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63 抱擁

魔王は全裸です。えっちですね。

そしてタイトルです。えっちですね。

「まど姉ー!?」


野乃葉の若干ギャグ入ってるよな!?な悲鳴に対して、悠真は本気で混乱する。人間には眼球が2つ付いているものの、白い少女及び今正にヤバい事が起きている怪物側と、突然水の中にぶっ倒れた円香は真反対の方向なのだ。馬のように視野角が300°以上あれば良いものの、人間の視野角はもっと少なく、しっかり視認出来る視野角を考えれば60°ほどのものである。

どっちに意識割けばいい!?

どう考えてもこのままだとマズイ状況になりかねない怪物の方なのか、現在進行系で溺死の危険がある円香の方なのか?というよりも円香が突然倒れたのはあの怪物の攻撃なのかとかそういう考えも頭を過ぎる…。

いや……冷静に考えてあんなやばいの見たら誰だろうが倒れてもおかしく無いのでは?


悠真は改めて考える…。

突然現れた時点でSAN値をガッツリ削ってきそうな気持ちの悪い怪物が、その後即座にダイナミック解体されているのだ。

比較的人間に近い外見なのもそうだが…動物の屠殺だって間近で見ることもそうそう無いだろう。単純に馴染みが無いのだ。気分を害しても仕方ない…。


「チッ…」


そもそも考えている余裕などありはしない。

約3秒ほどで悠真は意識を完全に切り替え、水の中に沈む円香の腕を掴み、一気に引っ張り上げ………


「ぅ…」


「ちょっと、絶対言わないでよ!?」


思わず絶対に女子に言ってはいけない3文字が口から出そうになったが、察せる女である麗がすぐに助けに入る事で事なきを得る。チートの代表みたいな《複製(コピー)》のスキルを持つ悠真ではあるが、ぶっちゃけ本人のスペックはさほど高くないのだ。

煉のようにムキムキ脳筋では無いし、かといって南ほど虚弱では無い。平均よりちょっと…ほんとにちょっとだけ高いかな〜?くらいのスペックが悠真である。

さて、水の中から上がった円香の顔は血の気が引いて青白くなってはいるものの、それは単純に気絶した原因が原因だからだろう。すぐに水から引き上げたのが功を奏したのか、呼吸にも特に問題は無さそうだ。とはいえ…


「のの!ののも早く手伝いなさい!」


「─〈救命士の兎召喚サモン・レスキューラビット〉!」


わりとキレそうな時の声の麗の声を即座に見破り、即座に野乃葉は魔法を発動させる。呼び掛け(召喚魔法)に呼応し、淡い輝きを放ちながら…そこそこ…いや、かなり巨大な兎が出現する。

地面から照らされながらゆっくりと迫り上がってくる巨大兎とは確かにシュールな光景ではあるが、その兎が異様なのは何故か頭にヘルメットを被っているところだろう。しかも耳に合わせた長い突起が2つあり、しっかりとウサギ型ヘルメットとしてヘルメット本来の機能を格段に低下させている。


「うさ吉9号!まど姉を背中に乗せてっ!」


救命士の兎(レスキューラビット)は野乃葉の命令を受け、ゆっくりと円香の肩を抱く悠真と麗の下へと向かい─「うぉっ!?」「きゃっ!」

頭を器用に使って二人ごと背中に乗せてその場を─野乃葉を置いて─離れていった………



「ちょっ!!私を置いてかないでよー!」



一拍置いて置いていかれた事に気付いた野乃葉のバシャバシャという喧しい足音と共に、その場には再び静寂が宿った。ちなみにだが召喚されたモンスターには、口頭で直接指示を飛ばさずとも頭の中で命令を下せば良い。つまり野乃葉は自分でこの状況を招いたわけだ。さほど運動神経のよく無い野乃葉のバシャバシャという足音が完全に消えるまで…正直に言えば結構掛かった。



さて、当然ながらその間にも気色の悪い青白い腕が空を掴むように、ぐちゃぐちゃの骸の腹から動いている。もとより、ソレの腹は妊婦のように大きく膨らんでおり、何か─少なくとも人間ではないもの─を孕んでいるということは容易に想像出来た。

しかし、大抵の場合…生物は誕生直後、脆弱であり母体が死んでもなお自らその腹を破って出てこようとするような存在は稀である。無論、"生命の神秘"と言えばそれまでなのだろうが…目の前のソレに適応するには少々無理がある理論だろう。


化け物から産まれるのは、やはり化け物である。

裂けている腹をその()()()腕で更に裂き開き、血と臓物に塗れて深く濡れた長い髪が現れる。蛙の子は蛙、ヒトの子はヒト、であるならば、やはりそれは、紛うこと無く…その化け物の子供なのだろう。


『痛かったわ…今のは、ね。』


そこにあったのは、やはり先ほど死したハズの化け物と全く同じ姿をした存在。傷痕1つない美しい肌を惜しげもなく魅せつけ、口の無い無数の瞳だけの顔…表情こそ判らないものの、その声色から笑っているのは理解出来る。


『なら次は、私の番かしら。』


無数の瞳の瞳孔を開き、怒りを顕にした声。

そしてまた、3対ある腕を前に構える…、次こそは当てる。必殺のソレを…。

─瞳の化け物の、その指先が強張る……

何か恐ろしい物を見た時のような…、本能的に恐れるナニカを見た時のような…。蛇に睨まれた蛙のような…白い少女のその背後…、ゆっくりとした歩みに合わせた水の音。


『─何故何故何故何故何故…お前がここに居る?』


3対の腕全てで頭を血が出るほど掻きむしり…、"理解出来ない"と"あり得ないことだ"と。自らの思考を否定するために痛みを、痛みを、痛みを…もっと痛みをッ!!!!


『勇、者……。』


あり得ない存在。ココに居てはならないハズのソレは、ゆっくりと…自らの腰にさした剣を引き抜いた。


『ッ!』


驚愕に動けなくなったのもほんの一瞬。自らの血と髪の毛が纏わりついた腕を振るい、子供たちを溶かし固めた肉塊をぶつける。先ほどと同じ技、同じ威力、全て同じ…ひとつ違うのは、あの()()()()が既にその場を去っていること。以前は邪魔されたが次こそは─


「…《聖剣召喚(インヘリテッドソーズ)》」


鈍く輝いた剣の一閃。

下から上に向けて放たれたソレは、迫る肉塊を縦に裂き、肉塊たちは空中で飛散して再び周囲に飛び散る。雨のように降り注ぎ、積み重なるそれら…


「なんかすげえやつが居るな。」


「うん、たぶんアレが…魔王、だろうね。」


肉の雨の合間から、肩慣らしとばかりに腕を回す筋骨隆々の大男が一人、そして、輝く剣を握る横に並ぶのと比較すれば線の細い男が一人。


「んじゃ…やるか、優輝!」


「うん。」



















『聞こえたわ……聞こえたわ。聞こえてしまったわ…。』


蛸のような触手状の脚を、まるでドレススカートで歩くように揺らしながら、ゆっくりと、ゆっくりと近付いてくる…。


『でも……あなたも、愛しい私の子供になるのですから。』


囁くように、優しげに語ったその化け物。

敵意は無い。しかし、本能的な恐怖を駆り立てる赤ん坊の泣き声はどんどんと大きくなり、その数も増えていく…。

あの試練に、確かにソレは"魔王"だと言われたが…、優輝が想像していたものとは明らかに異なる。あのアルカナム王城の被害を見れば、誰もが想像出来るだろう。"破壊の化身"或いは"死を運ぶ化け物"だと。

異様な外見のモンスターを無数に従え、城へと突撃し、そのままに力を振るった。セシル団長すら深手を負うことになり、僕自身、何も出来なかったどころか記憶すら何も残っていない。

だが…ソレは…その存在の言葉には、敵意や殺意のようなものはまるで感じられない。むしろ…こちらに友好的な様子であり、大きく広げた3対の腕は、母親が愛する我が子を抱きしめる時のような優しさと、愛おしさだけで作られたような仕草である。


『魔王の子供が勇者だなんて、とても面白いとは思わない?』


「ッ!」


ぐちゃぐちゃと、足下に広がる肉塊達が動き回り、3つ穴が空いているだけの顔をこちらに向け、ぺちゃぺちゃと濡れたような気持ちの悪い音を鳴らしながら足を伝って這い上がってくる。


「何が…ッ、ぅ…目的だ!!」


振り払うために足を前に出して魔王に近寄ろうとしたところ、隙間なく敷き詰められているようなソレを踏み潰してしまい、足から頭にゆっくりと伝わってくる、本当に気持ちの悪い…過去に経験したことの無いような感覚に思わず顔をしかめ、言葉が途切れる。

正直顔を背けたいほどだからこそ、意地を張って声を張り上げただけに…途中で言葉が途切れたことで若干の気恥ずかしさを覚えてしまう。いや、そんなこと言っている場合では無いのだが…。


『目的?それはもちろん。私の愛しい…愛しい子供たちが…幸せに、幸せに過ごせるよう、私は、私に出来ることをするだけ…』


言葉だけは立派だが、その言葉を額面通りに受け取ることなど出来はしない。ならば魔王の周囲で悲痛な泣き声を上げるそれらは何なのか?積み重なった事で押し潰され、血塗れの肉塊になっただけのソレに対して、魔王は視線ひとつ向けるつもりは無いらしい。

ならば魔王の語る"愛"とは…"幸せ"とは何なのだろうか?


ゆっくりと歩みを進め、とうとう目の鼻の先までやってきた魔王に対して、優輝は剣に手をかけ…いつでも抜けるように準備を整える。既に《聖剣召喚(インヘリテッドソーズ)》は発動している。鞘の中ではいつもの輝きを放つそれがある。

大丈夫だ。大丈夫。僕なら…魔王を殺せ─


殺意など何も無い…柔らかな感触に包まれる。

痛みも無く、それでいて反応出来ないほどの速度で行われたソレに対して、声すら出せず、優輝はその胸に抱かれるしか無い。3対の腕による拘束は、本来恐怖を抱くに十分であるハズだが…抜け出せないほど強い拘束では無く、何故か、心の中に安堵のような感情すら生まれてしまう。

このまま身を委ねてしまえば、どれほどの幸福を得られるのだろうか?このままこの温かい抱擁に包まれ続けられるならば─


─斬


人間と同じ赤い血が飛び散り、4本指の腕がくるくると宙を舞う。


『あら…』


斬り飛ばされた腕は当然の如くピンク色の肉塊の上に落ち、人と同じ赤黒い血で蠢くそれらを汚しながらも、自重により呑み込まれた。

密着していたため体勢が不安定であり、斬り飛ばせた腕はわずか1本。いや…そもそもの話、敵意も殺意も無い相手を攻撃することに対する僅かな罪悪感が、優輝の本来の剣の腕を鈍らせた…。

魔王の反応は殆ど無いながらも、腕の拘束は緩くなり、優輝は腕の中から抜け出すことに成功する。


『……反抗期かしら?』


斬り飛ばされた腕を気にした様子も無く、全ての視線を優輝へと集中させ、優しげなその瞳を崩さない。


『怖がらなくていいのよ?大丈夫、何も怖くないわ。"みんな"私の愛しい子供たちになるのよ?大丈夫…怖い()()はもうここには居ないわ。追い出したもの…だから、大丈夫…大丈夫よ?』


先ほどのように近付いてくる気配が無いのは、やはり腕を斬り飛ばされた故なのか、とはいえ…本当にダメージになっているのかすら判らない現状で、無闇にこちらから動けないのも事実。

続けてやはり説得じみた優しげな言葉を描けては来るが…そもそもの目的が具体的では無い。"子供たちになる"という言葉は、恐らく眼下に広がる…目を背けたくなるようなピンク色の肉塊を示しているのだろうが…自分をそれに勧誘するという事はこれらはもともとどこの誰だったのか、そもそもどうやってこのような姿になったのか…そもそも─


「!」


それは勇者となってから身に付いた『直感』或いは『第六感』のようなナニカ。肉体の異常を報せる危険信号が、頭の中に警告を鳴らした。

違和感を感じたのは左の腕。黒い靄のような物が纏わりついてはいるものの…それはあくまでも纏わりついているだけであり、完全に自分の身体を侵食するには至っていない。


『……どうして?』


……先ほどとはまるで異なる、まるで鋭い物で皮膚を刺すような怒気を孕んだ声。口調そのものは崩れておらず…ヒステリックでもない落ち着いた声にも関わらず…ソレが酷く恐ろしく感じるのは何故だろうか?


『どうして拒絶するのかしら?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?』


じわじわと追い詰められるように、思わず一歩、また一歩と後退る。暖かさなどまるで無い冷たい声が恐ろしい。まるで子供の頃に何かをしでかしてしまった子供のように、言い訳を考え、泣きじゃくり、そしてそれでも母を求められればどれほど良かったか。

皮膚は泡立ち、背筋から冷たい汗が恐怖の感情となって流れ落ちる。


『優しく触ってあげたわ。あなたを傷つけたくなんて無いもの。私が出来る限り優しい言葉を選んだわ。あなたに理解して欲しいもの。優しく抱きしめてあげたわ。あなたを愛しているって…他の子供たちと同じように愛しているって判って欲しかったもの。他の子供たちと同じように…愛したかった、愛したかったわ。でも─』



『─あなたは拒絶するのね?』



壁など無かったハズの空間で、後退と共に背中を硬い感触が叩く。気付けばピンク色の肉塊が…彼女の語る子供たちが、その溶けたような瞳で自分を見ていた。いや…無論、彼女もその無数の瞳で…僕を見ていた。

口の中が渇き…言葉を発することが出来ない。いや…もとより反論の余地などありはしないのだ。

覚悟は既に決まっていた。優輝は剣を握る汗ばむ手のひらに込める力を強める。いつでも来れば良い。いつでも斬れる…いつでも……。



『さようなら。』



幾つものパターンは想定していた。

あの赤ん坊たちによる一斉攻撃…或いは先ほどの抱擁のような直接接触攻撃。どんな攻撃が来ようとも、勇者の…この特別な剣の力ならば対応出来る。自身を中心とした波状の範囲攻撃も、まるで光線のような一点突破の遠距離攻撃も。なんだろうが出来たハズだった。


地の底が抜け落ちたような妙な浮遊感。

考えれば、先ほどまで縋り付くように足下に居たハズのあのピンク色の肉塊たちが、まるで波が引くように消えていた。

別れの言葉。それは死別の最期の言葉か、或いは言葉通りの意味なのか。












見慣れない漆黒の天井……いや、天井があることがおかしいだろう。砂の感触がする地べたにも関わらず、曇天でも、夜空でも無い漆黒がその空を覆っていた。

あの世がこのような景色なのだとしたら、なんとも味気ないものだろう。あの世は楽園か、花畑か、青白い顔の死者たちが、陰気に彷徨うだけなのか。


「お~い、生きてるか?」


少なくとも、2m近い長身の大男の幽霊が「生きてるか?」などと問いかけてくるような怪談の噂は聞いたことが無いかも知れない。

魔王リーアの見た目のモチーフはハエ。家の中で気付いたら繁殖してやがるから多産のイメージが凄く強い。

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