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61 ストーカー

タイトル。

正直…自らの眼で見たものが本当に現実だったのかは疑わしい話だ。聞こえてきた夜泣きの声の出どころを見てやろうと窓の外に目をやった…。


「は」


仮説を立てた直後に起きた出来事だ。

舞い上がってしまったのも仕方ないだろう…。仮説が正しかったとしても本人は都市を離れているハズだ。とか…喪っているハズの左腕のこととか…すべては頭からすっぽ抜けていた。


飲んでいた酒をその場に残し、部屋に鍵も掛けずに外に出た。

その影が消えていった通りへと駆け─


「居た!!」















元の世界であっても、何かしらの理由が無い限りは路地裏には近づきたくは無い。理由は単純…勝手な憶測(イメージ)である。

基本的に人通りが無く、薄暗く、ゴミが多く落ちているような掃き溜め。人目につかない故にわざわざ掃除されないというのもあるが、やはり不潔なイメージは拭えない。

そして、不潔であり薄暗く、人も居ない場所をわざわざ好む人間というのはやはり何かしら人に言えないような何かを抱えている存在だ。だからこそ、様々な作品で犯罪や裏取引の舞台として選ばれ、更にイメージを悪くしているわけだ。そんな路地裏という場は、この異世界に於いても当然の如く悪いイメージしか持たれてはいない。風呂敷を広げて商いをしているのは獣の特徴を色濃く残す獣人の老婆。フードを目深に被り、曲がった腰のままに俯くその姿を見て、わざわざ話しかけに行く者は居ないだろう。無論、広げられた商品は統一性の無い異様な物。装飾品や剣や財布…、恐らく盗品を売っているのだろうが、わざわざこのような場所で風呂敷を広げている時点で、彼女が表での信用を完全に失っている人物である事は想像出来る。

簡易的にではあるものの屋台を構えている細い男は、何の肉かも判らない串焼きを店先に並べ、安酒を呷っている。

身体中に痣のある半裸の中年女性が壁に頭を打ち付けながらうわ言を呟いている…。その額には血が滲んでいるが、本人はそれを気にする様子も無い。


「っ…」


そんな光景を見ても、麗の頭に後悔の2文字が浮かぶことは無い。女3人だけで動き回るという危険を考えても、やはりそれは確かめなければならないことだった。しかし、そんな危険を冒してまで来てみた先には……あれ?


「は?悠真なんで居るの。」


「なんでちょっとキレ気味なんだよ…はぁ……。」


酒瓶片手に座り込むその姿は…なんだろうか…限界を迎えたサラリーマンが夜の公園のベンチで黄昏ているような姿とピッタリ重なる。悠真はまだ高校生のハズだが何故だろうか…一気に老け込んでいるように見える。というか何故部屋に酒を置いていったのに酒瓶をまた持っているのか。


「まーゆー、みなみん見てない?」


ひとまずそんな悠真を後回しにして野乃葉が南の居場所を尋ねる。だって目的そっちだし。あくまでも悠真は副次的にたまたま見つかったに過ぎない。

友達との待ち合わせ場所に向かったら何故か居て「え?なんで居るの?」ってなったに過ぎない。コレに関しては続く言葉が重要だ。正直来て欲しくは無かったけど「ま、いいや一緒に行こうぜ」となれるのか、或いは「は?誰が呼んだの?」とギスるのか…。いや、そんな事はどうでもいい…。南の行方は……


「ほれ、そこに居ンだろ。」


と、悠真が酒瓶を向けた先には─


「え…」


言われるまで気づかなかったほど、気配が薄い存在がそこには立っていた。長く白い髪に人形のような容姿に細い身体…ふむ、薄い胸も確かに女体化した南に良く似ている。しかし……


「…、」


灰色に近い瞳の色は、血のような紅色だった南の瞳とはまるで違う…そして、虚ろな瞳で遠くを見ながら、その手を祈るように組む姿は、少なくとも正気の人間とは思えない。路地裏でこれまで見てきた手合と似たような雰囲気すら感じてしまう…。唯一の違いはその清潔感だろうか?白い髪によく似合う汚れ一つない真っ白なワンピース……というより?イメージ的には世界的に有名なホラー映画の、あの井戸から出てきたりテレビから出てきたりする某幽霊さんの服に似ている。


「みなみん……じゃ無い、よね?」


「…誰?」


「知るかよ…少なくとも、南じゃ無ェ。」


姿は良く似てはいるが…それは恐らく"そうあって欲しい"というバイアスが掛かっている故の物だろう。この世界でも珍しい艶のある白い髪に人形のような容姿…しかし、それは彼彼女らの知る南では無いのだ…。


「…人違いか…焦ったわ。」


円香のホッとしたようなその言葉は、まぁ簡単に言えば己の見たものが幽霊とかそういう系統の何かしらじゃ無くて良かった〜という類いのものだ。

彼女の中の南は、あの王城で死んでいる。なればこそその場で見た異様なソレを合理的に判断するのなら『幽霊』或いは『見間違い』のどちらかだろう。そして、やはり結果は見間違い。しかし、そんな彼女の呟きを聞き、悠真の表情は更に苦味を深める……


「……もういいわ。悠真も戻るわよ、優輝が居なくなったから、探さないといけないの。」


「えー、みなみん……ぽい、人?はどうするの?」


「南じゃ無いもの…どうしようも無いでしょ?」


「そォだな…大通りから1人でここまでは歩いて来てンだ。また、1人で帰れンだろォよ。」


悠真の言葉を聞き、南っぽい少女の足下を見てみれば、確かにナメクジ程度の速度ではあるがゆっくりと歩いて進んでいる…。この速度で大通りから歩いてきたのだとすれば確かに夜は明けてしまうだろう……。ん?

納得しそうになったが、つまり悠真は大通りでこの少女を見つけて酒を買って、夜明けまで少女に付きまとっていたということか?


「……キモ。」


円香の容赦の無い1言が悠真へと突き刺さる。とはいえこれはもう弁明出来ない。実際ガチでキモい行為だ。もう一度言おう、見知らぬ女の子に夜明けまで付きまとって、その姿を肴に酒を飲んでるって…ヤバすぎるだろ!


「あー……おう。戻るわ。………飲むか?」


「……」


殆ど減っていない酒瓶を少女に差し出してガン無視されるコントをした後、悠真は立ち上がってトボトボと歩き出す。若干ふらついているように見えるのは恐らく酔っているから…というよりも寝不足だろう。

馬鹿な行動で体調を崩していては元も子もないだろうに…それも魔王が来るかも知れない状況なのだからさすがに辞めてほしい。


「はぁ…ンで、勇者サマを探すんだったか?」


「そうよ、今はハクラさんたちと煉が……煉も…まぁ探してくれてるから…どっちかと合流するかどうするかって感じね。」


「ま、ひとまず迷子の悠真は見つかったよ…って伝えとかないとだしね。」


「…ねぇ麗ちゃん」


さっさとその場を離れる準備をしていた麗たちに、何故か震えた声で野乃葉から声が掛けられる。

普段常に一緒に居る麗ですら、野乃葉のそんな声はあまり聞いたことが無い。そもそも野乃葉はよほどの事が無ければ怖がったりするような性格では無い。誰かと一緒に観るならばスプラッタ映画すらケラケラ笑いながら観れるのが望月野乃葉という人間だ。ならば…そんな彼女が恐怖で喉を震わせる相手は何なのだろうか?



「─」



それは異形の姿の化け物…。

長い髪から覗くのは、葡萄の房のような無数の瞳。女性的に突き出した3対の柔らかな胸の膨らみと、それに対応するような3対の腕…。背には羽を全て毟られたような肉が剥き出しの翼が生え、最も下の胸部の直下には大きく膨らみ、血管の浮き出た妊婦のような腹がある。そして本来脚のあるハズのそこには、赤黒い触手がドレスのように垂れていた。


いつの間にか空は真昼にも関わらず闇に染まり始めており、空には肉で作られた円が浮かぶ。

何処からか聞こえる赤子の泣き声。

そして小さく響く酷く優しげな子守歌。


「ひ」


小さな悲鳴を最初に発したのは、普段最も冷静な麗であり、麗の視線の先には、影が差して底の見えない水の底から次々と伸びる青白い小さな腕が、縋るようにその手を動かしている。


「ッ…聞いてねェぞこんなモン。」


悠真を含むこの場の人間にとって、魔王とは圧倒的暴力の象徴であり、多くを殺す最低最悪の化身である。しかし、目の前のその存在はそういった存在からは大きく外れている。



化け物が腕を振るった。

それが何を意味するのか…即座に理解は出来なかったし、反応する事も出来なかった。

無数の赤ん坊の泣き声とともに、顔や手足の生えた肉の壁が路地裏を埋め尽くし、津波のように迫る。手足どころか指先も動かない…、いや、たとえ動いたとしてもここからでは逃げることも、防御することも出来ない…押しつぶされて終わり…


「ぁ…」


いつの間にか、白い少女が、その矢面に立つ。

咄嗟に止めるための声を上げる時間すら与えられない刹那の中…少女の声が微かに聞こえた。


「─《錬成(アルケミー)》」


















大きく口を広げた真っ暗な階段。頭をぶつけそうな程狭く、天井も低い地下へと続く階段は、崩れ落ちた廃教会にひっそりと隠れていた。

水没しているハズの地下には水こそ無いが…どこかジメジメと嫌な湿気を感じる気味の悪い空気が沈んでいる。とはいえ、完全に閉ざされた闇の中では何も見えはしない。たとえあらゆるを見抜く《真眼(トゥルーアイ)》があったとて、別の方法があるのにわざわざ使うことも無いだろう。


「〈小陽光(サンライト)〉」


指先に灯るのはビー玉程の小さな球体。

"陽光"の名の通り、凄まじい光量を誇るそれは、どこまで続くかも判らない地下深くを明るく照らし、怖気づく優輝の歩みを手助けする。

左の手で杖のようにして握る聖剣の輝きを一瞥し、ようやく優輝は一歩を踏み出し、

陽光が掻き消える。



『─あぁ、ようやく訪れたか。』



静かで深い闇だけが支配する空間には、やはり巨大な存在がその身をくねらせている。

自らを『試練』と名乗る長大な龍は、その鎌首を優輝の正面へと降ろし、その黄金の瞳を開いた。

遅くなり申し訳ございません。まだ細々と書いております。失踪はしませんのでご容赦下さい。

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