まで誘導するが、ルフは1飛びで追い付いてくる。
「レッドぉおお」
村の外まで走りながらレッドを呼ぶと即座に駆けつけ、背に乗せてくれた。そしてそのまま村を離れるように走り出す。
「マジでありがとう!レッド、アイツに近付けるか?」
レッドは背後から地面スレスレの超低空飛行で追ってくるルフと速度を合わせるように減速していき、1歩間違えば接触するのではと思える距離まで近付いてくれる。
ルフはそんな俺達を何度か大口を開けて追ってくる。
そんな大口を開けたタイミングを見計らい、ありったけの魔物フードを口に投げ込んでいく。
ルフも最初は口に入った異物を吐き出そうと頭を振っていたが、魔物フードの匂いにでも惹かれたのか咀嚼し始める。
「よし!これで一旦落ち着いてくれたら良いんだけど…」
再びルフとの距離を広げ、様子を見ていたが、ルフはドンドンと速度を落とし、最後にはホバリングしながら魔物フードを咀嚼していた。
そんな時を見計らい、俺は意思疎通を試みる。
「落ち着いてくれ!まだもう少しあるから………」
俺の声を聞いてくれたのか、ルフは地面へと降り立つ。
そして鳥らしく、ピョコピョコ飛び跳ねながら近付いてきた。
そんなルフを念の為、レッドの背に乗ったまま待つ。
「よーし、そのまま大人しくしててくれよ…」
ルフは俺達の前までくると大人しくしてくれていたが、視線は外してくれなかった。
近く見るとルフはマジでデカい。
大型重機並の大きさだ。
そんなルフの腹部には斑点が連なり渦を巻いたような模様が浮かんでいる。
「これが毒の影響か……」
ルフを侵した毒の成分を調べるとなんとこの近辺で取れる草で解毒薬が作れることが分かった。
そして村に行くために準備していた際、解毒薬もすで作って持っている。
「これはかなりラッキーだ!この解毒薬を魔物フードに混ぜて……そら、いくぞ!」
人間サイズに作った解毒薬だとルフには足りないようで、3つ魔物フードに解毒薬を混ぜた物を口に投げ込んでいく。
そして、残りの魔物フードも地面にばら撒き、再び距離をとった。
「ふぅ…」
1息ついたあと、レッドの背に顔を埋め、グリグリしながら身体にしがみつき、礼を言いまくった。
「んんん!!ありがとうなレッド…んんん!!」
レッドもそれは少々嫌だったのか、背中の毛が波打ったあと、身体を軽くブルブル震わせていた。
そしてルフが飛び上がったのを確認し、俺達も洞窟への帰路についた。
「しっかし偶然持ち合わせの解毒薬が使えたのはラッキーだったなぁ……」
帰り道、そんなことをぼんやりと考えていた。
しかし、よくよく考えるとルフを侵していた毒はとある魔物が持つ毒だ。
その毒を持つ魔物は洞窟近辺や、村の周辺にもいない。
「解毒薬になる草があるから、その魔物が近辺に居なかったのか?」
恐らくこれが正解だ。
ルフも元々は洞窟近辺には生息していない。
かなり遠くからやってきていたのだ。
「村は家が何軒か潰されてたようだけど、まぁ問題ないだろ…」
俺は帰り道、村やルフのこと、そして毒のことを考えていたあまり、レッドがチラチラと振り返る素振りに気付かないまま洞窟へと帰り着いた。
「ありがとうレッド」
そう言ってレッドの頭を撫でた瞬間、再び頭上を影が覆い隠す。
直後、河原にルフが降り立つ。
「ピェエェーーー」
「………………」
完全にルフがついてくる可能性を失念していた。
「お、お前、ついて来ちゃったのか?……暴れたり…しないよな」
ルフの鳴き声を聞き、レッドもやや警戒する素振りを見せ、コロも洞窟から顔を覗かせていた。
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