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60 ガールズトーク

ガールズトーク(ガールズトークではない)


短めです。

陽光がギラギラと大地を照らし、全てを枯らす大砂漠であっても、夜は静寂と寒さがやってくる。

都市水没という通常あり得ない状況のフォレスティアでも、夜は例外無く訪れる。心地よい静けさの夜闇と、満月が水面に反射し、闇の中に幻想的な光景を浮かび上がらせる…。


「街灯も無ェと…まァこうなるわな。」


いわゆるド田舎の風景を頭に浮かべてほしい。

街灯も無い完全なる暗闇の中で、家同士が離れている故にぽつぽつと灯っている小さな灯り。その中で虫の声だけが響いてる…の、虫の声も無いverがフォレスティアの夜景である。

この世界には電気が無いし、化石燃料の概念はあまり浸透していない。実質的に無限のエネルギーである"魔力"なる謎要素のおかげだろうが、その魔力を用いる魔法道具(マジックアイテム)も庶民にはなかなか手を出しづらい値段だ。

必然的に今この都市で灯りが灯っている施設というのは、金持ちか、都市の重要機関。無論、水門管理局の存在する都市中心部には明かりが灯っている。


「さてと…」


頭に浮かべたのは、都市を水没させたという水魔法使いの冒険者。

冒険者…【半森妖族(ハーフエルフ)】ラトゥイから聞いた話では少なくとも男性…しかし、隠蔽の効果を持つ外套を纏っていたために顔は確認出来なかったらしい。


「ンな化け物がそうそう居てたまるか。」


無論、他の召喚者である可能性もある…、しかし重要なのはそこでは無いのだ。

()()()()()()ことが最も重要なのだ。


「0じゃ無けりゃ100の理論だろ…。yesかnoなら50%…。馬鹿みてェな理論だがよォ…。」


「俺は信じるからな。」


口に出さなければ、自分自身を騙せ無い。

もとより無かった希望を、さもあるかのように考えろ………


「あ?」


どこか遠くの遠くで、赤ん坊の泣き声のような物が聞こえた。


「夜泣き……は問題無ェが……。」


妙な違和感がある。

違和感の正体は判らないが…少なくともこの夜泣きの声は普通では無い…。鳴り止まない泣き声は…どんどんと近付いてくるような気さえしてしまう…。


「何が─」



闇に閉ざされた部屋で、1人の少年が姿を消した。
















「何も言わずに消えた……ですか。」


「そうね。置き手紙とかも無いし…でも、部屋に飲みかけのコレがあったから…」


と、麗がハクラに対して見せたのは酒のボトル…ではあるが、見かけよりかなり度数が低く…缶チューハイほどの度数しか無い甘い酒。

しかも部屋にあったのはグラスに注がれた物が飲みかけである。どれだけ酒が弱いとはいえども…自分で注いだ分くらいは飲んでから出掛けるだろう。


「んー、あいつそんなに酒弱かったっけ?」


「ののじゃあるまいし数口飲んだだけでふらふらどこかに行っちゃうなんてことは無いハズよ。」


「麗ちゃん!私もそんなことにはならないからね!!」


問題児とかそういうわけでは無いのだが、人の輪に進んで入るタイプでは無い悠真…恐らくクラスで最も仲良くしていたのは南だろうが…その南はもう居ない。

そんな悠真が消えたのだ…誰かと連れたった訳でも無いため、手掛かりがひとつも残っていない。


しかし、麗と野乃葉たちからすれば少し視点が変わってくる。……いや、その中で野乃葉は何も気づいてなどいない……何故だろうか。


(もともと自由に動くためにアルカナムから抜ける…みたいな話はしていたけれど…それにしてもあまりにも急な話ね…。)


路銀も少なく、この世界についても疎い以上…なかなかに抜けづらいという話で収まったハズだ。そもそも…アルカナムの近衛騎士【影潜】ハクラ率いる騎士たちはかなりの手練れだ。そんな彼彼女らに発見されること無く姿を消すというのはかなりの困難に思える。


「なるほど……やはり、我が隊の誰も、悠真様のお姿を見た者は居ないようです。都市から出た様子もありませんが……」


特殊な魔法道具(マジックアイテム)で部下と連絡を取っていたハクラが戻り、更に状況を混乱させる事実を告げる。

都市内に散開して配置されていたハズの騎士たちが一切その姿を見ておらず、都市からも出ていない…都市内に用があるのならばさすがに書き置きくらいは残していくだろうし……これでは単にこちらを混乱させるために姿を消したとしか思えない…。


「はぁ……………………………………」


麗は一瞬考えるような素振りをした後、とてつもないほど長いため息を吐き……


「……探すわよ。仕方ないから。」


「麗ちゃんってわりとホントにめんどくさがり屋だよね〜。」


「ま、今回は悠真が悪いでしょうよ。あいつの場合どっちか判んないからね…」


ちなみにこの場に既に煉は居ない。

何かあるとジッとしていられない性格である彼は今ごろは都市中を文字通り走り回っていることだろう。たぶん「悠真ーー!!どこだー!!」とか叫びながら走り回っているに違いない。つまり、あまり慣れない都市の中を走り回って迷子になった煉を探しに行くなんていうことは起こり得ない。馬鹿みたいな叫び声が聞こえるところに向かえばたぶん居る。なんとも分かりやすくて愛らしい馬鹿が煉という男なのだ。


「んじゃ…私は鳥やら猫やら適当な小動物に探させとくから…ののは召喚でどうにかして……麗は…どうする?」


「私だけ役たたずみたいな感じになるからやめてよ…。」


2人と比較し、遊びの殆ど無い完全戦闘特化なスキルを持つ麗にとって、そういうアレは非常に困る。弓道部所属だった故か発現した《弓導士(アーチェイラー)》のスキルは、撃ち放った矢をある程度操作することが出来るという物であり…出来るとすれば……悠真の狙撃????


「一応だけど眼は良いし……高台から探してみようかしら。」


「わー、冗談じゃ無いトコが狂気だわ。私もだけども、もう人間やめてるよそれ。」


眼が良いとはマイルドに言った表現であり、実際は異常とも呼べる視力を持つ麗…恐らく視力二桁後半…マサイ族もビックリの視力を誇る麗は、最近では見たものに対して、周りと会話が噛み合わなくなっているという悩みがある。

もちろんそれはもともと備わっていた物では無く、異世界に来て得た能力であり、優輝の持つ動体視力特化の《真眼(トゥルーアイ)》とは異なる遠視特化の《超視(アイサイト)》を獲得した結果である。


「…ところで優輝はどこにいんの?」


話が一段落したところで円香が気になっていた事を聞いてみる。この場には【影潜】ハクラと、騎士がもう1人。あとは麗と野乃葉と円香だけ。

この都市に来た理由でもあり、わりと重要な立ち位置のハズの優輝が何故か居ないのだ。


「……何、悠真と逢引?」


「気持ち悪いこと言わないでよ。優輝はアレでしょ……………アレ。」


さすがにそんなわけ…と思ったが、麗は答えが出せないでいる。そう。たぶんアレだ。きっとアレをしにアレに行っているに違いない。

断じてさらなる面倒事を押し付けないでくれー!となっているわけでは無い。だからアレをしてるに違いない。ほら、アレだよ。


「…じゃあ、私たちは悠真を探しに行くから…ハクラさんはアレしてるハズの優輝を探しておいてちょうだい。」


「…笹木様……アレとは何でしょうか?」


「「「アレだよ。」」」


3人は考えるのをやめた。









「…麗って、優輝に当たり強くね?」


「えー、麗ちゃんわりと誰にでもドライだよ?みなみんにも平気で暴言吐くし。」


「それだと私かなりやばい人になるからやめてよね。」


麗は野乃葉が召喚したうさぎをモフりながら、視界に意識を集中させる。その間都市の建物の屋根を伝い走り回る小さなうさぎや、30匹を越える渡り鳥の群れが都市の上空を旋回している…。


「……そもそも関わりづらいわよ。優輝って責任感強いし、明らかに"勇者"ってことが重荷になってるし。なのにあいつ…」


「なんも言わねーって感じ?」


「それよ。」


特に話さない仲では無いものの、やはり南との関係のような幼い頃からの長い仲では無い以上、話しづらいことはあるし、こっちからも行きづらい。

そんな役割が本来ならば結華にあるハズなのに、結華はアルカナムに残って頑張っているのだ。だから、優輝はなかなかに吐き出せないでいる……


「一応だけど、悠真に気遣ってやってっていうのは伝えておいたけど……、悠真も悠真で問題あるのよね。うぅ…なんで私が纏めないといけないのよ!!!」


「麗ちゃん!うさ丸3611号がスリムになっちゃうー!」


ストレスのままにうさ丸3611号を抱きしめる力が強くなるが、普段の麗はこんなものだ。アルカナムの王城に居る間はどこに人の眼があるか判らない以上、弱みを見せないために気丈に振る舞っていたが、今この場には見知った仲の友人しな居ない。

……しかしこのままうさ丸3611号を絞め殺すわけにはいかないので、ひとまず腕の力を緩める。

かなり強く絞めていたハズなのに鳴きももがきもしない以上…このうさぎも例のちびすけと似たような存在な気がしてきたが…それなら逆に雑に扱おうが構わないかも知れない…。


「悠真の気遣い……あいつがそんなことするかね?」


「態度は知らないけど、『みんなお前を心配してる』っていうのを直接言った…って本人は言ってたわよ。」


なるほどそれなら安心だ。

とはならないのがその2人。特に悠真と優輝は相性が悪い。


「ま、相容れない2人だからね。今回あちこち動き回ってるのも、優輝の理想主義的な思想のせいだし…かといって、悠真の考え全部が良いってワケじゃ無いから。」


「えー、せっかく私が一緒の馬車を提案してあげたのに〜無念!」


優輝の中の勇者像がどんな物なのかは判らないが…碌なものでは無いだろう。なにせゲームやファンタジー作品の主人公と言えば大抵は友情!努力!勝利!の前提段階としてそれ以上の敗北や苦しみを味わっているのだ。

傷つき、苦しみながらももがき、足掻く姿があるからこそ作品は映えるし、深みも増す。しかし…よくよく考えて欲しいのだ。もしも自分がそんなファンタジー世界に召喚されたとて…わざわざ痛い!苦しい!を味わいたく無いだろう。出来れば楽出来るところは楽したいし、面倒なことは勘弁願う。

つまるところ(楽な範囲の)友情!(ほどほどの)努力!(あんまり難しくない)勝利!が良い。


「難儀な性格だからね、ふたりとも。……は?」


これまでいつも通りの笑顔を浮かべていた円香の表情が固まる…、《使役(テイム)》の能力による視界共有を行なっている故にその瞳こそ閉じられているが、明らかにそれは"あり得ないものを見た"故の驚愕だろう。


「まど姉どうしたの〜?」


「……」


「円香?」


「…白く、長い髪…、背格好も凄く似てる…。瞳の色までは見えなかったけど…。」


閉じていた瞳を開き、見たままを伝える…しかし、本人すらもそれは見間違いか何かだったのでは無いかと疑ってしまう。何せ、それは殆どあり得ないと思っていた事象だったから……


「南…かも知れない。」

偽南出現。

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