表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら異世界派出所前。  作者: caem
season2【夏】暑苦しい。灼熱は甘い誘惑。
27/63

第7話 あんたいっつも曲がってばっかじゃないっすか!!

ハードボイルド、どこ行った(爆)



 いったいぜんたい、何を見せ付けられているのか。


 色鮮やかな毛並み(わんこ)に連れ去られてゆく人魚(マーメイド)の美少女。

 和燐(わりん)を遠目に成り行きを見守るトオル。


 整えられた髪型からは阿呆毛(アホゲ)が幾つもピンピンと生え、開いた口をそのままにしていた。

 あまりにも間抜けな様である。

 だが彼はハッとして己を取り戻す。


「ちょ……待てよ!!」


 今で言うなら某タレントか。

 虚しい叫び声に突っ込みが混じる。


 咄嗟に投げ出された掌は悲しくも空を切ってしまった。

 消えゆく和燐(わりん)の姿を眺めながら。

 嗚呼、斯くも遠い存在だったのかと。


 よくよく鑑みてみれば、トオルは唯の一般兵士。

 ならびにイチ(・・)刑事に他ならない。

 先ほどの待遇からするに、和燐(わりん)はどうやら偉い身分のお嬢様らしかった。

 仕方ないのは分かるが……。


 そりゃあ、ため息のひとつやふたつ。

 溢れてしまうのは致し方ないことであろう。

 がっくりと項垂れる背中には哀愁が漂い、思わず同情せざるを得ない。


 壁に寄りかかり、トオルは懐かしい過去を振り返る。


 トオルは昔、かなりのヤンチャ坊主であった。

 学生時代は他校生との喧嘩の日々に明け暮れていたものだ。

 よくもまあ、警察官になれたものだと思う。

 その理由のひとつには、当時、お世話になっていた刑事に由来するのだが。


 あの頃から比べるとすっかり丸くなってしまったなぁと染々(しみじみ)思い、トオルはひとり、うんうんと頷いていた。

 そんな時、ふと目についた腕時計の針を眺める。


 これ、高かったんだよなあ。

 いや、そんなことじゃあない。


 何かを忘れているような……。


「あ。先輩……」


 ようやく当初の目的を思い出したトオルは襟を正し、コホンとひとつ咳をする。

 息を整え、眼光に鋭さが帯び、己の使命を果たすべく立ち上がるのだ。


 『生活安全課』をあとにして、とりあえず予定の場所(・・・・・)へとトオルは向かおうとしたのであった。




 ▲ーーーーー▼




 時にして数刻。

 敢えてエレベーターを避けて階段をおりてきたトオルさん。

 目的地まではあと僅か。


 1階の、かなり広めの待ち合い室へと辿り着いた。

 ここまで何事もなかったのは日頃の行いが善かったからだと信じたい。


 そう言えば、昨日は輩に絡まれていた(ナンパされていた)雌豹の女子高生を助けてあげたしなあ。

 まさかお返しにあのポーズをして貰えるとは思ってもみなかったが。

 ……ということは差し引きゼロなのでは?


 ……などと、そんな事を考えながら。

 トオルは壁を背にしながら慎重に気配を窺い、だが素早く足取りを運んでゆく。


 普段であれば、様々な人種で賑わっているはずの待ち合い室なのに、誰ひとりとして見当たらない。

 そしてその天井には夥しいまでに破壊の痕跡が残されていたのだ。


 トオルの推測ではあるが、湾岸署内は今や奴 ── 凶悪殺人犯・娑夢(サム)()になっているだろう。

 最早、何処から現れても不思議ではない。

 息を呑みつつ、微かな物音にも注意し警戒心を怠るべからず。


 湿る掌はトオルの心中を顕していた。

 何せ拳銃すら所持していないのだから。

 脇が寂しさを醸し出す。

 ── ここ、空いてますよ、と。


「鷹野山先輩……大丈夫かなぁ……」


 辺りに染み付いた血痕を見ながらポツリと呟く ── その時だった。


 突如として轟音が放たれ、同時に笑い声と共に悲鳴が響き渡る。



 ── どごおおおおおん!! ──



「HAHAHAHAーーーHA☆」


「うひいいいいいっ!!」



 先輩刑事・ユージが必死の形相で、凶悪なまでに育ちきったbody(カラダ)娑夢(サム)を引き連れてきたのであった。

 廊下の曲がり角を華麗にターンしつつ、ユージはトオルを見付けて激しく憤りをぶつける。


「おいっ、トオルっ!! 作戦はどうなってんだよおおおっ!!」


「……逃さないデ~~~ス……」


 ユージの僅か後方で豪快に壁に激突した娑夢(サム)

 彼は壁に埋まった体躯を引っこ抜こうとしながらも、イヤらしい笑みを浮かべている。


 今やその筋量は逞し過ぎるまでに、ゴテゴテな肉の塊のようであった。

 最早「マッチョ」などとは形容し(がた)く、強いて言うならば「戦車」だろうか。


 砲搭を想わせる一本角(出っ歯)の根元には相変わらず、サングラスの似合う刑事・タカがグッサリと突き刺さっていた。

 真っ青な表情をしており、かなり危険な状態である。

 正直、生きているのだろうか……。


「……へ?」


 その様子をチラリと見るもトオルは、鳩が豆鉄砲を喰らったかのように目が点になってしまう。

 果たして、こんな作戦だったであろうか。

 あまりにも打合せ(・・・)と違う状況であるには間違いない。

 だが立ち尽くしている場合ではなかった ── 脚は自然と床を蹴る。


「「うおおおおおっ!!」」


 同調(シンクロ)する掛け声。

 トオルとユージは同じ方向を目指して猛ダッシュを開始した。

 目標を見定めた巨獣(サム)はやがて野に放たれる。


「いや! 違うでしょ!? 先輩はあっちぃ!!」


「馬鹿野郎! 漢は真っ直ぐ行くんだよ!!」


「あんたいっつも曲がってばっかじゃないっすか!!」


「うるせぇ! 良いからとっとと走れぇぇぇ!!」


「HAHAHAHAーーーHA☆」


「きたきたきたきたきたぁぁぁぁぁ!!」




   キタ━━━ (゜∀゜) ━━━!!




 振り向かないのが漢の生きざまなのか。

 決して止まらず諦めない。

 果たしてそれが格好良いとは言い切れない。

 だがトオルとユージはまだ見ぬ明日へと向かって走るのだ。


 そう。

 あの雄大な夕陽とは明後日の方向に向かって ──



ちょいちょい暴走してます(爆)

あ、いつものことかもしれません。

(´゜з゜)~♪


次回は2月8日辺りの予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ