第15話 ごめんね、ごめんね~~~。
「おいトオル、お手柄じゃんか」
「さすがトオルさまです♪」
「よくやった方だな。特進ーーとまではいかないだろうがな」
略して"さすトオル"。
響きがビミョーである。
いったい何故、そんなに誉められていたのか分からない。
ただ、二人の先輩に誉められるより、ちんまりしていた美少女の笑顔だけがすごく嬉しかった。
見た目が獰猛な犬でしかない姿より、かつて見慣れた姿のほうが良い。
「え~っと…………ありがとうございます」
ひとまず先輩はたてておくべきだと、そう思った。
組織というのは世知辛く、恩を売っておくに限る。
縦社会は、ここ異世界でも同じく。
「でーー、これはいったい?」
「何言ってンだよ、トオル」
「お前がたてた作戦じゃないか」
「うむ、よくやってくれた! このふたりとは大違いだ」
「「ちょっと署長、そりゃないんじゃないの!?」」
そんなやり取りを見ていて、トオルはかつての日常を思い出す。
そういえば、こんな感じだったと。
ただ正直、やり過ぎじゃあないかなぁと。
「オイッ!? 俺は被害者だろーが!?」
むしろ協力者だったとーー、そんな気がしてならない。
"すべて見なかったことにすれば良い"
この異世界に於て警察というのは、えん魔様よりもひどい。
痛がっていたら手を離すーー、それだけで無罪放免という。
大岡裁きというのでさえ、なのだ。
「ごめんね、ごめんね~~~」
正直。
今はただ早く済ませたかった。
後始末なんて考えずに。
次の一週間は山ほど積まれた書類に、ビタミン剤の小瓶が戯れていることだろう。
主役であるハズだが、脇役に撤していたらいったいどれだけラクだったのか。
運が悪い 引きが悪い。
頭が痛い、頭痛が痛い、クラクラしている。
思い返すのも面倒だ。
「よく分かんないけど……これで一件落着なんだよね?」
小さな肩を借りて、トオルは帰路に着こうとしていたのだった。
明くる日、ささやかな朝食で。
衝撃的な一言を耳にするまでは。
「…………来ないンですの」
「…………え?」
手を出した覚えなんて、1㍉たりともなかったのに。
これは事件でしかならない。
いわゆる"おめでた"ってヤツが。
「…………嬉しくないんですか?」
いったい、どう応えれば良いのか。
ただ嫌われたくはなかった。
朝飯を一気に頬張って逃げ出すように。
「いってきます!!」
次の章でかたをつけなければならない。
トオルにとって、異世界で初めての、冬が来る。
それはとてもーー、寒い季節の到来であった。




