第19話 ちょ……待って……俺は悪くないよ!?
ちょっと、ぎゅうぎゅう気味。
雰囲気だけでも味わって頂ければ幸いです。
(^_^;)
それはまるで暑苦しい南国を想わせていた ── ……。
期待してはいなかったが着陸するや否や、明るい笑顔がそこにはある。
到着した矢先、首に掛けられた花輪と共にフラダンスを踊る褐色の肌艶。
波音を奏でるような軽快なミュージックは無いにしても、出迎えてくれたのがかなり嬉しい。
「アロハ、オエ♪」
迎えたのはたったひとりの女性であるというのに。
ただ、宙に舞う花弁は無限大を描くように色鮮やかに周囲を埋め尽くそうとさえしていたのであった。
歓迎の挨拶が鳴り響いてゆく……。
仏桑華や梯梧の花びら。
プルメリアや極楽鳥花といったような色彩が豊かに室内を笑顔で満たしてゆく。
額を拭う汗。 暑さが増していたような気もする。
所々真紅に染まったベッドの上で立ち聳える豊満な鉢。
有り余るほどの健康的な潤いが一同の目を奪い、呆気にとられていたのには違いなかっただろう。
それは家族でさえ同様。
いったい何が起こったのか分からず呆然としていたものの、その魅力に抗えず息をするのも忘れ鼓動が高鳴っていたのだった。
絶世の美女とは、まさに彼女のことをいうのではないだろうか。
そこに、もっとも愛すべき恐妻がいたというのに心を鷲掴みにされた夫 ── 政界のフィクサーとさえ云われたラスboss。
魚人族筆頭、バイオレットがひざまつくほど。
しかも、彼でさえ敬うに至る嫁でさえあまりの美しさに思わず恍惚の表情で涙を浮かべ両手で口許を抑え付け、素直に抱いた感情を堪えつけている。
和凛の実の兄ですら、まるで初恋の相手を彼方へ追いやるような衝撃を受け、寧ろ双眸にはハートマークを浮かべている程であった。
愛する妹であったが、今や別人。
そこに垣根は無いのだろう。
魔が差した兄はつい先程まで膨らませ尖らせていた夥しいまでの針を引っ込ませては紳士ぶった素振りを魅せる。
「マドモアゼ~ル。どうか私と踊ってはくれませんか?」
ニチャッとしたイヤらしい笑みを潜めてはいたが、直ぐ様察せられたのか。
憂いを帯びたふとましい片足は爪先が豪快な音を立て彼の顎先にクリーンヒットするのであった。
「汚え面ァ曝してんじゃあねぇよ!!」
ガツンと生々しい轟音。
自然と血飛沫が円を描く。
「ぶるあああっ!?」
盛大に宙を舞い、医務室に患者が増えたようだ。
「きゃあああ! ボンちゃんッ!?」
和凛の兄。 その名はボンボールという。
略した愛称でいつものように母が驚愕の声をあげた。
どうやら日常茶飯事だったのか和凛の兄貴はいくら成績が優秀とはいえ、数々の問題を起こしてきたらしい。
こと、女性問題に於いてはいつも頭を悩ませるほどで、次期党首を継ぐ者としては甚だ遺憾。
寧ろ、まったく関係の無い種族を後釜にしてしまおうかと画策するほどの煩愚。
ただ、産んでしまったのだから育てる義務はある。
未知数の可能性に賭ける。
母親としてはどうしようもない。
一人息子はかけがえの無い存在であったのだから……。
そんな一同の思惑など露知らず。
トオルは純粋に抱いた疑念を口にしてしまう。
「え……。 和凛ちゃんって真凛ちゃんだったの……?」
鈍すぎるにも程があるだろう。
状況についていけないトオルはだらしなく口を開けていた。
「トオル様……。 いえアナタ。 アタシのお腹には既に愛の結晶が宿っておりますのよ……」
畏まって腹部を愛でる真凛。
その表情はまるで母性に満ちた神のよう。
「「「 …… えええええっ!?」」」
── 一同は驚愕の声をあげる ──
確かに、僅かながらに膨らんでいるようにも見えたが、妊娠しているとも思えなかった。
況してやトオルにはそのような行為に及んだ記憶や経緯など一切無かったのだ。
「いやいやいやいや~……。それは無いでしょ……?」
言い訳がましく、断じて否と。
トオルがそう言ってみたところで好転しなかった。
四面楚歌とはまさしくこの状況を云う。
取り囲んでいる全てが敵と言っても過言ではない。 もはや袋の鼠状態。
「ちょ……待って……俺は悪くないよ!?」
一斉に突き付けられた眼差しには殺気すら纏い、睨み付けられただけで彫像になってしまうような。
彼の伝説の蛇の魔獣。
メデューサがたった独りの勇者を包囲しているかのようなそんな光景。
いま直ぐにでも逃げ出したい。
だが出口までの距離は遠く、トオルは観念したかのように茫然と立ち尽くすしかないのであった ──……。
次回は未定っ!
あぁ、編集が追い付かない(言い訳
┃≡3 シュッ




