59 ビッグウェーブ
南がベスティア出ていく直前くらいのお話です。
「……は?今絶賛この都市出てく準備してるのに?」
「うん、『冒険者ミナミ』への最後の指名依頼だよ。」
色々あって王子様から都市から出てけと宣言されたこの俺に、コッソリ俺たちと飲みに行ったことがバレたことで簀巻き状態で寝かされているラトゥイからそんな話が出た。
さて、何故最後のという言葉が付くのかと言えば、この都市を出ていった瞬間に冒険者のミナミという存在は永久的に行方不明になるのだ。そしてそれとほぼ同時期に、何故かは分かんないけど真っ白髪の紅瞳超絶美少女が新たに冒険者として爆誕する。
そもそも登録した時男だったのが今性別変わっちゃってるからどっちにしろ再登録しても違和感は無いだろう。
「ちなみに王子殿下からの物だけど、推薦したのは僕ね。」
「なんだ?大金の出どころカモフラージュ用の依頼か?」
レオン王子から貰う予定の口止め料は俺が出発する馬車に荷物と一緒に詰め込まれるらしい。後は俺が《圧縮》でちっちゃくして、トンズラこけばオッケーだ。
「いや、貯水池関連だよ。」
「あー、だから俺なのね。」
激戦を終え、平穏を取り戻したフォレスティアではあるが…ボロボロとなった家屋以外にも一点大きな問題が残されている。それこそがあのドラゴン擬き触手エイリアン狼男の放った……放った、と表現すべきなのか?分からないけどとりあえずアイツが使ったとんでも大魔法による都市全体の水の収束。液体というのはなかなか気付かないが、非常に重量のある圧倒的な質量の塊だ。それが上空から塊になって降り注ぐというのは、隕石の落下と殆ど変わらない大災害である。
─まぁ、その収束させた水全部俺が操作乗っ取ったんだけどな。
とにかく、この都市には今水が無い。
現状なんとか都市所属の魔法使いたちでどうにかしているらしいが、一人でも魔力欠乏でぶっ倒れたら回らなくなるくらいギリギリでやりくりしている。貯水池は毎日干上がっていて、そもそも貯水が出来ていない。
そこで冒険者に白羽の矢が立ったんだろうけど…そもそも水魔法を戦闘に用いる人物は殆ど居ない。何故なら火力が出ないから。一応火魔法との組み合わせで氷にすれば色々あるらしいんだけど…少なくともそれは高位の魔法である。何が言いたいのかと言えば、魔力量が多く、それでいて水魔法の練度が高い冒険者など俺くらいしか居ないのだ。
「まぁ魔力総量自体はあの戦いでまた上がった気がするし…もう殆ど変化分かんないけど。」
「君の凄いところはその膨大な魔力の殆どを隠蔽出来てしまっているところだね。」
ラトゥイが褒めてくれるが、これに関してはこの世界に召喚された直後から特に意識もせずに出来ている。濃すぎる魔力をだだ漏れにしていると前にあのドラゴン擬き触手エイリアン狼男のせいで街中の人がぶっ倒れてた時みたいな事になってしまう。そんな事になれば俺は歩く大災害であり、即刻連行されてしまうだろう。故に俺の能力の中でも、この魔力をしっかりしまいこんで隠蔽するという物は『小鳥遊南最強能力tire表』の中でもかなり上位に君臨している。ちなみにStireはその他に大差を付けて圧倒的な容姿である。
「んで、依頼は貯水池全部に水貯めればいいって事なのか?」
「はい、ミナミ様…貴殿の慧眼通り、此度の依頼は水魔法によって貯水池へ水を貯めるという物。詳しい内容と報酬の件はそちらに改めてありますので…」
「あー、そっかルーメンスさんは王子様の使者だったな。」
いつの間にやら背後に居たのは、レオン王子の使者であるティカー・ルーメンスさん。レオン王子の使者ということは、依頼人の使者である。
何やら丁寧に封蝋までされてある手紙を受け取り、レターナイフなど持ってないので特に気にせずビリィという音を立てて手紙を破き、端がちょっと破れてしまった中身を読む。
と、手紙を読む前に脇腹辺りにちょっとした痛みが何度かツンツンされる…。
「あ…」
そこには俺を睨み付けながらレターナイフで脇腹をツンツン刺してくるウルナの姿が……いやごめんて。持ってると思わなかったんだもん。
さてさて気を取り直して詳しい依頼内容を見てみよう。ふむふむ、都市中心部の貯水池への給水と……増設された貯水池への給水………まぁ予想通りだな。………増設??
「増設って何?いつの間にそんな事したん?」
「完成したのはつい一昨日の事でありまして、増設とはいえ元あった物の旧式を動かしたという程度でありまして。水の都で水不足…前代未聞の事態であるのは事実でありますので、事態が収まるまでは停止していた旧貯水池の稼働も検討しております。蛇足とはなりますが、過去には深く掘られた井戸型の貯水層も都市にあったようでして、そちらも現在過去の地図を参照として捜索している次第であります。もしも自動発動型の『放水結晶』が残されているのであればそのままの使用も可能でありますので─」
聞いてもないことまでべらべら話してくるルーメンスさんはひとまず置いておこう…。この人コレで王族の直属の配下とか務まるのか?なんかすんごい無駄にヤバいこと話しすぎたりしそうなんだけど。
「んまぁ、貯水池の規模にも寄るよな。俺1人の魔力でホントに足りるのかも疑問だし。」
「依頼としても、あくまで都市所属の魔法使いが休む機会を作るためのものでしょうし、少しでも足しになれば良いという考えなのではないですか?」
「ま、俺で足りなきゃ追加の冒険者をギルドから引っ張ってくるでしょ。」
ってな感じで急遽決まった依頼ではあるが、正直に言って俺自身すら、自分の魔力量の凄まじさを理解していなかった。だって俺的に言うと凄い魔法>魔力量なのだ。結局のところ魔力がいっぱいあったとしてもあんま強い魔法が使えなければ意味無いって感じだし。そんな考えでひとまず行ってみたんだけど…
「ありったけの魔力でここに水を満たしてくれ。」
「ありったけ?」
「あぁ、ありったけだとも。」
いざ来てみると、眼の下に深い隈を刻んだ頬のこけた男女がそこには居た。聞いた話と整合させ、彼らが水門管理局の職員と思った矢先、挨拶する間も無く、上司っぽい人に言われたのがさっきの言葉だ。"ここ"と指を差された先は……ナニコレ?いや、景色自体は干上がったダム湖を見下ろしてるみたいな感じなんだよ。…俺がこうちょ……高所恐怖症なら間違いなく卒倒してるだろうけど…その中心、空中に浮かんでいるのはガラス玉みたいな球体だ。そこからチョロチョロと水が流れ出ている…たぶんだけど、アレが貯水槽なんだと思う。原理はイマイチ判らないけども。
さて、人間の話に戻るとしよう。
寝てない…わけじゃないだろうけど、魔力欠乏症状が抜けきってないんだろうね。いくら非戦闘員とはいえども、例のアレによって犠牲者がゼロとはいかず、そのしわ寄せが五体満足の職員に全てのしかかっている。更に言えば怪我人が多く出たせいで綺麗な水を出す事が出来る水魔法の使い手が引っ張りだこ状態。異世界じゃ無くても見る事のある、『無い』ことに対する恐怖からの買い貯めによる品薄。
まぁ、色々あってこうなってしまったのだろうが、何やら対策は立てられなかったものかね?
「そのありったけが俺の中で未知数なんだけど…大丈夫?溢れたりしない?」
殆ど空っぽの貯水池を指差しながらそう語る俺に、呆れたような、信じられない物を見るような、いやガチギレしてる?なんというか色んな感情が詰まったような視線を向けてくる……突き刺さる視線という言葉があるけど、ここまで突き刺さるのはなかなか見ない。もはや物理的なダメージすら発生しそうな視線の中、俺は魔法を発動させることにする。
とはいえここまでの量ともなると、さすがに普段のようにパッと使える低位魔法で満タン!とはいかない。低位魔法であっても魔力を練らなければ術式が崩壊してしまう。
つまり、ここまでの膨大な魔力を受け入れる事が出来る術式で、魔法を発動させる必要がある。
「すぅ……〈満たせ〉」
本来はコップに水を満たすだけという、なんとも使い道の無い魔法が、凄まじい轟音を立てながらガラス玉に水を満たしていく…
「は?」
それと同時に、ガラス玉からのチョロチョロとした水の勢いが一気に増し、見る間にダム壁の3割ほどまで届いてしまう。ゴォーというとんでもない勢いと音で迫り上がっていく水位に、思わず職員がマヌケな声を漏らした。ふっふっふ…もっと驚いてくれても良いんだぞ、今のペースなら貯水池4つ満タンにしてもまだまだ魔力が余るくらいだな。
などという思考の南ではあるが、水門管理局たちの目付きがとんでもないことになっている事に気付いていない…。連日の魔力欠乏症状による吐き気や頭痛…人によってはまともに動くことすら出来ない者も居るが、そんな中で全員の思考の大半を占めていたのは、「あー、何もせず水満タンにならねぇかなー」という物だ。
ただでさえ砂漠という雨とは無縁の環境で、周囲に河川も海も無い。こんな環境にわざわざ創られた都市は、ベスティア王都までの中継地点として商隊が利用してきたからこそ、ここまで発展した。しかしそれは、常に都市へ向かってくる商人や商隊が絶えないという事だ。フォレスティアまでの砂漠越えで水分を使い果たした商人がこの都市に溢れている。
水門管理局の負担の8割ほどはその商人たちによる水の消費量。商人といえども生身で歩いてくるわけが無い。地竜や砂獣などの砂漠でも動きを阻害されることの無い存在に馬車を引かせ、生身よりも速い速度で都市まで向かうわけだ。
さて、話は変わるが乳牛が1日どれほどの水を飲むかを知っているだろうか?気温にも寄るが、一匹100L近い水量は必要だ。………言いたいことは判るだろう、馬車を引く地竜や砂獣も、人間などよりも遥かに多くの水分を必要とするわけだ。それが水不足の今、都市を出るに出られずに停滞している商隊の数だけ存在している。水不足の今!
そんな中に現れた救世主を前に、目の色が変わるのは仕方のない事だ。そして、あっという間に満タンになっていく貯水池を見て、安堵と共に襲い来る感情はひとつ。
「……なぁ、僕らが〈貯水〉の魔法を使えば…少ない魔力の消費でしばらくは持つんじゃ無いか…?」
水魔法〈貯水〉それは水筒のように、水を保存することが出来る初級魔法の一種だ。本来は1L程度の水を保存出来るソレではあるが、魔法大国ベスティア所属であり、特に水魔法の練度に長けた彼彼女らにとっては、そんな制限よりも遥かに膨大な量の水を保存することが出来る。
水を出すよりも保存して、適宜放出したほうが魔力消費は遥かに少なく済む。度重なる魔力欠乏による疲れから、彼彼女らはいかにしてこれ以上魔力欠乏症状を起こさずに済むかしか頭には無かった。
「っし、満タン満タン。」
表面張力…まではさすがにするはずも無い。
そもそも表面ってどの辺なのか判んないし、このくらいかな?ってところで〈満たせ〉の魔法を止め、手の埃を払うようにパンパンと叩いてから、疲れてもないクセに汗を拭うような仕草をする。
これで仕事は終わった感が出るのだ。こちらにとっては簡単なことでも、「結構疲れましたよ?」感を演出することは重要だ。というわけでさっさと報酬貰って都市を出て─
「─キミ…」
ガシッと肩を掴まれ、何事かと振り向く─
「─まだ魔力はあるよね?あるならやって欲しい事があるんだよ。もちろん追加の報酬は支払うとも、コレでも僕らは拘束時間のめちゃくちゃ長い残業と、体調不良による手当ても出てるんだ!頼む、僕らを助けると思って!!お願いだよ!水の女神様!!」
「水の女神………?」
水の女神……と聞いて頭に浮かんだのは何故か湖に2本の斧を握りしめて延々とスタンバってるタイプのアレ。いや、アレは湖の女神であって別に水の女神は関係無いだろう。問題なのは褒められたり頼られたりするのは悪い気しないってこと。まぁ、正直まだまだ魔力に余裕あるし、俺の魔法は日々進化してる!
そもそもアルカナムには殆ど居ない専業の水魔法の使い手と話す機会…これは全力で引き伸ばして魔法トークをすることでさらなる進化に繋げ─
……なんかデジャヴを感じる脇腹の弱い痛み…いや、痛みですら無いツンツン具合で色々察する……。が、そこをあえてスルーする!残念だったなウルナ!その脇腹ツンツン攻撃がレターナイフで行われている限り、俺にダメージは無い!俺を動かしたいんだったらマジモンのナイフか非常に鋭利な言葉のナイフを持ってくるんだな!!
「ふっふっふ…とことん付き合ってやるぜ?まず何をすればいい?」
「………これでいいのか?」
俺の手のひらから5mほど上…ちょい見上げるくらいの位置に、に巨大な水の塊がある。
当然ながら大質量の水を出すというのは膨大な魔力を消費するし、それを操作して維持するのも魔力を消費し続ける。まぁ、それは一般的な魔法使いのお話。俺からすればぶっちゃけると水の操作だけなら魔力消費は少ないし、俺の魔力回復力を考えればお釣りが来るくらいだ。
「あぁ、ありがとう。じゃあこれから僕らは〈貯水〉の魔法でこの水の塊を保存するから…」「〈貯水〉!」「〈貯水〉…」
「っと…」
次々と発動された魔法で俺が作り出した水の塊はガンガンとかさが減る。その度に継ぎ足し継ぎ足しって感じで魔法で水を追加していく。
「減っている様子がほとんど無いな……、というよりも僕らが保存している量がおかしい?君の魔法が僕らとは違うのかな?」
「あぁ、圧縮してあるからな…見た目より質量がある。」
「圧縮?具体的にはどういう感じでだい?」
なんか凄い食い付きだな…やっぱり水魔法の使い手として水魔法談義に花を咲かせたいのか?俺は構わないぞ?魔法美少女としてお茶会を開いてやろう。昨今のダーク寄りな魔法少女路線から考えると1人ずつ席が消えていくんだろうな。一番最初はもちろん俺だ。序盤でちょっと強いヤツに殺されて、作品に味を持たせる役目。
「俺の場合はスキルとの併用だな。普通に水を出して、それを圧縮してるわけだ。」
「ほぅ…魔法とスキルの併用か。魔法使いとしてその視点は重要だ。魔法とスキルの併用だけで無く、相反する属性魔法の組み合わせでもそうだ。」
「……氷魔法とかか?」
「あぁ、あれも水魔法と火魔法の併用だね。」
その通り。色んなファンタジーを読み漁った者ならば、水魔法=成長すると氷の槍を飛ばしたりという強力な物理攻撃が使える!!と、思うことだろう。しかしながらこの世界ではそうはいかない。
そもそも氷属性という物は存在せず、火、地、風、水の4属性と、光と闇と聖属性とかいう謎要素。あとは召喚だとか治癒、結界魔法やらのレア魔法属性で全て。
どうあがいても水魔法は水を出す以上は出来ないし、最弱のレッテルからは逃れられない。ならば氷魔法とは何なのか?熱を奪う火の魔法〈奪熱〉を水魔法と併用することで、一瞬にして液体を凍らせる魔法である。
ちなみに奪った熱は再利用することが可能であり、次に発動させる火魔法に上乗せの効果を付与出来るわけだ。
「氷魔法の使い手といえば、北方のフランメ帝国のクラス11冒険者…【冬】ウィンターヘル殿だな。是非とも魔法について話をしてみたい。」
…………冬の地獄か。ネーミングセンス的に俺と友達になれそうだな。或いは冬は地獄だよね〜という名前の可能性がある。名前を付けた母親がすんごい冷え症なのかもしれない。奇遇だな、俺も末端冷え症だ。北には全く行きたくない。
「ところで、それ以上大きくする必要は無いんじゃないか?」
「んぁ?」
まだ若そうな上司さんに言われて見てみれば、俺が手のひらの上で育ててたでっかい水の塊が…更にでっかい水の塊になってる。が…
「……もう俺は水を出してないハズなんだけど?」
「…しかし、現に出てるぞ?」
さて本当だ。……なんだこれは。なんなんだこれは。
さすがの俺も魔力操作で大失敗はしないとも。いや、1回あったな…大洪水が。怪我人は出てないし、誰も不幸にはなってないけど…確かにあった出来事なのは確かだ。"怪我人は出てない"ここは重要。いいね?
「さて……このままだとどうなると思うかねウルナくん。」
「……魔力切れで南様が爆発四散します。」
いや、魔力切れにそんな作用は無い。
魔力切れになったことは無いけどたぶんそんなことにはならない。え?ならないよね?俺が知らないだけ?爆発四散するの?????
「そんなことにはならないが……、最悪…僕らはここから居なくなる。……まぁ結果はあまり変わらないかな。」
俺が操作出来てるから今は水の塊は宙にある。
でも、魔力切れになると操作は外れて水がだばーってなる。んで、流されて居なくなるんだよ。俺たちは。
「んじゃ、今のうちに操作を外す。みんな〜ちょっと離れててー」
というわけでかざしてた手を外す。
手をかざすという行為にあんまり意味は無いんだけど、俺が今魔法を発動させる時になんとなく手をかざした以上、それが魔法式に刻まれてる。意外と魔法は融通が利かない。俺が今手をかざすのを止めた場合、今の魔法を続けるなら魔法式を書き換え無いとダメなわけだ。じゃあ魔法式を書き換える工程を無視すると?
「………俺、意識せずとも魔法が使える天才になった?」
まだ宙に浮かぶ水の塊。それは肥大化し続けている。
俺は魔法を使ってない…つまり?
「俺の魔法……操作権奪われてね?」
「誰に?全く同じ魔法式を使える双子の兄弟でも居るのかい?」
さてさて、最初は直径で2mほどだった水の塊だが、今や倍の倍の倍くらいになってる。しかもこれって圧縮した水の塊なんだよな〜。
俺の魔力は減ってないのに、魔法だけが一人歩きして成長してる。…普通はあり得ない…俺はそんな子に育てた覚えはありません!独り立ちするなんて親不孝魔法め!これぞあり得ないだろ!
「っ…ひとまずこのままだとマズイ!キミは早く〈蒸発〉の魔法で少しでもこれを小さく!!」
「え?〈いば……なに?」
勘違いというのは時には大惨事を引き起こすのだ。
彼は意外と…恵まれた環境に置かれている。なにせこの国では水魔法は優遇され、研究も盛んに行われているのだ。だからこそ、国外では普通聞かない魔法も色々ある。だから……
─ぷつんと、糸が切れるように魔法が解除される。
何故か圧縮のスキルすら解除されたソレは、中心部から膨れ上がるように─
「逃げろーーー!!!!」
「…良く助かったよな。マジで。」
「怪我人も奇跡的に出ていないそうですよ。良かったですね。」
まぁ、それは良いとしよう。
ワンチャン首チョンパかと思ったが、あのレオン王太子…意外と話が判るらしく、俺はお咎め無しで済み、逆に恵みの水に感謝するとかいう謎イベントが開催されることになった。
「というわけで酒盛り2日目だな。」
と、木製の樽ジョッキを大きく傾け一気に……とはいかない。さすがにウルナの視線が鋭すぎる……というわけでチビチビ飲むとしよう。
「はぁ…僕が頼んだというか…勧めた結果こうなるとはさすがに想定外だよ。」
目の前には疲れたような表情のラトゥイ。
包帯ぐるぐる巻なのは変わらないが、あの治療オタク【激情】レティーアは聖王国に帰ったらしく、今は自由にしている。というよりも自由にし過ぎな気もする…。俺より飲んでるんだけどこの人。やめてよ、俺も飲みたくなるから!!
「ふぅ、楽しかった〜!あ、南くんそれ一口ちょーだい!」
俺の手からジョッキを奪ったのはもちろんキアラ。どうやら水没した都市で泳いできたらしいが…そこまで深く無いだろ。せいぜい腰くらいの深さ…いや、結構深いな。場所によってはもっと深いだろうし。
「それ酒だぞ。またここで寝るなよ?」
「おいおい、クラス5の冒険者を舐めんなよー?僕は毒にも強いんだから。」
などと言ってはいるが、既に顔は赤いし…一口でコレってもう飲んだらダメな人だよ。吐く前に寝るからいいとして…。
さて、キアラからジョッキを返してもらい、またチビチビと酒を飲む。
「にしても、君の魔力が膨大とは言え……ここまでの魔法災害になるとは思えないんだ。」
キアラとの絡みが一段落したとみて、ラトゥイが本題として話し始める。やっぱそうだよな?俺の魔力は確かに馬鹿ほどあるし、普通に《錬成》使ってるだけだと自己回復が勝ってしまう。
総魔力量だけじゃ無くて、体内で生成され続ける魔力量もとんでもないらしい俺ではあるが、都市を水没させたアレに関しては、途中から魔力は減ってなかったし、そもそもあそこまでの量はムリ……だよな?たぶんムリなハズ。
「……ラトゥイ的にはどう思う?なんか魔法の操作権奪われたっていうか…途中から魔力は減ってないのに水が出続けてた…っていうか。」
「えー、そんなことあり得るの?そんなこと出来ちゃったら僕でも魔法を使うモンスター完封出来ちゃうけどな。」
「…キアラってソロだろ?普段はどうしてるんだよ。」
「ん?そりゃもっちろん、こうやって武器を構えてー無理やり距離を詰めるんだよ!!」
なんつー脳筋戦術使ってやがんだよコイツは…。
さすが異世界ファンタジー、人間の耐久力までファンタジーだったわ。
「はぁ…話を戻すけれど。普通に考えて魔法の操作権を奪われるというのはあり得ない。理論上では魔法式に全く同様の魔法式を重ねることで操作を奪える…という物だけれど…。魔法式というのは目に見える物では無く、術者の頭の中で刻む物だ。単純な計算とかでは無い以上…、どうしても術者本人の思考に左右されるから、常に一定では無くて、魔法式そのものに流れる魔力量も不安定…。昔に何処かの学校で研究されてた時期もあったらしいけど…全く結果が上がらずに打ち切られたらしいよ。ちなみに僕も開発しようとしたこと自体はある。アプローチ自体は違うけれど…結果は同様。不可能だった…………………寝てる?」
「え、ぁ?いや…寝てないぞ。全然全然…。」
「寝てましたよ。」
「くー、くー、」
ほらな、寝息を立てているのはキアラ1人だけだ。よって俺は寝てないんだよ。話は変わるんだけど、なんで午後の授業ってあんなに眠くなるんだろうか?ちなみに俺は昼前も寝てる。特に古文とか、化学とかは無理。いつの間にか意識が途絶えちゃう。
「まぁ、要するに…完全なる同一人物が居たりしない限り不可能みたいな話だろ?」
「…まぁ、そうなるかな。最低でも血の繋がりくらいは無いと可能性すらゼロだよ。」
「父さん、異世界に隠し子作ってたか……。」
「絶対違いますね。」
南が去った後に水門が暴走するか、今の展開にするかでかなり迷っていたので、こんな変なタイミングで差し込みになりました。




