06 観光
さて、事が知らされたのはほんの数時間前。
部屋で寝転がっていた俺の下に、半専属メイドのウルナさんがやけに凝った封をされた手紙を持ってやって来た。
「そちらに書かれている通りですが、国外の王侯貴族も招かれるパーティーがあり、そこで勇者様のお披露目をしたい…というお話が出ています。」
読んでいた手紙を思わず取り落としそうになる…
「ん″!??」
「そのため、皆様には早急に各々がお纏いになる衣装や、その他装具をお選びいただきたいとのことです。」
「マジ?」
「はい。マジでございます。」
まじかー……そういう如何にもなイベントとか無いと思ってたわ。
周りがチート過ぎて、ゴリゴリのバトルファンタジーかと思ってたわー。なるほどー、一つ一つの所作すら綺麗な美男美女の中に放り込まれる小市民……
「くそほど浮くなぁ……」
見た目だけでも着飾っておく必要ありか…
「ウルナさん…つまり今から買い物って事ですかい!?」
「いえ…王家御用達の服飾師を呼んで……」
なんて言葉は俺の耳には一切入ってなかった。
急いで準備して出てきたのは、俺だけじゃ無くて……
「……わざわざ店を持ってくるのか…やっぱレベルが違い過ぎるぜ。」
「っ…みなみんのメイドさん…先にそれを言って欲しかったです。」
「いや、ちゃんと話聞いときなさいよあなたたち。」
幼馴染み三銃士である九条煉と望月野乃葉、そして笹木麗。
金属鎧をひしゃげさせる男と、モンスターを召喚できる女。最後が2kmから弓矢で正確に的を破壊する女である。
そして何も出来ない男が俺。くっ…皆変わっちまったなぁ…、昔コンクリートの壁ぶっ壊して怒られてた煉が懐かしい……
「ところで麗は何買いに来たんだ?」
「観光だけど?」
なるほど、そう言えば城から出たこと無かったな。
こんな中世ヨーロッパ風のファンタジーな街並みを見る機会なんざそうそう無い。
くっ…これまでの行動が悔やまれる。城にいればお菓子食べ放題、紅茶飲み放題、読書し放題の怠惰生活だったから外に出る気力が湧かなかった…
やはりこの城は罠だったか、俺たちをぶくぶく肥らせて食べる為の!
「ところでみなみんのメイドさん、都市の案内って出来ますか?」
「いえ、私が知る場所の殆どは庶民的な場所なので…勇者様方には適さないかと…。」
「麗以外は庶民だろ、俺たち。」
「私も別にお嬢様じゃ無いわよ。」
いや、馬が飼えるくらいの別荘持ってるやつの家がセレブじゃ無いわけ無いだろ。至って普通の学校通ってるから普通の家かと思ったら、うちの家幾つ入るんだよってレベルのデカさだったぞ!?
「ま、いいじゃねえか、ひとまず普通に観光しようぜ。」
「ん、さんせー。」
さて、話は纏まった。さすがに10年以上の付き合いだし…こんな程度で喧嘩にはならんし揉めもしない。観光だろうが買い物だろうが、結局纏めて出来るし。
「思ってた以上に活気があるな…」
その場所をひと言で表すとしたら、『活気のある祭り』だろうか?たくさんの屋台が開かれ、野菜や肉、もしくは行商人が異国の品々を並べている。そして俺の手にはやけにうまいタレの塗られた串焼き肉が5本。
ちなみに一本目で既にお腹はいっぱいである。
「勇者様、お次はどちらへ?」
「次は服かな。ふつーの普段着が欲しい。」
「確かに、私もさんせー」
「賛成。」
「じゃあ俺も。」
とまぁ、そんな感じでサクサクと観光は進んでいき…
「なぁ、俺たちとちょっと遊ばねえか?」
すんごい典型的な絡まれ方をした。
いや、あのさあ…時代は令和だよ?こっちの世界は知らんけども、こんな典型的なの見たことねえよ。
「連れが居るんで。」
「ちょっとだけだって。」
あー、ダメだわコイツ…引き下がる気ねぇ。
すぐ近くだからって別行動したのが間違いだったわ。
視線は感じてたんよ!視線は!でもさぁ…俺とは思わないじゃん?野乃葉も麗も美少女だぜ?知らなかったとは言えTS男子には行かねえよ。
「っく…強情だな。おい、俺たちが大人しくしてると思ったら……」
あ、ついにナイフ出してき_
_
「ええ……」
あ、ありのまま今起きたことを話すぜ…ウザイナンパ男たちがついにナイフ取り出したと思ったら、次の瞬間には目の前でぶっ倒れてたんだ………なんで??
いやあ…俺的にはガチでヤバめなら叫んで煉呼べばいいかなぐらいに思ってたんだけど………ん?
「ご無事ですか?」
………じ、地面から頭が生えている。
いや、これ以上俺をツッコミ役にしないで欲しいんだけどナニコレ?どういう状況???
「まさか、どこかお怪我を?」
「ア、イエ…ダイジョブデス、ハイ。」
「そうですか、では、また何かありましたらお守りしますので。」
地面から生えた頭は、また地面に戻っていった……え?そーいう生き物??少なくとも声からして女の人だったよ???メスって表現したほうが良い????
「いや、もう頭のおかしい脳内会話やめよう。」
そりゃ普通に考えて国の重要人物そのまま外に出すわけ無いか。護衛は付けるよね、さすがに。それがあの生首さんなんだろう。俺が眼で追えないくらいの速度であの三人_まぁ噛ませ犬感が強かったけど_を制圧したことを考えるとかなりの手練れなのは確定として……
「何やってんだ南?」
「あ?」
そこに居たのは煉である。前から身長差があったが、もはや近くに立たれると影が出来るし首が痛くなるレベルになった。女の子になった弊害だ。背が低くなった。
170ギリくらいの身長だった俺は、女になってまず間違いなく人権を失っている。
「いや、別に…そっちは何買ったんだ?」
「いや…なんつーか武器が色々あってさ、三節棍やら斧槍、蛇腹剣……使えねえ事も無いけどよ、一発芸の域を出ないっつーか……。」
「なんで、そんな複雑な物使えるんだよ。」
つーか何買いに来てんだよコイツは。
その前にこの馬鹿共が倒れてる惨状が目に………
「……消えてる」
「あ?何がだ??」
今凄いゾワゾワした。下手なホラー映画より怖いだろコレ。さっきまでここにあったんだぜ?塵すら残らず消えてる。なんなら音すらしなかったけど?え?
「ご無事ですか!勇者様!!」
と、飛び込んできたのはウルナさん……だけどえ??
なんで私服??さっきまでメイド服だったよね?
「申し訳ありません……私が離れていたばかりに危険に晒してしまいました。」
「いや、別にこっちは問題無いぞ?」
「ちょっとみなみんのメイドさん…脚速いよ~」
ふむ、野乃葉の服も変わってるってことは二人で買い物してたのか。似合ってはいるが…かなり野乃葉の趣味が入ってるな……。
「似合ってるな、二人とも。」
「でしょ?私が選んだもん。当然だよね~。」
それを聞いて自分の姿に気付いたらしいウルナさんが顔を赤らめるが、もはや今更。後の祭りである。普通に状況を楽しんでいこうよ。
「南は何か買ったの?」
「俺も適当に服を買った。」
そう言って俺が見せた服を見て、野乃葉と麗は難色を示す。
「ええ…作業着ばっかじゃん。」
「いや、動きやすいじゃん?」
その後全員でなぜか俺の服を選び、その後も色々としている内に…
「結局夕方まで普通に遊んだだけだったな。」
もうじき開かれるというパーティーの事なんて完全に忘れて買い物したり、迷い猫を追い回したり、高台に登って景色を観たり…
「世界が変わっても…みんなで馬鹿やって……何も変わらないって…なんか安心するわ。」
素直にそう感想を溢す。
性別が変わろうが世界が変わろうが、何一つ変わらない。
「んじゃ、帰るか。」
「そだねー。私も疲れちゃったし。」
「私も。」
「俺はお前らの荷物持ちで疲れた。」
「今日はありがと、ウルナさん。」
俺の感謝の言葉に、意表を突かれたのか、ウルナさんの表情が変わる。
あまり感情を表に出さないタイプなのかと思っていたが、こうして無理矢理連れ回したおかげで普段は見ない顔も引き出せた。
「また、何かございましたら…いつでもどうぞ。」
笑顔でそう言ったウルナさんと、幼馴染みの馬鹿たちと、こうしていつまでも平和が続くように願い、俺は銅貨を1枚指で跳ねた。
無神論者の俺は、神に祈ることはしない…だから総ては俺の指に委ねる。
「まぁ、どっちが出ようが変わらないけどな。」
小鳥遊南、九条煉、望月野乃葉、笹木麗
幼稚園からの幼馴染み。家が近いし親同士の付き合いもある。麗は金持ちだが見せびらかすタイプじゃ無いめちゃくちゃ良い子です。




