11話 数十年ぶりの友達
これからは投稿時間を変更し、不定期17時となります。
「ちょ、マジかよ!!レッド、待って」
俺はレッドから転がるように降り、慌てて距離をとる。
戦闘に巻き込まれでもしたら、俺は余裕で死んでしまう。
だが俺の心配をよそに、レッドにそんな気は更々ないようで、丸まった魔物を前足で突っついて転がしていた。
とりあえず戦闘にはならない様なので俺は採取を始める。
まずは岩塩からだ。
前世で岩塩という存在は知っていたが、自炊なんかホントたまにしかしなかったから、実際商品としても手に取ったことが無い。
ましてや商品になる以前の物なんか見たことが無いため、比べようがないが、今目の前にある岩塩は、まるで洞窟にある水晶のような形で岩肌に生えている。
「岩塩ってこんな風に出来てる物なのか?」
異世界ってことで納得しておこう。
大量に採取しても持って帰れないので拳大の塊をナタを使って3つほど採取する。
その間にレッドの興味も魔物から逸れたらしく、横になって寛いでいた。
ラピスディロスの方はまだ警戒しているようで、体は丸めたまま、顔だけを出して様子を見ている。
俺はそんな魔物が少し不憫に感じ、丸まったままの魔物を少し離れた場所に運びながら声をかけてみる。
「驚かせてごめんな……この辺のやつちょっと分けて貰うぞ…」
さて、問題の鉄を採取しようと思ったのだが、適当に岩肌から塊を採取してそこから鉄を抽出すればいいと考えていたのだが、地面に光る何かを発見した。
「ん?これもしかして鉄か?」
マニュアルで確認してみると、それは紛れもなく鉄だった。
しかし大きさはかなり小さく、砂利に混じった小石くらいの粒だった。
しかしその鉄粒が結構な数まとまって地面に落ちているのだ。
不自然なそれらを前に考え込んでいると、ボリボリとラピスディロスが岩を食べる音が聞こえてくる。
食事するくらいには警戒を解いてくれたのかと考えていたところ、ラピスディロスが何かをプッと吐き出していた。
それはさっき見つけた鉄粒。
「あ!アイツは石を食うんだもんな……その石に鉄が混じってたから吐き出してるのか。器用だな…」
手間も省けたし、吐き出しているのだ。
ラピスディロスには不要だろうと思い、周辺の鉄粒を全て拾い集める。
皮袋には穴が空いている為、ベルトに吊るしての使用は出来ず、袋を服で包む形式になるが全部持ち帰ることは出来そうだ。
帰る前に岩塩の前に移動していたラピスディロスに声をかけた。
「俺らはこれで消えるから安心してくれ」
声をかけながらラピスディロスが何をしているか気になって覗いてみると、どうやら岩塩を舐めていたようだ。
そして俺の声を聞き振り返るラピスディロスの表情がとてつもなく衝撃的だった。
他人がレモンなどの酸っぱい食べ物を食べていると、自分も表情も歪めてしまう、あのなんとも言えない表情…
ラピスディロスはそんな表情を悟られないように我慢しているのか、ワイルドさが加わり更になんとも言えない表情で振り返ったのだ。
「くっ!はっはっはっ!!!お前、いい表情するなぁ」
なんとなく親近感がわき、頭を撫でてやる。
石を食べているだけあってその鱗はゴツゴツした手触りだ。
もしまた会うことが出来たら魔物フードでもあげてみようと思い付き、レッドと共にその場を後にした。
その帰り道、俺はずっとレッドの事を考えていた。
ここ最近でレッドの感情が少し分かるようになった。
それは、楽しそうだとか、機嫌が悪そうだ、くらいのものではあるが………
だからこそ今日のレッドの態度が凄く気になった。
魔物フードが欲しいからついてきてくれた。なんて思っていたが、実際には俺が採取をしている間、寛いでいたレッドに魔物フードを差し出してみたが1口も食べていなかった。
食べたく無かったのだろうか…そんな風に結論を出して本当に良いのだろうか。
そんなことを考えていると、似たような体験を前世でした記憶が蘇ってきた。
それはとあるイベントの最中のこと。
会場の中には人がぎゅうぎゅうで、飛んで跳ねて、歌って踊って、と楽しんでいる人々。
そんな中の1人が俺の目の前で転んだ。
俺はすぐにその人の腕を引き、立ち上がらせた。
それはイベントに参加している全員の暗黙のルール。というか人として当然の行い。踏まれでもしたら大ケガに繋がるからだ。
だから俺もそれに倣ってその人の腕を引いた。
俺にとっては当然のことをしただけなのだが、その人はイベントが終わった後、俺を探し出し、わざわざ礼を言いに来てくれた。
さらにはちゃんとお礼がしたいと別の日に食事にまで誘ってくれたのだ。
俺は当然のことをしただけだからと一応断りはしたが、その人からすれば礼をしたことでスッキリしたいのだと思ったが、その時は都合が合わなかったこともあり断ってしまった。
それからもその人は俺を誘い続けてくれた。
イベントに一緒に行こうだとか、他にも色々と気にかけてくれる。
それが本当に申し訳なかった。その人の時間を俺なんかに割いて無駄にしてるんじゃないかと思ってしまったのだ。
だから俺はその人から距離をとった。
当時はそれが正しいことだと信じて疑わなかったし、間違ったとも思わなかった。
だけど、レッドのことがあり、その考えに疑問が芽生えた。
あの人はただ俺とイベントを楽しんだり、それについて話をして盛り上がったりしたかったんじゃないか、お礼の食事も趣味の合いそうな人を見つけて、誘うためのきっかけだったのではないか、と……
俺もその人が煩わしくて距離を置いたわけじゃない。
だが俺の勝手な思い込みで距離をとってしまったとしたら……
しかしそれはもう過去であり、あの人にはどうやっても会えない。
俺はすでに死んで、別の世界に来てしまったから。
だが、もしレッドが……ただ俺と友達になり、その友達に親切にしているだけだとしたら…
そう考えると、俺の言動に対するレッドの態度にも納得できる。
(原因は俺なんだな……)
それを理解した途端、俺は本当に自分が嫌になった。
先日レッドの知能が高いことを思い知ったばかりなのに、またしても俺は思い違いをしていた。
魔物と仲良くなりたいと思ったのは間違いない。
だが、俺はレッドが魔物だからと…人間じゃないから友達になんかなれないと最初から決めつけていたのだ。
そんな事を考えていたら、いつの間にか洞窟へと帰り着いた。
そして荷物の整理を終え、俺はレッドに向き合った。
「レッド、ごめんな…俺の考えが間違ってたよ。だから改めて……俺と友達になってくれ」
そう言うとレッドはすぐ俺に抱きつくように飛びついてきた。
レッドにとっては友達だと思っていたヤツが、遠慮している風を装って距離をとろうとしている。と思ったのだろう。
機嫌が悪くなるのは当然だ。
レッドはこんなにも真っ直ぐなのに、どうして俺はこんな風に損得勘定でしか関係を築けなくなってしまったのだろう。
だが、転生して若返ったからか考えも柔らかくなり、自分の間違いにも気付けた。
新しい友達が出来たのなんて何十年ぶりだろうか……
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