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こちら異世界派出所前。  作者: caem
season 3【秋】忌々しい。 美味しいモノが待っている。
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第4話 え……? ナニ? アニメ??



「あんたって子は……!!」


 容赦のないキツい仕打ちを毎日のように受けていた。

 ろくに食べ物も与えられず、育ち盛りの子供からしてみればもはや地獄でしかならない。


 殴る蹴るなんてのは当たり前で、母親は寧ろ、その行為によって日々のストレスを解消しているかのようであった。


「◎△%□㌃!!」


 絶叫してはいるものの、もはや言葉としては成立していない。

 こうなると、解読の難易度は高い。


「ごめんなさい! ごめんなさい!」


 意味も分からず、子供は生きるためにひたすらに謝るしかなかった。

 ただ、涙の謝罪を行っているその時ですら、母親の暴行は続かれていたのであった。


 だが、血の繋がらない父親はといえば、その上をさらにいった。

 まだ、母親には愛情があるとさえ信じられるぐらいに。


「ふ~~~……。 で、お前よォ……」


 口許で燻る火種はあっさりと、謝罪を貫き通そうとしている息子の手の甲に当て付けられたのだ。

 五~六歳の新鮮な皮膚が夥しく、ただれる。

 辺りに鼻を摘まんでも耐え難い異臭が漂う。


 じゅううううう。


「……ッ!!」


 それは熱いなんてものじゃあなかった。

 声にもならない激痛。

 すかさず、豪快な蹴りが腹部に炸裂した。


「がは……っ!!」


 内臓が爆ぜたのだろうか。

 吐血した塊が宙に浮く。


「ブッ……ッッ!!」


 ついでとばかりに。

 唾が生々しく、汚ないモノにさらに磨きをかけるようにして飛び散った。

 父親としては赦しがたい、惨い行為だった。


「まったく……。 お前はなんでこんなに不様で惨めで……不愉快なんだぁッ!?」


 もはや、サンドバッグでしかない。

 次々と放たれる暴力。

 かろうじて、背中で耐え凌いでいると、誰かが(ふすま)越しにその光景を見ていた。


 どこか悦に浸っていたように思える。

 それはまるで『お前さえいなくなれば』といったような眼差しであった。


「兄ちゃん……助けて……」


 兄と呼ばれた彼はまるで何も見なかったようにしてその(ふすま)を閉じてしまった。

 遮断された兄弟の関係。

 

 その瞬間 ── なにもかもが音をたてて崩壊してゆく。


 誰も味方なんていない。

 愛情なんて無意味でしかない。


 いつしか彼は、天涯孤独の身となり、孤児院へとその活躍の場を移すこととなる。


「おまえ、ひとごろし(・・・・・)なんだってな?」


 初対面であるのにどうして ── 。

 上級生がニヤニヤと下卑た笑みを浮かべ、誰にも気付かれないように彼を取り囲んでいる。

 それはいわゆる上下関係をハッキリさせるためなどではなく、明らかに苛め(・・)そのものなのであった。


 ただ、彼らは見誤っていた。

 その時すでに、彼が覚醒(・・)していたということに気付かなかったのが敗因と言えよう。

 暫くして、決着がつく。


「誰がボス? 言ってみてよ」


「「「あなた様でございます!」」」


 天涯孤独となった者に、もはや怖いものなど何もない。


 かつて味わった地獄からしてみれば、ちゃんちゃら可笑しくてヘソで茶を沸かすぐらいに。

 少なくとも、家族を制裁した(・・・・・・・)彼からしてみれば、たかがひとつふたつ年上の者達など赤子の手を捻るほど容易かったのだ。

 

 やがて時を経るにつれて大人たちすら支配下に置くことになるのは想定外だったが。


 それは施設を卒業してからも続き、十五を過ぎる頃には凶悪犯罪者として名を馳せるようになっていた。

 そして、いっぱしの極道となり、四十も半ばを過ぎた時 ── ……。


「うぅ……ぐっ……」


 全身余すことなく迸る激痛。

 鉄拳制裁という言葉はあるが、それ以上の仕打ちを受けていたというのには違いない。


「んなこと……あって、たまるかよぉぉぉ!!」


 二つの塊が彼の重要な機能を貫き、淀んだ魂が浄化されようとしていたまさにその時、声が直接脳内に響いたのだった。


『やり直しますか? それとも、ここ(・・)で終わりますか?』


 それは、まるで神様からのお告げだったのか。

 もしくは、悪魔の囁きなのか。


 考えるまでもない。

 今ある激痛から逃れられることができるのであればと、すぐさま、答えを導き出す。


「やり直すに……決まってるだろーが……!!」


『では、おゆきなさい ── 』


 それが彼にとってのrestart(リスタート)であった。




「くっそ、痛ぇじゃあねぇかぁぁぁッ!?」


 話が違うじゃあないか。

 そう訴えたいものの、何よりも堪えがたい激痛。

 よく診るまでもなく、明らかに重傷なのである。


 辺りは真の暗闇に包まれており、この絶叫ともおぼしき悲鳴は誰の耳にも届くことはない。


「ぐぅぅぅ……っ!!」


 人は、どうしようもなくなったとき丸くなるらしい。

 まるで猛吹雪のなか、寒さをこらえようとする猫のように。

 焼身自殺しようとするときなどが特に当てはまる。

 彼も例外ではなかった。


「痛ぇ!! 熱いぃぃぃッ!!」


 銃で撃たれた箇所から激しく血が滲み、大量に溢れだしてゆく。

 となると……もはや、あの世(・・・)に召されることは確実だ。


 もう、いっそのこと、冷たい床の染みになろう。

 そう、すべてを諦めかけたその時だった。


「ハハっ♪ どうしてそんなに痛がっているの?」


 暗闇から突如現れた姿は、あまりにも有名なキャラに酷似してはいた。

 片手に握っているステッキは蒼白く、それはまるで魔法の輝きを放っている。


「ねぇ。 そうまでして生きたいのかい? フフっ☆」


 その表情は寧ろ、悪魔の微笑みと言っても過言ではないだろう。

 だが、命が助かるのであらば売ろう。

 この痛みが消え去るのであらば従おう。


 背に腹は代えられないのだ。

 息も絶え絶えに決断する。


「助けて……くれ……。 なんでも……するから」


 それが彼の第2の人生の始まりなのであった。




 (U´・ェ・) (・ェ・`U)





「やぁ、鷲李斗(ワシリト)。 新しいbodyは馴染んだのかい? ハハッ☆」


「あぁ、ミッギィ。 頗る調子良いぜ」


 鷲李斗(ワシリト)と呼ばれた彼は軽く右手を振り回した。

 身体に比例しないほど、巨大な片腕を。 もはや、違和感しか感じない。


 これには思わずポカンと口を開けざるを得かなかった。

 まぁ、見事な間抜け面であったのだろう。

 薄暗い室内であったとしても、頬のひきつりっぷりに拍車がかかる。


「え……? ナニ? アニメ??」


 トオルの言い放った疑問は、なかなかどうして的を射ていた。


 何せ、そこには二頭身というより、寧ろ一頭身に近い巨大ロボットが現れたのだから。

 ずしん、ずしんと鳴り響く足音。 まるで漫画のようだった。


「よう。 元気そうだな」


 ただ、その声には身に覚えがあった。


「……まさか……っ!?」


「あぁ、そのまさか(・・・)さ。 あん時ゃあ、よくもぶっ放してくれやがったなァ?」


 確かにあの時(・・・)木っ端微塵に吹き飛ばしたハズである。

 特大バズーカを放って生きているだなんて想像もつかないし、寧ろ物語の導入にしか過ぎないキャラクターだと(タカ)を括っていたのであった。


「え~~~っとぉ……。どちら様でしたっけ?」


 トオルはなんとかその場を逃れようと、持ち前の愛嬌で誤魔化そうとするしかなかった。

 決して、内心(チキン)を悟られることのないように。


 それは、常日頃から先輩たちに「お前は詰めが甘い」とは言われ続けつつも、なぁなぁ(・・・・)で渡り歩いてきたせいなのでもあったのかもしれない。


 自業自得とはまさにこのことである。

 ただ、口車で事件を解決できるのなら、それに越したことはない。

 彼の得意分野である。

 上手く話を纏めようとしてプラっと告げた。


「生きていたんなら、無問題♪ さぁ、次の人生へレッツトライ☆」


 (´・з-)ノ⌒☆ チュッ


 時折、ひとを苛立たせるのもトオルの得意技であった。

 結果、神経を逆撫でしたに過ぎない。


「……テメエのせいで、こんな目に遭ってるんだよぉぉぉぉぉ!!」


 鷲李斗(ワシリト)はその凶悪な右腕を天高く持ち上げ、トオル目掛けて振り落とそうとした。


 逆ギレとはまさしくこのことを言う。

 よくもまぁ、いけしゃあしゃあと。


 血の涙を流しているのが、彼の心情をよく表していたのであったのだが、トオルには、どうにも腑に落ちなかたったのであった ── 。






「なぁ、タカ。 俺たちの出番、いつ?」


「さぁな……」


「何の話をしているんだ??」


 主役が活躍している最中、あくまでも脇役に徹する刑事達とキーパーソンが途方にくれていたのには誰も知る由もない。

 結局、事件を解決するのに出番が回ってくるのは違いないことなのであったのだから。



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